レジーナ・スペクター @ アストリア、ロンドン (16th Feb. '07)
天使の微笑み、悪魔の囁き
現代の女性シンガー・ソングライターには確立した個性を持った人が多い。ハスキー・ヴォイスでメロウな音を奏でるベス・オートン、愛らしい顔立ちながらブルージィな渋みで心の叫びを表現するキャット・パワー。今夜アストリアに立つロシア出身のレジーナ・スペクターも、流麗な調べのピアノに、捨て鉢な言葉やうめき、うなり声を上げ、その吐息でさえも音楽に変えてしまう不思議な歌い手だ。
黒いシックなドレス姿の彼女、アカペラの"エイント・ノー・カヴァー"でショウを幕開ける。張りつめる様な空気の中で、柔らかで、けれども時折神経質そうな色を帯びるその歌声が会場の人々を包みこむ。マイクロフォンを指で叩く音も、溜め息、意味の無い呟きをも取り込む彼女らしいパフォーマンスはさながら一人芝居を観ているかのよう。ドラム・スティックで椅子を叩き、単調なピアノのコード進行に誰かにおしゃべりでもする様に歌う"セイラー・ソング"、バンド・サウンドを加え弾むスタッカートの"ベター"で無邪気な明るさを見せる一方で、"エイプレ・モア"の一人ピアノ弾き語りでは圧巻なまでの声量と、安定した広い音域が支える中で破裂しそうな気持ちの昂りとやるせなさをぶつけ、胸をえぐられる様なそれにはまさにジョニ・ミッチェルの如し悲哀を感じた。
ロック、フォーク、はたまたラップなどの多彩なジャンルを物語のような言葉に乗せて表現するこの彼女独特の世界には、その根本として幼少時からのクラシックの素養が深く根付いているように思える。古典の基礎があってこそ体現できる応用音楽とでも言おうか。中盤に出だしで失敗したレジーナは「ピアノってそもそも何にも反応がないのよね。だからあたしはこんなにロックン・ロールな奴ってわけ。」とうそぶき、ショウの主催であるNMEに対しクソくらえと悪態をつく。可愛い顔して口の悪い歌姫だけれども、最後にありがとうと、ちょこんとお辞儀するそのチャーミングさが全てを一蹴。恐いくらいに魅力的な彼女に参ったのは多分私だけじゃなかったに違いない。
-- setlist --
Ain't No Cover / Summer In The City / Baby Jesus / The Flowers / Human Of The Year / Poor Little Rich Boy / Bobbling For Apples / That Time / On The Radio / Sailor Song / Apres Moi / Better / Carbon Monoxide / Mary Ann / Fidelity
-- encore --
Your Honour / Field Below / Us / Samson / Love You Are A Whore / Hotel Song |
report and photos by kaori
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