キャレキシコ @ 福岡ソウル・バード (19th Jan '07)
飾らないオトコ達の職人芸
去年の夏、イギリスはウェールズで開催されたザ・グリーン・マン・フェスティバルに行ってきた。ドノヴァンやバート・ヤンシュといった今の日本ではなかなかお目にかかることのできない大物を始め、グリフ・リース、キング・クレオソート、アーデムなどのウェールズ、フェンス・レコーズ、ドミノ・レコーズというこのフェスティバルのキーワードが浮かんでくるアーティストが数多く出演していた。そのフェスティバルの最終日に大トリとしてステージに出演したのがキャレキシコだった。何十キロも連なるウェールズの山と澄み切って高く広がる闇という情景をもキャレキシコの一部としてしまう音楽にはフェスの終幕を飾るにはふさわしいただただ圧巻のステージを見せてくれた。あれから半年もたたずして、息づかいをも肌で感じることのできる小さなハコでの至近戦を日本で観ることのできるチャンスが到来した。地元関西から一足延ばし、ツアー初日となる福岡はソウル・バードにやって来た。
たった今、ライヴが終わったところで、また私の手には手拍子の名残の暖かさが残っている。それは賞賛のために手を叩きすぎたからだけではない。キャレキシコを観るためにここへ来たと言ったら笑われそうだけれど、そうやって私を笑う人を、鼻で笑ってお返ししたい。マリンバやトランペット、マラカスにギター、ドラム、コントラバス、ペダル・スティールという楽器が私を迎えてくれて、それだけでワクワクしてしょうがなかった。開演時間になると、ジョーイとジョンが2人で静かに始めた。あれ? アイアン・アンド・ワインは? どうやらダラス空港が閉鎖されたため、来日が予定よりも遅れているため、残念ながら今日のライブには間に合わなかったということだ。残念ではあるけれども、そういうことなれば仕方がない。
テーブル席には私と同じ年頃の人たちから、親世代にあたるような人もいる、そして外国人のお客さんも多い。2人で始まったライヴは1曲ごとにメンバーが増え、6人がメンバーの数よりも多い楽器を手に持ち替え、立ち位置を替え今日のためのストーリーを繰り広げていく。それぞれが職人のように楽器と向き合う。何種類ものスティックをしなやかな手つきでさばくドラム、ギターのアームとは違う深海の音を再現するようなペダル・スティール、同じ低音でもベースとコントラバスを使い分け、異なる厚みを表現し、時として、3本のギターが和音を形成し、鍛え上げられた口輪筋から潔く発声するトランペット、そしてハーモニカにマラカス、マリンバがスパイスを加える。それぞれの職人技を観ているだけでももう楽しくてしょうがないのだけれど、ふと気づくと目だけではなく、身体までもがどんどんとキャレキしコの音楽そのものに飲み込まれて、前へ前へと引き込まれていくのであった。こんなに自分の鼓動にリンクする暖かい血の流れるどくどくとした脈を感じるライヴに行き当たることはなかなかない。こんなお上品に座っている場合じゃないよ、と何度思ったことか。周りを見渡すと、同じように目をキラキラさせながら、足だけではなく、肩が、頭があちこちで揺れているじゃない!
"クリスタル・フロンティア"にてステージを去るも鳴り止まない拍手に、もう1曲だけやってもいい? とスタッフに確認するジョーイ。よし、(演奏する曲を)決めた! と再びアコースティック・ギターを弾き始め、最後は6人が一列に並んで肩を組み、ありがとうと繰り返した。
キャレキシコが音楽を通して伝えるのは今、全ての人を取り巻く様々な状況を悲観した言葉であることがうかがえる。それも揺るぎない現実なのだけれど、その言葉とは裏腹にキャレキしコが奏でる音からは、そういう類いの悲観とは真逆の本来、生命あるもの全てが持つ、その命を生き抜くための潜在能力である生命力なのだろう。不都合な事実から目をそらせることにより、安堵を得るのは癒しではない。それよりも先の見えない現実を悲観しながらも、逃げることなく生きる力を与えることこそが本当の癒しというものではないだろうか? 私が今日のライブによってえた手の温かみにはキャレキしコが与えてくれた生命力が含まれているのだ。ツアーはまだ始まったばかり、アイアン・アンド・ワインもまだ観ていない。毎回異なるセットリストでオーディエンスを魅了してくれる彼らを大阪でも観ようじゃないか! これから岡山、金沢、大阪、名古屋、東京とキャレキしコを観るチャンスは何度もある。迷っているのなら、このチャンスを逃さないで会場に足を運んでほしい。
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