面影ラッキーホール @ イーツ・アンド・ミーツ・カイ (8th Jan. '07)
格差社会のブルース
会場のEATS and MEETS Cayは、以前は単に青山CAYといっていたはずだ。名前が変わっても中身は同じ。表参道という場所柄オシャレな雰囲気のあるライヴハウスである。そんな会場にお客さんがいっぱいである。長らく新作も出ない、派手な宣伝もない、CDが出ている当時だって知る人ぞ知る存在だったし、オフィシャルHP(活動を伝える熱心なファンサイトも)すらないという、面影ラッキーホールがこんなにお客さんを集めるとは意外だった。「活動数に反比例して認知度が上がっていく」という何とも不思議な状況だったということだ。
会場に入ると、DJ秘密博士がムードコーラスとか野坂昭如とか変な昭和歌謡などを流している。ピンク色の妖しい照明の下、バンドを待つ。誰のヴァージョンかわからないけど、"マイ・ウェイ"が流れてメンバーが登場し、演奏が始まる。長いギターソロがあってヴォーカルのアッキーが現れると歓声が大きくなる。アッキーの両脇に女性のコーラス隊とホーン隊を揃え、両手に花状態だ。まずは"今夜、巣鴨で"。老人に恋した少女が宇能鴻一郎的な官能の世界に溺れる話を、怒涛のファンクに乗せて歌われる。すごい。本当CDで聴くより何倍もの迫力だ。
人力ヒップホップやねっとりとしたムード歌謡、そしてゴリゴリのファンク、ジャズと、さまざまな音楽の要素がある。そんな音に乗せる言葉が耳にまとわり付いて離れなくなる。どんな歌詞かというと、ヤンキー、やくざ、水商売などの世間の片隅でうごめく男と女のやる瀬ない姿を描いたものだ。それは、ブラック・ミュージック――ジャズ、ブルース、ソウル、ヒップホップが身の回りの社会や男と女の情を歌ったように、面影ラッキーホールはブラック・ミュージックをスタイルだけでなく、その精神を受け継いでいるのである。
そうした音楽を、ヴォーカルのアッキーが笑いでくるんだショーとして見せてくれる。茅ヶ崎の砂が混じりそうなサザンオールスターズのパロディであり、畑中葉子の名曲のタイトルが歌詞に出てくる"たまプラーザ海峡"で第一部が終わる。
休憩のときには、DJ秘密博士がかけた曲に合わせて股旅姿の岸野雄一さんが踊るというなんとも腹のよじれるステージが繰り広げられる。"ゴッドファーザー愛のテーマ"(日本語詞)とか坂田三吉がどうのこうのという演歌とか選曲もハチャメチャで最後のクィーンの"ボヘミアンラプソディ"では拍手喝采だった。
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そして第二部の始まりは松山千春のカヴァーで"恋"。物まね的に始まった歌い出しから、分厚いホーンがかぶさるとアメリカンロック風の迫力ある演奏になり、アッキーがシャウトするとオーティスが乗り移ったかのようだった。ものすごいエモーションで松山千春を完全に食ったのだ。このカヴァーはこの日唯一素直に感動したかも。この日の選曲はアルバム『代理母』を中心に過去の曲が演奏される。CDが発売された当時(1996〜1999)より、格差社会、下流社会といわれる今の方が歌詞の世界を一層リアルに感じさせるのだ。(余談:2000年当時でこのことを指摘した人はいる。こちらを参照)。
アンコールは、バブル崩壊後の東京で、それでも享楽的に遊ぶクラブシーンを描いた"東京 (じゃ)ナイトクラブ (は)"、そして、最近なら駒大苫小牧ナインに捧ぐ(?)不祥事を起こした高校球児を歌う"俺のせいで甲子園に行けなかった"。ダンスでファンクな曲の連発で、フロアは大盛り上がり。「おれのせいで〜、おれのせいで〜、甲子園に行けなかったぁ〜」というサビでの一体感! 変なねっとりとした世界に酔い、ギャグに笑い、ファンクに踊り、そしてちょっと考えさせられる面影ラッキーホールの本格復活を大勢のお客さんと共に歓迎したのである。
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report by nob and photos by naoaki
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The official site
unknown
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