カサビアン @ アールズ・コート、ロンドン (19th Dec. '06)
皇帝、降臨すれども統治せず
ファースト・アルバムの出来があまりにも素晴らしく、その後の期待にかかる重圧からか以降の作品が凡庸に終わり、風のように消え去ってしまうバンド、ミュージシャンはいつの世も絶えない。わけても、今のUK音楽シーンは、バンドに限って言えば一頃のブリット・ポップ・ブームを彷彿とさせるほどに新しいグループがぞくぞくデビューしては、その一時的な熱狂にどさくさ紛れで食い込むものの、後が続かないことの方が多いし、冷静に音楽そのものを聴けばそれが自然と納得できるのが、悲しいかな事実でもある。カサビアンは一枚目のアルバムが本国はもちろんの事、日本でもプライマル・スクリームやオアシスの沈滞ぶりに業を煮やしていた人々の注目を一身に浴び、着実にライヴ評を高めつつ次作を期待されていた中堅バンドの一つだ。今回国内チャートで一位となったそのアルバム『エンパイア』を引っさげた、堂々のアリーナ・ソールド・アウト・ツアーは果たして観る価値ありか気になるところであった。
映画、「時計じかけのオレンジ」のSEをバックに広いステージの中央を陣取るのはなんと花形ギタリスト、セルジオである。フロントマンのトムの姿はなく、インストルメントからの幕開け。しかし、グルーブ感溢れ、のっしりとした重い音に観客は興奮している様子だ。歓声はトムが登場したことで一気に沸く。2作目を中心に、打ち込みのビートを多用したより簡素でメロディックな曲が続き、トムの観客の盛り上げ方も大層サマになってはいるものの、喉の調子が悪いのか声が出ておらず、相方のセルジオが終始カバーしていた感が否めない。というよりも彼らを良く知らない人が観たならば、てっきりセルジオがシンガーではないかと勘違いされてもおかしくないほどの助っ人ぶりであった。まるでピークを過ぎた現在のジョン・ボン・ジョヴィと、それに反して自らの歌唱力を惜しげもなく披露し続けるリッチー・サンボラのように、このコンビネイションはどこか見ていて複雑だ。セルジオがヴォーカルを取った"ブリティッシュ・リージョン"など、彼のソロ・コンサートと見なされても不思議ではない。歌そっちのけで神の御加護をと唱え、やたらに天を仰いでばかりいるヴォーカル、トムがちと頼りなさ過ぎである。
アンコールになってようやくバンドとしてのノリが生まれ、エナジー満載の演奏に身をくゆらす大興奮の観客と彼らの集中力の漲ったパフォーマンスが絡み合い、体の奥に響く野太い音が会場一杯に解き放たれる。アリーナの聴衆に何度も、今までで最高のギグだと言い聞かすトムであったが、実際のところはこれで最高なら、次はないぜよカサビアン、と突っ込みたくなる消化不良の感否めず。憎らしいほどにクールで華と色気を兼ね備えたギタリストと、気の強さが魅力のヴォーカルというこのコンビ2人でもっているようなバンドだけに、仲違いでもされた日にゃ後がない、そう感じさせられた肩透かしのアリーナ公演。エンパイアと賛辞さるるはまだ先の話か。
-- setlist --
Brown Acid / Shoot The Runner / Reason Is Treason / Sun Rise Light Flies / Cutt Off / Me Plus One / By My SIde / Empire / Seek And Destroy / British Legion / Processed Beats / Last Trip(In Flight) / The Doberman
-- encore --
Apnoea / Club Foot / Stuntman / L.S.F |
report and photos by kaori
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