buttonアラブ・ストラップ @ 京都メトロ (14th Dec '06)

歌い手は酔いどれがちょうどいい
Arab Strap

 本当にこの人達、解散する気あるのか? そしてこの人達が解散すること知ってる? ねぇ、みんな! 確かに平日にしては開演予定時間が18:30と早かったのもあるけれど、開演10分ほど前に会場のメトロに着いて、重たいドアを開けると向こうに広がるのはガラガラのフロア。アラブ・ストラップの拠点となるグラスゴーのライヴでキャリアを終了させる……解散のニュースを聞いた時、結局ライヴを観ることができないことを残念に思いながらも、その終わり方には納得ができた。ところが本国でのさよならツアー後、本当の意味での最後のツアーを日本でするという! それは何がなんでも行かないと! しかも関西にも来てくれる! しかも京都にも来てくれるのだからと胸を躍らせて向かったのに少し肩透かしにあった気分にもなったけれど、これが京都の人のペースなのか……サポート・アクトの演奏が始まり、セット・チェンジが行われる頃には、たくさんの人が集まってきていた。

Arab Strap 伊集院光が長い間、声だけで多くのリスナーを魅了してきて、初めてブラウン管で伊集院光という動く映像をさらけ出した時、伊集院光という完全無可決なキラキラしたアイドルのような名前の響きと、目に飛び込む伊集院光という映像のギャップに、多くの騙された感を産んだというのは有名な笑い話であるのだけれど、昨日のアラブ・ストラップのライヴではそれに似た感覚を覚えて、微笑まずにはいられなかった。音のバランスを整えられたアルバムよりも断然ええ生声の持ち主、エイダン。その声の振動がは内臓の奥底にまでしっとりと染み渡たる快感を与えてくれるも、ステージに目をやるとまたひと回り大きくなった気がする毛むくじゃらの男がマイクを手にしている。とにかく手持ちぶさたな時間が嫌いなのか、ドラムに歩み寄り、ステージに背をむけ、キーボードをお尻で弾いては、メンバーに"ノー"と一喝されてみたりと、ここにも大人気ないスコットランドの大人の男がひとり。隙あらばビールに手を伸ばす。曲の合間にもまたビールをひと飲み……そしてステージから消えるエイダン。そしてフロアを逆走してトイレに向かうエイダン。何もなかったかのようにステージに戻るエイダン。これが本当に解散を決めたバンドなのか? ということ以前にこれは本番のライヴなのか? と、人間臭さ溢れるアラブ・ストラップて愛おしくて仕方なかった。

Arab Strap スロースターターであったり、頭数曲はマルコムのギターの音がほとんど聞えない状態であったものの、エイダンのビールの量と酔いどれ具合に比例するのに合わせて、ライヴ中盤になってやっと本来の彼らなりのライヴのペースに乗り出したのだろうか、「今日は清水寺に行ってきたんだよ。あそこは本当にキレイなところだね」なんてことを曲の合間にしゃべり出した。新旧織り交ぜてのまさにアラブ・ストラップの10年間の総括な流れのなかで、「これが最後の曲だよ」と"ザ・ファースト・ビッグ・ウィークエンド"でアンコールを締めたのだけれど、アラブ・ストラップを求める拍手が鳴り止まず、再びステージに戻ってきた。ステージにはアコースティックギターを手にしたマルコムと変わらず酔いどれなエイダンのたった2人。アルバムではストリングスで壮大な装飾をしている"ザ・シャイ・ルティレ "と"(アフターヌーン) ソープス"をシンプルな2本のスポットライトに照らされながら、たった2人で演奏した。10年前、きっとこうやってたった2人でああでもない、こうでもないって言いながらギターをつま弾き、それに合わせて歌って……というようなアラブ・ストラップの始まりを想像させるような光景だった。この律儀に見えるマルコムとただの酔いどれと化したエイダン、静と動、光と影……相対するいい意味でのアンバランスが次々と脳裏に駆け巡るライヴだった。フロアではゆったりとした一定の速度でミラーボールが回り続け、そのなかをタバコの煙がゆっくりとゆっくりと上昇しやがては消えていく。その儚さが、昨日のアラブ・ストラップと重なり合い、最後はたった2人で静かにライヴを締めくくった。再び鳴り止むことのない賞賛がフロアを包むも、またフロアを逆走するひとりの大男……それはトイレに向かうエイダンであった。
 
"ARAB STRAP LAST JAPAN TOUR"

12月11日: 渋谷O-nest w/ The Primrose、YOMOYA
12月13日: 鰻谷SUNSII w/ Vampillia
12月14日: 京都METRO w/ Yasushi Yoshida
12月15日: 名古屋KDjapon w/ asana
12月17日: 渋谷O-nest w/ OGRE YOU ASSHOLE、bloodthirsty butchers

*詳細はhttp://www.ultra-vybe.co.jp/arabstrap/でご確認下さい。


reviewed by kuniko and photos by imzumikuma
なお、写真は東京公演のものを使用しています。

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