中川五郎 @ 下北沢ラカーニャ (4th Dec. '06)
父の日記帳
僕は、目上の人間が情けない様子になっているのは好きじゃない。後輩による押し付け以外の何物でもないが、僕は先輩諸兄に常に「カッコよく在ってほしい」と思っているからだ。そんな考えの人間が、父親ぐらい年の離れた人間の「告白」を聴きに行くという挑戦が、このレポートのストーリーである。
会場の下北沢ラ・カーニャは、常連さんが「おお、こんなに!」と驚くようなほぼ満席の空間になっていた。おかげでお客さんと中川五郎との距離はギターがぶつかりそうなほどの近さだったが、感じた近距離感は物理的側面だけではない。グラスワインをちびりと呑み、近況報告を行う中川に「相変らずだねえ」といった趣の笑いが起こる。ああ、段差の無いステージに立ったミュージシャンと見慣れたお客という構図から感じるのは、親密という名のグルーヴかしらん。彼のパーソナルな内容の歌が成り立っている環境の一端に触れた気がした。
この日はアルバム『そしてぼくはひとりになる』発売記念ライブと題された通り、収録された全曲が旧譜カバーと共に披露された。中川イサトを始めとするレコーディング・メンバーが多く招かれ、2時間以上にも及ぶライブを通じ、ステージ上では頻繁に編成が変えられたが、サウンド自体は右往左往せずにアコースティックの感触が安定して響き渡った。
そんな音色に乗せて彼がマイクから吐露したのは、どこまでも正直な50代男性の等身大。妻子を捨てて選んだ若い女性とまで別れ、今やまぶたの裏の残骸がもたらす愛惜が多くを占める新譜の「名は体を表す」ぶりという「ありのまま」だ。それは幸せだからこそ別離を歌える20代デュオ・ハンバートハンバートの"おかえりなさい"すら冬枯れの哀愁に変貌させる程であり、僕には非常に堪えた。
中川の歌が耳から入り込んで、若者のアツレキロックとはまた違うヒリヒリとした気持ちを僕の中でこねあげていく。ああ、駆け引きや達観ではない、純粋さを持ってしての大人の恋歌の何とせちがらいことだろう。などと書いていると「ウブなネンネじゃあるまいし」と指摘を受けそうだが、とにかく客観に徹する事が不可能なほど、その切なさが伝わってくるのだから仕方無い。高尚な語彙などで誤魔化せばいいのに、フォーク・サウンドに乗ってやってくることばは、初めて出会った僕にまで生活のにおいまで届けてくれてしまう。伝わってくる大人の侘びしさが、とても辛かった。
そんな具合に、激情とは趣の異なる力強い叙情性が僕を大きく揺さぶったわけだが、MCなどお客さんとの和やかなやり取りに緩衝されることで音自体を楽しむ余裕は保たれていた。印象に残っているのが"はなれていれば思いはつのる"の時で、これはまあ彼と言うよりゲスト・ヴォーカルの金子マリに焦点がいってしまうが、彼女が加わった事で全体の空気が活気づき、そこから「自由とは何も無いことさ」と歌うラストの"ミー・アンド・ボビー・マギー"までの流れは右肩上がりに若々しさを増していったように感じた。
この夜の出来事は、未だに根強く引っかかっていて、思い出すのは歌っている時の彼の赤く潤んだ目だ。言い換えれば、1人の人間を受け止めた重みを忘れられないといったところだろうか… こんな違和感は、フォークに触れて日の浅い僕の中でいつか芸術と昇華されるか、それとも嫌悪感で終わるか定かではない。ひとつだけ確かなのは、私は彼から人間と言葉の力を思い知らされた、ということだ。なるほど、先輩とは実に物知りな生き物である。
-- setlist --
1. 父の日 / 2. 恋人のように / 3 きみがいなけりゃ / 4. 水に流せば / 5. 眠られぬ家 / 6. 寂しい夜のオルゴール / 7. 26年目の*****(フェルナンド) / 8. サンタは家には帰れない / 9. ファーブルさん / 10. 2005年4月16日 / 11. そしてぼくはひとりになる / 12. おかえりなさい / 13. 今夜君はどこにいるの / 14. はなれていれば思いはつのる / 15. ビッグ・スカイ / 16. Goodbye Nakamura(国吉亜耶子) / 17. ミー・アンド・ボビー・マギー
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report by ryoji and photos by hanasan
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父の日記帳 : (06/12/04 @ Shimokitazawa La Cana) : review by ryoji, photos by hanasan
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50歳の子供 : (04/02/01 @ Shimokitazawa La Cana) : review by rad, photos by hanasan
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