U2 @ さいたまスーパーアリーナ (30th Nov '06)
悪魔とダンスする聖人たち
U2が8年ぶりに日本に来る。自分は過去2回、Zoo-TVツアーとPOP MARTツアーでのU2を観ていて、特にZoo-TVツアーでの東京ドーム公演は、今までに自分が体験した中で最高のライヴだった。
待っている8年の間に、海外でおこなわれているライヴがすごいという話は伝わってくるけど、スケジュールが合わないのか、経費のせいか、なかなか日本には来ない。ここ数年、『オール・ザット・ユー・キャント・リーヴ・ビハインド』、『ハウ・トゥ・ディスマントル・アン・アトミック・ボム』という充実したアルバムを出して期待が高まっていてようやく今年の1月に来日のニュースがあった。早速、自分はチケットを手に入れて期待がどんどん高まっていく。ところが、4月の横浜・日産スタジアムのライヴはメンバーの都合によりキャンセル。つくづく日本との縁のなさを感じさせられた。そして、夏に、ようやく4月の振替え公演が決まると、さいたまスーパーアリーナ3日間に変更させられた。スタジアムでなく、アリーナクラスなら、エレベイション・ツアーの再現か!? と色めき立つ。再びスタジアムクラスでライヴをおこなうようになったU2をアリーナで観ることができるのだ! 過去3回が東京ドームだったので、これは(比較的)狭い会場で観られるチャンスなのだと、思った人は多いはず。そして待ちに待った11月30日がやってくる。
【なぜU2が重要なのか】
その前にU2がなぜ、これほど重要なバンドなのかを書いておきたい。ライヴレポートを読みたい人は読み飛ばしてもらって結構。
U2は現役のバンドの中では世界最高だといってよい。80年代にブレイクしたロックバンドで、今まで生き残り、世界中でスタジアムクラスのライヴができ、社会的な問題に対して真摯で、音楽的にも素晴らしいアルバムを作り続けているバンドは、他に探せばレッドホット・チリペッパーズくらいしかいない。
また、自分たちが社会にどう関われるかを追求しているバンドである。自分たちの知名度を利用して、アムネスティの広告塔になったり、さまざまな政府や機関から最貧国への援助を引き出したりしている。ジョージ・ブッシュや安倍晋三と握手するのを批判する人も多いけど、何を優先順位にするかということを考えた結果なのだと思う。今でもアフリカで貧困によって子供が死ぬのなら、すぐ金の出るところから引き出してやろうというリアリズムなのだ。
アンウンサン・スーチーを歌った"ウォーク・オン"や「もし、イラクに派遣されているアメリカ軍がニューオリンズの救援に向かったら」という愚直な発想を映像化したプロモーションビデオの"セインツ・アー・カミング"を観れば、メンバーの本心がどこにあるのか分かる。12月1日のニュース23に出たボノは、ブッシュや安倍など各国首脳と握手するのは、「目的のために悪魔とランチする」ことも辞さないということを語っているのだ。そしてそれが「非常にカッコ悪いのは分かっている」とも言っている。そうした現実的な認識は、相手を批判するだけでなく、交渉して妥協して実効性のあるものを引き出すための真摯なものなのだ。
もちろん、活動ばかりで本業がダメになるということはなく、最近の2枚のアルバム『オール・ザット・ユー・キャント・リーヴ・ビハインド』、『ハウ・トゥ・ディスマントル・アン・アトミック・ボム』は名曲揃いで、キャリアを重ねた今の方が音楽的に全盛期なのだと思えるのだ。決して過去の遺産で食っていくバンドではない。『ジ・アンフォーゲッタブル・ファイアー』、『ヨシュア・ツリー』、『ラトル・アンド・ハム』のアメリカのルーツに触れた時期、『アクトン・ベイビー』、『ズーロッパ』、『ポップ』のように当時流行ったダンス/テクノへの接近、コールドプレイやKEANEなどのU2のスケール感を受けついだバンドや、ストロークスやハイブスのようなロックンロールの熱気を復活させたバンドたちに触発された最近のアルバムと、常に時代を意識していながらちゃんとU2の色を出して、自分たちのメッセージも忘れない。
【広く、深く、大きくなったU2】
そして、さいたまスーパーアリーナ。会場はほぼ埋まっている。自分は、アリーナAブロックのアダム側の花道近くのポジションで観ることができた。この辺りは押し合うこともなかった。さすがに年齢層が高い。それにしても、こんなに近くで観られるなんて! と感激するくらいの距離だった。ライヴは"シティ・オブ・ブラインディング・ライツ"、"ヴァーティゴ"、"エレヴェイション"という最近のツアーでは定番の流れで始まる。"ヴァーティゴ"や"エレヴェイション"では早くも大合唱が起こる。そして"ニュー・イヤーズ・デイ"だ。今回の来日公演の3日間では、この日だけ演奏された。あの何度聴いたかわからないベースラインを弾きながらアダムが目の前の花道を歩く。それだけで夢のような出来事なのだ。亡き父親に捧げた"サムタイムズ・ユー・キャント・メイク・イット・オン・ユア・オウン"も、クリスチャンとユダヤとイスラムの共存を訴え、巨大なスクリーンに漢字で「共存」と映し出した"サンディ・ブラッディ・サンディ"も感動的だった。
だけど、ピークは"ミス・サラエヴォ"からラストにかけてであった。"ミス・サラエヴォ"はテノールのオペラ歌手であるパヴァロッティとデュエットしたのがオリジナルだけど、ライヴではボノがひとりで歌う。ボノがパヴァロッティと遜色なく歌い上げるのにも、心動かされるのだけど、巨大なスクリーンに世界人権宣言(日本語訳)が映し出されたところが感動的だった。U2のメッセージと音楽の素晴らしさが人を揺さぶっている。そして、マーティン・ルーサー・キング牧師を歌った"プライド(イン・ザ・ネーム・オブ・ラヴ)"、アフリカの国々の国旗がスクリーンいっぱいに映し出される"ホエア・ザ・ストリート・ハヴ・ノー・ネーム"で涙が流れて止まらなかった。思えば中学生のときに『ジ・アンフォーゲッタブル・ファイアー』を聴き、高校生のときに『ヨシュア・ツリー』を聴いていたおれは思い入れもあるし、U2が変らずこうして演奏していること、自分がこうしてライヴ会場で聴いていることそのものが涙を流させたのだと思う。
そして本編ラストの"ワン"でボノは会場のお客さんたちに携帯電話を掲げさせて、その灯りで「ミルキーウェイ」を作らせる。会場を埋め尽くす光、光……。少し間をおいて、アンコールは"ザ・フライ"、女の子2人をステージに上げて"ミステリアス・ウェイズ"、そのまま2人と横たわって"ウィズ・オア・ウィズアウト・ユー"。新曲"ウィンド・イン・ザ・スカイズ"を経て、"ディザイアー"〜"オール・アイ・ウォント・イズ・ユー"を大合唱させてライヴを締めた。
あまりの素晴らしさに感激。今までと変らないU2と、常に進化しているU2を同時に見せてくれた。このままでは気持ちが収まらない。そのため、12月4日の最終公演もどうしても行きたくなった。29日、30日のライヴを観てもう一度行きたくなった人や、行った人たちのネットの書き込みを観た人たちが急遽チケットを押さえに走って、一時は売り切れになっていた。いろんな掲示板で「チケット譲って」の書き込みの嵐だった。
当日、ネットを見ていると、まだチケットが買えるとの書き込みがあり、急いで近くのコンビニに走り確保に成功する。そして、また、さいたまスーパーアリーナに行ってしまったのだ。今度はスタンドで、しかもサイド席だったので、ステージは見えるものの、スクリーンは全く見えない。ドラムのラリーも機材の隙間からしか見えない。だけど、全然後悔しない素晴らしいライヴだった。
基本的な流れは30日と同じ。だけど、"アウト・オブ・コントロール"という初期の曲をやってくれた。そして"アイ・スティル・ハヴント・ファウンド・ホワット・アイム・ルッキング・フォー"を演奏する前に、ボノは大阪にある安藤忠雄設計の「光の教会」に行った話をする。あと"バッド"をやったのが30日との違いだった。やはり"ホエア・ザ・ストリート・ハヴ・ノー・ネーム"では泣いた。"ワン"では携帯電話で「クリスマスツリー」を作る。
アンコールの"ミステリアス・ウェイズ"では「京都からの友人」として舞妓さん3人がステージに上がる。この日は"セインツ・アー・カミング"もやってくれた。そして、注目のラストは、なんともう一回"ヴァーティゴ"をやる。もっと他にやって欲しい名曲いっぱいあるじゃん、と思いつつも、やっぱりこの曲はよい!! 思わず歌って踊ってしまう。ロックンロールで会場を沸かせて日本公演を終らせたのだった。
やっぱりU2はスケールが大きく、音楽を通じて世界に触れられる稀有なバンドである。しかも、音楽的にも人間的にも大きくなったような感じがした。初期のいかなる不正も許さないというようなストイックな姿勢から、「妥協という言葉は美しい」(ニュース23のインタビューより)へ。つまりU2は、ブッシュなどの悪魔とダンスする聖人なのだ。もちろん、悪魔とダンスする以上、相手に利用されるという危険が伴う。だけど、今まで誰も、ジョン・レノンやボブ・マーリーですら成し遂げたことのない「ロックで世界を変える」という壮大な目標に向かって進んでいく姿をしっかりと胸に刻んでいったのだ。
ボノは以前、ライヴで白旗を振っていたのだけど、今回のオープニングでは日の丸を掲げてボノが登場し、「ウツクシイクニダ」と語るように、日本のナショナリズムにもためらわずに触れる。だけど、それはボノが親日になったという単純な話でないだろう。(ちなみに言えば、日の丸を手にしたことや「美しい国」と言ったことよりも、ボノがMCで日本のアーティストや建築家に触れたことの方が、同じ日本人として誇らしい気持ちになった)。究極の目標のために、経済大国である日本には果たす役割があるはずだし、日本に協力してもらうには、人々の心の中に入っていって協力してもらうように仕向けるための行動なのだと、おれは解釈する。そのU2の志の大きさも含めて感動したのだった。
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悪魔とダンスする聖人たち (06/11/30 @ Saitama Super Arena) : review by nob
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