行方知レズ @ 渋谷オーブ (11th Nov '06)
ヒリヒリしたロック
行方知レズというバンドがいる。例えば、中学生の頃、親に嘘をついて夜の家を飛び出して友達と自転車をすっ飛ばした事を思い出す。街灯もない道をただ自転車で走っていただけなのに、先のよく見えない夜の闇を走っていたドキドキ感。何かから逃げているのか、何かに向っているのかわからない。それでもペダルを踏み出さずにいられない気持ち。わかりにくい言い方になってしまうが、行方知レズってそんなことを歌っているバンドだ。
いつものオープニングSEが流れる渋谷のライブハウス。ステージの前に集う酔いどれ達。スーツでキメた男達が楽器手にした瞬間、世界はぶっ飛んでしまう。正直な事を告白すれば、このレポを書かなければいけない身でいながら冷静でいた瞬間はほとんどなかった。家に持ち帰ったのは枯れ果てた声と汗にまみれたTシャツだけ。つまり、このバンドのライブってそういうことなんだ。誰かの声を枯らし、こっちが汗にまみれるほどのダイレクトな音を奏でる。この日のライブはそういうこのバンドの良さを十二分に堪能できた。
アンコールを含め一時間強のパフォーマンス。特に耳についたのは、今年の6月からサポートメンバーとして加わっていた鎌田千静のトロンボーンの音だ。これまではバンドに音の厚みを加えたというぐらいの印象しかもっていなかったのだが、この日はバンドの音にしっかり入り込みバンドのエンジンの一つとして存在感がグッと増していた。そのせいもあってか、各メンバーのテンションも高めで、バンドとしての最高速度を思い切り振り切らせた素晴しいパフォーマンスだった。これからもぜひコンスタントに活動を続けて欲しい。
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エンジンが一つ増えたような演奏が続く中、ハイライトは中盤に訪れる。トヤマの弾き語りから始まった"イカレタ世界quot;。フレーズを客に投げるようにマイクを離すトヤマ。合唱が続くフロアに佇みながら、そうこの歌はみんなの歌なんだという思いが湧き起こってくる。切なさを孕んだメロディーと歌詞は聞くものに一筋縄ではいかない人生を思い知らせる。だからこそ生き抜く覚悟を僕達に突きつける。その覚悟が僕達に声をあげさせ、拳をあげさせるのだ。そこから終盤はquot;朝の月quot;、quot;1234quot;と必殺のナンバーが連打されフロアは弾けたようなモッシュが続ていった。
終演後、僕は渋谷の駅に向って歩いていた。キラキラした街並の中でちょっと前まで行方知レズが鳴らした音を思い出していた。このキラキラした街並とは真逆にある音を。そう、行方知レズはこんなにキラキラした街並の奥にあるものを見つめているのだ。それは、「不安」とか「諦め」とかそんな歯を喰いしばらなきゃいけない感情だ。夜の闇の中で必死に自転車をこいで、そんなものを闇の中に溶かしてしまおうと必死だった気持ち。そんなヒリヒリとした感情をこの日のライブは思い出させてくれた。それが良い事なのかどうかはわからない。けど、彼が歌う「人生は前にしか進まない」という詩をこれほどリアルに感じたことはない。つまり、この日のライブはロックと隣り合わせにある、そんなヒリヒリとした感情を沸き起こす、そうザラにはない時間だったのだ。
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report by sakamoto and photos by sam
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