ライアン・アダムス&ザ・カーディナルズ @ シェファーズ・ブッシュ・エンパイア、ロンドン (1st Oct. '06)
日曜の夜はライアンと
ロココ調の天井が趣深い今夜の会場は3階のシート席までびっしり人で埋まっている。見渡せばフロアも上も30代以上の男性が圧倒的に多い。今の主流を走るインディ・シーンから飛び出て来た様な針金のように細い若者も、全身黒づくめのキッズもいない。その辺にあるTシャツを家から引っ掛けて来た様なごくごく普通の成りの人達が、公演2日目のライアン・アダムスとそのバンド、ザ・カーディナルズの登場を待っているのだ。
時刻が九時半を回った頃、のそのそとバンドの一行がステージへ。大仰な掛け声も無く唐突に1曲目の"ティアーズ・オヴ・ゴールド"が始まる。黙々と床を見つめ、ゲゲゲの鬼太郎の如く顔半分が髪に覆われたライアンの渋く、のっしりとした歌声が客席へ広がっていく。ライアンが恍惚とギターを歪ませ演奏に没頭し、そしてはっきりと顔を客席にさらけ出すことなしに朴訥と歌い続ける姿に、観客は体を揺らすでも曲に合わせて口ずさむでもなく、ただ、もうぼうっと見とれているのだ。自分が憧れている、決して自分にはできない何かを具現化している人に魂をすくめ取られたかのように。バンドの演奏もバランス感覚が完璧で、長い演奏活動に裏打ちされた安定感で息もぴったり合っており、ライアンのバック・バンドというより、ライアンがフロント・マンであるザ・カーディナルズとしてすんなり耳を傾けることができる。彼の節くれた、荒くて、けれども時にひどく繊細な特徴のある声が、目を見張る様な声量と豊かな伸びによって胸に揺さぶりをかける。"モッキングバード・メロウ"の力強い響きに圧倒され、後半の"ステラ・ブルー"、"マグノリア・マウンテイン"といったメロウで柔らかな曲に力が抜けたライアンの甘い魅力が息づいていた。体を軟体動物のようにくねくねさせ、両手を空にぶらりんぶらりんしてちょっと変わったノり方は夢遊病者に見えないこともなかったが。
オルタナティブ・カントリーという出発点から、ロックン・ロールのアプローチと、純粋なるメロディの美しさを紡ぐ事で試行錯誤してきたライアン・アダムス。今夜の演奏からは2005年のソロ3部作を経て、ザ・カーディナルズとしての音作りに腰を落ち着けたという印象が残った。風邪を引き、咳が止まらず本調子でないとのことでギグはアンコールなしで終了し、日曜の最終公演に肩透かしを食らって残念がっているファンも大勢いたようだが、風邪を引こうが、熱を出そうがライアン曰くトマト・ジュースを飲んで体調管理し、日曜日でも働く俺なんだそう。その事実を知ったから尚更、今夜自分の目にした光景と耳を貫いた歌声は驚異と呼ぶより他は無い。
-- Set-list --
Tears Of Gold/Blue Hotel/GoodNight Roses/Cold Roses/Arkham Asylum/Nightbirds/Meadowlake Street/Mockingbird Mellow/Let It Ride/Stella Blue/Magnolia Mountain/Easy Plateau/Dear John/A Kiss Before I Go/Wharf Rat |
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