ソウル・フラワー・ユニオン @ リキッドルーム恵比寿 (30th Sept. '06)
まだまだ旅は続くのです
ほぼ19時のオンタイムで始まったライブは本編終了が21時半頃、アンコールに5回応え、会場を後にしたのは22時をとっくにまわっていた。がっつり3時間強の長丁場。記憶を辿って指を折っても演奏されたのは30曲近く。まさにソウル・フラワー・ユニオンの3枚目になるベスト盤のリリース・パーティーふさわしい充実した内容だったのではないか。
そうなのだ、もう3枚もベスト盤をリリース出来るほどのキャリア積んでいるんだと感慨にふけったりもする。だけど、そんなキャリアなんてあんまり感じさせないのはこのバンドのやんちゃな部分なんかなと思っている。今日だってそうだ。昼間の阪神の敗戦を嘆いたり、これでもかってほどのアンコール。好き勝手やって、言いたい事言ってここまできちゃったなと。これって凄く健全な事だと思うんだけどな。どうも、健全なのに王道にならない。それがこのバンドの一番面白い部分なんだと思ったりもしている。
さて、今作は主に00年からリリースされた作品を集めた、21世紀を代表する名曲達(魂花スタンダード)のオンパレード。個人的にはソウル・フラワーを熱心に聞き始めた直後の時期と重なっていて感慨深い。この日のライブもひとつの節目としてベスト・オブ・ソウル・フラワーな内容となるのではという期待があった。だけど、そんな期待は良くも悪くも裏切られた。新曲が多かったせいかフロアの空気が今ひとつ盛り上がらない。バンドも途中でセットリストを変更して"こたつ内紛奏"、"殺人狂ルーレット"という必殺のナンバーを加えたぐらい。結局、それでもいつもの熱気は取り戻せないままだった。だけど、僕はそれでいいんだと思う、それで良かったんだと思う。確かにフロアの一体感は欠いていたかもしれない。でも、会場のあちこちで体をクネクネ勝手な踊りを楽しむ人達がいた。それは、どんなアーティストのライブでも見れない光景。誰にも強制されない、何も強要されない空間。それこそソウル・フラワーの音楽が伝えてきたものだと思う。そして何より、披露された新曲の中の数曲はこれからスタンダードになっていくだろうと予想される素晴しい曲だった。
それにしてもいい歌を歌うバンドだなとつくづく思った。"極東戦線異常なし"のような直接的な反戦歌、この日演奏された"秋田音頭"のような普通のロック・バンドなら演らないような楽曲。その辺がこのバンドを小難しく見せているんだと思う。だけど、ほとんどの曲で観客はシンガーロングを繰り返す。そんなシンプルで良質なメロディーを伝えるバンドだということを再認識させられた。歌詞だってそうだ。みんなが普通に思っていることを歌っているだけだ。ふと思ったことを口にしているだけだ。「この戦争やめさせろ」と。
ラストを飾った"満月の夕"で「ワンモアタイム」と観客に向けられたボーカル・マイクに向っての合唱は止むことなく続く。決してカチッと決まった踊りじゃないけれど、たくさんの手が無軌道に宙を彷徨う。この光景こそこの日のライブの真骨頂。歌と人が優しく寄り添った瞬間、まさに命で笑った瞬間だ。拳を振り上げるのではない、拳を開かせるバンドの凄さに僕は嬉しくなった。
この日のライブは決して節目のライブではなかった。そんな最初の期待より「俺は新曲を歌いたいねん」と言った中川の言葉の方がよっぽど頼もしかった。どうやら旅はまだ終わらないようである。ベスト盤が4枚になっても5枚になっても終わるような気がしない。人がそこにいる限り、歌と供に歩いて来るバンドだから。
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report by sakamoto and photos by naoaki
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