buttonアサイラム・ストリート・スパンカーズ @ 横浜サムズ・アップ (18th Sept '06)

ビールの飲みすぎはお尻ペンペンです


アサイラム・ストリート・スパンカーズ
 SXSWへ行くと決まり、それがテキサス州オースティンで開催されることを知ってまず連想したアーティストがアサイラム・ストリート・スパンカーズ(実は今年のSXSWには出ていなかった)だった。さくっと検索でもかけてくれれば、マリワナ讃歌を歌ってる変なバンドがいるたらなんたらと書いたヤツがひっかかってくるはずだ。それにしてもこのバンド、各自がソロでほうぼうへ触手を伸ばしながらも、カントリーという共通の柱へ立ち戻り、それを思う存分遊びたおしている。時にはラップや声真似もやってしまうから、まずおかしさばかりが先に立ってしまうけれども、相当な実力派であることは確か。モヒカンがトレードマーク、弦があるものなら何だって弾きこなせる"フィドル・キラー"シックに、憎めない行動と微笑ましい体形、さらには愉快な言動で皆を楽しませるコミュニケーション担当かつウォッシュボード(洗濯板)を叩くワモ。クリスティーナは、ミュージカル・ソウとギターと七色の声色を使って、表情豊かなものに作り上げている…と語りだせばきりがない。そして、ステージも客席のそこかしこでもビールと笑顔が光ってる。

アサイラム・ストリート・スパンカーズ ハコの特性を最大限に生かせるバンドでもあって、スタンディングだった渋谷クワトロでは飲めや歌えやの雰囲気でまさかのダイブも発生したが、方やアメリカ南部のダイニングバー風な横浜サムズアップでは、柵という邪魔な存在がないのをいいことに、ライブ中にお客さんとの親睦を深め、テーブルの上に置かれたピッチャーからビールをいただくことも多々。(申し送れましたが、このレポートはサムズアップの模様を中心にして進みます)共通するのは、どこかしら酒の匂いがするハコだということ。クワトロは貯蔵庫みたいだし、サムズアップはもちろん消費するところである。さらにいうと、金沢の会場となったもっきりやもサムズアップに近い雰囲気で、昼間っから呑んだくれていたい気にさせる、ジャズと歌謡が流れる店だ。(金沢へお越しの際はぜひ。巷でウワサの21世紀美術館から歩いて3分かかりませんし)とにかく横浜と金沢に関しては、やたらビールが美味い「店」だから、素晴らしいなぁとつくづく。

 日本語を時折混ぜ込んでくるシックはトム・ウェイツのような喉に詰まったしゃがれ声と、伸びのあるテノールを絶妙な配分で混ぜながら、歌でも才能を見せつける。間奏もフィドルで弾き、乳幼児が鳴き声という反応を示せば、それとまったく同じ声色を弦の震えで生み出していく。笑わせつつもしっかと見せつけたテクニックに驚いている間に、ワモはビールのジョッキを空にしそうだ。
アサイラム・ストリート・スパンカーズ サイコビリーのバンドが聞いたらこぞってカバーしそうな、ジャカジャカと弦楽器がせわしなく震えて疾走感していく"ウィニング・ザ・ウォー・オン・ドラッグス"では、ワモが身振り手振りを交えて喉を鳴らしていく。サビ直前のフレーズは僕らをじらすように伸びてやがて消え入る(デクレッシェンドだったか、とにかく楽譜では>←が横に伸びたようなヤツだ)んだが、曲の終盤になるとただ伸ばして消えていくだけではつまらないと、ドップラー効果まで織り交ぜる。つなぎ目のないハミングに抑揚をつけながら、まさに今、目の前を通り過ぎたであろう架空の車を顔で追っかけるのだ。"マイ・フェイバリット・レコード"では、引き合いに出す曲が状況に応じて変わるらしく、クワトロではピストルズの"アナーキー・イン・ザ・UK"で、翌日はラモーンズの"アイ・ワナ・ビー・シデイテッド"、両日共に奏でられたのはレッド・ツェッペリンの"ミスティ・マウンテン・ホップ"。パンクの曲はどちらも笑いとコーラスがわき起こるくせに、"ミスティ〜"はクアトロではあまり反応が得られず、ステージから「レッド・ツェッペリン!」と呼びかける一幕があった。一方のサムズアップでは大歓声に包まれるといった風に、客層が浮き彫りになった。曲の終盤では、アナログレコード特有のいじらしいトラブル「針飛び」までもを再現し、くくく、と笑かしてくれる。店のスタッフも声をあげて笑っている。こんなとき「お前もビール飲めよ!」と言うべきなのだろうか?

アサイラム・ストリート・スパンカーズ "アムステルダム"は、ピンク・フロイドの"マネー"に似たメロディが淡々と進み、表情をはぎ取った無機質な音と、ネヴァダのスティール・ギターのチョーキング、クリスティーナのミュージカル・ソウ(ノコギリ)が不穏な空気を漂わせてくる。多彩な攻め方で刺激され、まんまと虜になっているから飲み干したビールの数なんて覚えちゃいない。

 カントリーとギャングスタ・ラップを掛け合わせた「ヒック・ホップ」なるジャンルで攻め立てる曲のタイトルずばり"ヒック・ホップ"は、シックとワモが揃ってビースティーズのようなクネクネした動きで客席を煽っていく。腹を押すとピーピー音が鳴るアヒル(?)のオモチャを小気味良く押してスクラッチを再現したりと芸が細かい。さらに間奏にレイナード・スキナードの"スウィート・ホーム・アラバマ"が収まって、リフを弾くネヴァダはしたり顔。憎たらしい小ネタに触発されて大いに盛り上がった結果、お客さんのビールの消費量も上がっている。
アサイラム・ストリート・スパンカーズ どの曲だったか、演奏中にもかかわらずワモが背後のカウンターでビールを頼んでいたことに象徴されるような呑んだくれ集団だけに、アンコールに"ビール"という読んで字の如くな曲を用意していた。早口でまくしたてられる曲に、着座の姿勢でも、自然と激しい縦揺れが起こり、狂乱とも狂喜ともとれる叫び声があがる。サビになればジョッキを掲げ「ビア・ビア…ウィー・ラブ・ビア!」と絶叫してしまうこれ、ついついビールを注文しに走った人もいる。

 ありふれた週末に、ユルく弾けたバンドがいるというだけでこうも楽しく酒が飲めるとは。若干の日本語を使えるメンバーが毎回手ほどきしているようで、意表をついた言葉も面白い。前回の来日では能楽堂でライブもしたらしいし、今回一人日本に残ったワモは相撲を観戦するようなことを言っていた。これではますます日本通になり、次の来日では日本向けの小ネタがさらに増えているはずだ。見つけることができた小ネタは全て吐き出しては見たが、まだまだ取りこぼしていると思う。果たして次回はいくつ見つけられるだろうかと思っていた時、ふと、結成当時から始まった全てを笑い飛ばす遊びが隠されていることに気づいた。バンドの頭文字をとってA**、そしてスパンカーズ(叩く人たち)! …またビールが飲みたくなってくるのだ。

アサイラム・ストリート・スパンカーズ


なお、写真は前日の渋谷クラブ・クアトロで撮影されたものを使用しています。


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