Coldplay @ Nippon Budokan (19th July '06)
普通の人たちの見る夢
まだ梅雨が開けきらない東京。九段下の駅から地上に出ると灰色の雲が空を覆う。そして、眼に入ってくるのは、たくさんの人、人、人。会社帰りや外国人にそこで商売をされている方々など、いろんなタイプの人がいる。だけども、気合いを入れてライヴを観るというよりは、日常の中にライヴがある感じである。中に入ると、アムネスティの人が絵葉書を配っている。開演前にはストーンローゼスの"Fools Gold"が流れて、おれはひとりで盛り上がったのだけど、周りはローゼスを知らなそうな人が多いみたいだ。それでいてクリスの嫁さんが現れると、お客さんたちの眼は一斉にそっちに注がれる。ビートルズの"Tomorrow Never Knows"が流れて場内が暗くなり、大歓声の中、ヒップホップが鳴り響きメンバーが登場する。
まずは"Square 1"から始まる。ステージ背後のスクリーンに映されたデジタル数字がカウントダウンを始め、クリス・マーティンのシルエットが現れると盛り上がりは最高潮に。続く"Politik"でも盛り上がりは持続し、3曲目の"Yellow"で、この日一回目の頂点を迎える。クリスの声で歌われる美しいメロディと、優しくしっかりとした演奏に、お客さんたちはサビを大合唱で応える。そこへ大きな黄色い風船が何個も客席に投げ込まれて、アリーナを舞う。この武道館でこそ生まれる素晴らしい瞬間だ。そして風船が割れると、金色の紙吹雪が飛び散るのだ。そして"Speed of Sound"が続いて、すっかり彼らの世界に取り込まれていくのだ。
クリスは「ドウモアリガトウゴザイマス」とか「サイコウ、アナタタチハ、イイヒトデス」とか「モットニホンゴガ、デキタライイノニ」と、人のよいところを感じさせまくるMCを連発する。彼らの演奏はスケール感が大きくてどっしりしていて、ときに激しくもなるけど、限りない優しさに包まれている。決して人を突き放すことがない。それをこの日のライヴで十分に感じた。それはU2やレディオヘッドが、先に行き過ぎて、時々お客さんたちが着いていけなくなる気持ちにさせるのに対し、コールドプレイは常にみんなの側にいる感じなのだ。
まあ、U2のZOO-TVツアーの映像(この秋にDVDが出るらしい)を観ると、クリスの登場の仕方から、いろんな細かい演出まで、あまりのU2への憧れぶりを素直に出していることに驚くのだけど、それだって普通の人たちが夢見る「ああ、おれはルックスは冴えないけどせめてボノみたいになれたらなぁ」を現実にしているのだ。さらに「ああ、こんなおれでもハリウッド女優と結婚したいなぁ」も実現しているわけが……いや、だからこそ、コールドプレイは素晴らしいのだ。とびきり優れたルックスでもなく、神業的なテクニックがあるわけでもなく、多くの人へ訴えかけるメロディを作り、包容力のある演奏を誠実に続けていくことで、ここまで大きなバンドになった。それは選ばれた特別な人が才能を見せ付けるのではなく、普通の人が見る夢を今、ここで叶えてみせること、それがお客さんたちに明日へのほんの小さな勇気を与えてくれる。
"Talk"で本編が終わり、アンコールを要求する声と拍手は大きく、再び登場するとクリスはすぐに"Swallowed in the Sea"の演奏に入り、続く"In My Place"では大合唱を誘い、さらにクリスはステージを降りPAのところまで走っていって、機材の上に乗っかって歌う。1階席のお客さんたちにも近づきたい――こんな気持ちが伝わってくる。そして"Fix You"。最後はゴスペルのようにひたすら上昇していくコーラスがお客さんたちと一緒に、とても大きく安らかな感情を作り出し、会場を満たしていった。
-- Set-list --
Square 1 / Politik / Yellow / Speed of Sound / God Put a Smile / Wheat it / Don't Panic / White Shadows / The Scientist / 'Til Kingdom Come (Ring of Fire) /(Trouble) / Clocks / Talk (encore)Swallowed in the Sea / In My Place / Fix You
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report by nob and photos by izumikuma
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