エルボー@ サマセット・ハウス、ロンドン(13th Jul. '06)
エルボーの愛、心つないで
地下鉄テンプル駅近くに位置するサマセット・ハウスは18世紀にエドワード6世の叔父に当たるサマセット公爵の宮殿跡地に、英国の建築家、サー・ウイリアム・チェンバースによって建設されたパラディオ様式の美しい建物で、内部には印象派絵画のコレクションで有名なコートールド美術館がある。ルネッサンスの建築美が生きた、ロンドンでは珍しく見栄えのするこの由緒ある建物物に囲まれた中庭で今夜催されるは、エルボーの野外ライヴ。
スペシャル・ゲストはエルボーと同郷であるマンチェスター出身のリアム・フロスト・アンド・ザ・スロウダウン・ファミリィ。ギター、ベース、キーボード、ドラム、そしてトランペットの担当するメンバーに続いて、ヴォーカル兼ギターのリアムが登場。ややもったり逆三角形の体躯にぴっちりしたスーツをまとった彼は、アコースティック・ギターを抱きかかえるようにして歌い出す。エルボーのフロントマン、ガイ・ガーヴィは、そのごっつい体に反した天使の如しまろやかで温かい歌声がたまらない魅力であるが、チャビィなリアムも大ぶりな体躯とは裏腹に、優しさと憂いを内包した低音の声が素晴らしい。フォークとカントリーの風味をたたえた楽曲はその歌声を乗せて、ヴァイオリンの音色や、マンドリン、ハーモニカ、トランペットが加わり、壮大なアンサンブルを生み出している。決して華があるわけではないけれども、聴き込んでゆくとじわじわ胸に広がるテンポ良いメロディ。ちなみに、マイスペースの試聴曲の中に、ザ・クークスの"ナイーヴ"のカヴァーがあり、本家とは一味違ったリアム・アレンジ・ヴァージョンを、オフィシャル・ホーム・ページではそこにはないバンド・サウンドが全面に出た3曲を聴くことができます。
さあ、お待ったさんでした、ボーナ・ファイド・マンキューニアン、エルボーのメンバーがゆっくりとステージへ。最後にのっそりと煙草をくゆらせながら現われたガイに向かって大歓声が沸く。"ステイション・アプローチ"の、静から、徐々に高まってゆく展開に合わせて、彼の声にもどんどん張りが出てくる。色とりどりの照明に照らされながらも、職人ミュージシャン達はいたってマイ・ペース。ガイが観客と空間を分かち合おうと前方に乗り出して手をかざしながら、その込み上げる高音を空高く舞うように響かせる"カント・ストップ"。観ている側が前方に差し伸べる手は、まるでその空間に放たれた音の粒子を掴もうとしているかのよう。それくらい心の内側がどんどん熱くなってくるのだ。いつもながらの巧みで熟練した演奏も野外の風を受けて気持ちよいほど外に向かって拡散されてゆき、ダイナミックなエルボーの世界が屋内でのそれとはまた趣を異にして力強く伝わってくる。アストリアのショウで耳にした時は胸に迫り涙が出た"レッド"も、赤いライトを浴びるガイのむせび泣くような歌声が外側にずうーっと伸びて行くことで、悲しみというより、その何とも大きな曲のスケールにひたっすら感動、感激である。愛と交通機関の黄金期に思いを馳せた"グレイト・エクスペクテイションズ"の叙情溢れる甘美な音色、"メキシカン・スタンドアウト"を嫉妬についての歌だと紹介し、「俺は嫉妬なんてしたことないけどね」と言いつつも、すぐさま、「ま、1回ぐらいかな」などと訂正する可愛いガイ。この人は曲の歌詞を読み進めば分かるが、とてつもなくロマンティストだよなあと思う。音楽と歌に込められた果てしない愛情とそこから伝わる優しさがまるで心を撫でてくれるかのようだ。ガイが両脇に据えたスネアとタムドラムを、ぶっ叩く、奇抜な曲展開の"マグレガー"、ヨーデルのような高音を裏返させた、今までのエルボーでは耳にしたことのないメロディが印象的な新曲、会場が一体となって鳴らした手拍子が大きな盛り上がりを生んだ"フォーゲット・マイセルフ"。
これが終わりのふりにしておくと言って5人がステージを去ると、驚いたことにどこからともなく客席からその"フォーゲット・マイセルフ"の合唱が起こった。再びステージに現われたガイは満面の笑顔でそれを喜んで聴いている。その後、皆で一斉に溜め息をつくのはいいもんだからやってみようと、会場を一、二の、三で「はぁ〜」と弛緩させ、「ね、いいもんでしょ」とにやり。子供が生まれて父となったギタリストのマークとキーボーディストのクレイグ、そしてエンジニア・スタッフの3人に捧げると温かにしかし最後は壮大に締めくくられた"ニューボーン"。闇にそびえる建物の幻想的な美しさに見守られた、エルボーの真髄たるパフォーマンス。惜しみない拍手と共に、マンチェスター、万歳!
-- Set-list --
Station Approach / Red / Leaders Of The Free World / Fugitive Motel / Can't Stop / Great Expectations / Mexican Standout / The GOod Day / Switching Off / Mcgregor / A New Song / The Everywhere / Scattered Black And White / Forget Myself /
[encore] Puncture Repair / Any Day Now / The Stops / Newborn |
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