アイ・ライク・トレインズ
@ メトロ、ロンドン (28th Jun. '06)
I 列車で行こう!
ロンドンで大小様々なヴェニューが集中してあるといえば東はオールド・ゲイト、北はイズリントン界隈が挙げられるが、街のど真ん中であるセンター・ポイント最寄りの地下鉄駅トッテナム・コート・ロード付近もまた例外ではない。今夜の会場は、通常のギグ以外もクラブとして日替わりのイヴェントで人気のあるメトロである。
地下へ続く階段を下り、踊り場を通過して目の前に見えるステージはその辺のライヴ・ステージを併設したパブとほとんど変わらないぐらいこじんまりとしている。まずはサポート1組目、ストレンジ・デス・オヴ・リベラル。プログレッシブ・ロック色の強い、バンドである。歌っているよりも演奏の方が長かった事からもそれは更に確信を持って言える。ディストーションを過剰に効かせたギター、フルートや,グロッケンを加え音に広がりをもたらすも、演奏に必死な様子が明らか。リード・ギタリスト以外は楽器を取っ替え引っ替えしていた器用さに、前回観たフィールド・ミュージックの影が重なる。っつっても関心したというわけではなく、器用だねー、と思った程度だが。2番手はルーペン・クルック・アンド・ザ・マーダーバード。「死んだ蝶」のようだと自ら表現する音楽だが、ルーペンがアコースティック・ギターを奏で歌うところに、ボブとトムのリズム隊が若干ねちっこく絡むというスタイル。フォークをベースに、時折暴発するように掻き鳴らされるギターと叫び混じりの歪んだ声が特徴。マイ・スペースで4曲試聴でき、7月16日にはデビュー・アルバムが発売予定です。
そして,アイ・ライク・トレインズ。何やら舞台の左袖が慌ただしいので、なんぞや、と思い目を向けると、そこにはプロジェクターと、幕が用意されている。彼らは5人編成のバンドであるが、内1人、アシュリーはコルネットを吹く傍らで、主にそのプロジェクターにて曲のモティーフやコンセプトとなっている映像を演奏と同時進行で映し出しているのだ。舞台がかりでイメージ映像などがステージの背景で映されるギグはあっても、メンバー自らが研究発表会のごとく映像を映していく場面など初めてである。それは冒頭の"ア・ロック・ハウス・フォー・ボビィ"、続く"シチズン"共に鼓舞されたというチェスの絵であり、控え目に奏でられるギターとドラムが暴発とためらいの間を行き来しながら徐々に弾き出される。メンバーが宴に興じるモノクロの映像と共に奏でられる"アクシデント"。「誰かが君に毒を盛られる前までは、とても楽しいパーティっだったのに」「その毒は本当は僕を狙っていたんだ」、と何やらものものしい言葉を乗せ、低く、沈鬱に歌われるデイヴの独特な声。大気の中から渦巻くように徐々に音が高まり、狭い空間を得も言われぬ高揚感で埋め尽くした"テラ・ノヴァ"。約一時間、全8曲ではもの足りなかった観客のコールに応え,メンバーは再びステージに登場。元英国国鉄総裁が打ち出した大胆な国鉄改善対策について書かれている"ビーチング・リポート"を、この日サポートしたメンバー、そしてマネージメントら関係者をステージに呼び、全員で解雇の憂き目に遭った鉄道員達を思い紡がれた歌詞を、オリジナルの、目に見えぬやるせなさが漂う雰囲気を損なわずに力強く合唱し、今夜の詩情あふれる独特の世界の幕は閉じられた。
作品を打ち出す強いコンセプトを持ち、神秘的で時に難解な歴史に対する彼らの興味が非常に高いことをうかがわせる曲と歌詞、姿勢。英国国鉄のマークをワッペンにし衣装に縫いつけ、沈黙の中に深い思慮をたたえ、音・言葉・映像が三位一体となって溢れ出す物語。乗りかかった船ならぬ列車はもう既に加速し始めている。
-- Set-list --
A Rock House For Bobby / Citizen / William /Accident / Before The Curtains Close Part 2 / Fram / Terra Nova / Stainless Steel / Beeching Report
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