button ジェイミー・カラム
@ 渋谷クラブクアトロ (13th Jun '06)

クレイジー・ミュージック・ラヴァーズ


Jamie Cullum
 ジャズピアニスト界の「ベッカム」と呼ばれる、25歳の貴公子ジェイミー・カラム。日本にプロモーションでたびたび来ていたためか、すでに単独公演は済んでいるかと思ったら、意外なことに今回が初の単独公演という。チケット即完売の状況から、多くの人が彼の単独公演を切望していたのが伺える。ジャズピアニストとしてカテゴライズされる彼がクアトロでのライヴ慣行というのには多少違和感があったけれど、ライヴを見て納得。ジャズというジャンルだけに彼の音を括りつけてしまうのは非常にもったいない。偏見と一つのジャンルに縛り付けられるものから解き放てる場所は、彼にとってもオーディエンスにとっても、ここクアトロは最高の場所だったようだ。

 会場入りすると、客層は予想通りというべきか、実に様々な層の人たちが集まっていた。20代のジャズとはちょっと縁遠そうな女性陣から、普段はライヴで大暴れするようなボーイズ集団、50代くらいと思しきジャズを愛聴している風のサラリーマンまで。実に様々だ。女性陣の目当ては、やはり甘いマスクのジェイミーだろう。でもジャズという音楽を普段聴かないような人々まで引き込んだジェイミー・カラムは、それが彼の容姿がまず先行していたとしても、ジャズという分野においてはそれを広めるのに大きく貢献をしたはずだ。

Jamie Cullum ほぼ19時きっかり、黒のスーツにネクタイ姿のジェイミーがとろけそうな笑顔でステージに姿を現す。登場するや否やの黄色い歓声。その余韻に浸る間もなくピアノに向う。まずはジャジーな「トウェンティーサムシング」からスタート。ホーン・セッションとの絶妙なコンビネーション、そして甘く鼻にかかった歌声。ピアノの音色と歌声とバンドのサウンドがとても心地よく耳に響いてきて、初っ端から曲に浸りきる。鍵盤を叩く指は、滑らかに動き、感情をストレートに奏でる。あのキュートな笑顔とは一変、プロフェッショナルなオーラがジェイミーから放たれる。続いて、ピアノの上に用意されたターン・テーブルを使って始まったのが「ゲット・ユア・ウェイ」。グランド・ピアノの上に立ち上がったり、とにかくピアノから離れるとあちこち大きく動き回る。ジェイミーのテンションの針はこの時点ですでに振り切った様子。空気がいっぱい詰まったボールが勢いよく跳ねるように飛んで、飛んで、飛びまくる。まさにそれはロックやパンクのバンドに負けないパワフルでエネルギッシュなパフォーマンス。マイク片手に狭いステージを左右に、時には宙を高く舞う、なんというスタミナ!ピアノを弾いている時ですら、立ったまま全身を大きく動かしながらも、指は鍵盤の上を疾走する。おもむろに椅子を持ち上げ、鍵盤に叩きつける。そんなことして大事なピアノは大丈夫なのかと心配になるほどの気迫。それによってめちゃくちゃなサウンドになるのかと思ったら、音楽を乱さずマッチしている。見事な計算、というかサウンド・クリエイト?型にはまらず好きなように、自分のエネルギーをそこにすべてぶつける、僕流のやり方のようだ。何よりも圧巻だったのは、ピアノの音色に温度や色、景色や感情を感じ取ったこと。こんなピアノ、そうそう聴けるもんじゃない。ジェイミーの感情が乗り移ったようなかんじだ。

 「フォトグラフ」や「ワット・ア・ディファレンス・ア・デイ・メイド」、「ディーズ・アー・ザ・デイ」、「マインド・トリック」など、馴染みの曲が続くとオーディエンスの動きもまるでロックのライヴのように激しくなる。どんなにしっとりしたクラシック・ジャズの曲をやっても、スロー・バラードで聴かせても、そこに突然コミカルな動きやサプライズな演出を持ってきてオーディエンスを一時も飽きさせない。憎い演出を交えメリハリがあって、聴いてほしい部分はしっかりと聴かせ、乗らせる時は自分が先陣を切って盛り上げる。ジェイミーを見ていると、奏でる音楽が気持ち良くて、それに全神経が反応して身体を突き動かしているかんじ。躍動感満載の曲の数々。オーディエンスをひきつけて離さないのは、キュートな笑顔と卓越したパフォーマンスだけではない。スペシャルな魅力が彼にはある。ジェイミーが誰よりも音を楽しみ、音を全身で吸収して、それをエネルギーに変えてオーディエンスにぶつけてくる。フリーなスタイル。それが彼のライヴの最も大きな魅力でもあり、人気の理由でもあると思う。オーディエンスは、一曲終わるごとに喝采を送り、それと同時にホレボレとため息までも聞こえてくる。気持ちはすべて彼に持っていかれた。

Jamie Cullum マイルス・デイビスに影響を受け、ジャズを知らない人にもジャズをもっと知ってもらいたい思いで、その最良の方法としてジェイミーは、ジャズにロックやR&Bやポップの要素を上手く盛り込んだ独自の音楽を確立した。彼が影響を受けたアーティストは、レディオヘッドやエルトン・ジョン、トム・ウェイツなどのロック/ポップ系から、フランク・シナトラやナット・キング・コールなどのジャズ・ヴォーカルまで。その影響を巧みに自分の音楽に反映させているのだろう。ピアノにアコギ、ドラムにDJ、ヒューマン・ボックスにいたるまで、彼はまるで音に取り付かれているように自在にすべてを操りジャズに溶け込ませている。

 ピアニスト、ヴォーカリストとしての才能と、器用さは天性のものなのかもしれない。歌とピアノの演奏の上手さは圧倒的で、叙情的で伸びのある声とピアノを存分に聞かせる。マイクを通さなくても、その声はきちんと会場の最後尾まで届いていた。

本当の意味で音を楽しみ、そこから遊びを広げていく。「ロンドン・スカイズ」でアコースティック・ギターをかき鳴らし、そこでも指は鍵盤を弾くのと同じように滑らかに動く。ロック調のその曲が、突然サンバのリズムに移り変わり、会場はリオのカーニバルさながらのお祭り状態に一変。そう現在W杯の真っ只中。サッカー観戦ムードを出していたみたいだ。

  隅から隅までオーディエンスがみんな揃ってジャンプしたり、オーディエンスにハモらせて、それに乗せて歌ったりもする。こんな光景は、通常のジャズのライヴでは到底お目にかかれやしないだろう。

 気持ちの高揚が治まらないまま、ライヴは終了してしまった。別れを惜しむかのように、ジェイミーとバンド・メンバーはいつまでもステージ最前列で笑顔を振りまいていた。でも、再来日が決定したらしい。今年の冬。ジャズはちょっと、という人は騙されたと思って行ってみるといい。ニュー・ジャズやジャズ・ポップなんて、というジャズ愛聴者はまずCDを聴いてみるのをオススメする。そこには、ジャズや他のジャンルの垣根を越えた、新たな形の音が詰まっているから。音楽の固定観念を打ち砕く、素晴らしい音楽に衝撃を受けること間違いなし。そうそう最後に一言。ジェイミーがオーディエンスに「you're crazy, crazy, crazy! Crazy music lovers!」と言っていたけれど、それはあなたのことでしょう、ジェイミー。


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