Smashing Mag / Allen Toussaint @ Harajuku Blue Jay Way (1st Jun. '06)

　あまりに唐突という感じで発表されたアラン・トゥーサンの10数年ぶりの来日公演は、エルヴィス・コステロと録音したアルバム、"リヴァー・イン・リヴァース"のプロモーションを目的に急遽決定されたんだとか。この情報を知ったときにはすでにチケットがソールドアウトと、涙をのんだ熱狂的なアラン・トゥーサンのファンも数多くいたようだ。

　逆に、なんとかこのライヴに潜り込めた人たちは、至福の時間を体験することになる。ステージにはピアノが1台。アラン・トゥーサンの弾き語りというシンプルなステージなんだが、歌が染みるのだ。たぐいまれなソングライターであり、彼の作とは知らずに聴いている曲も多いだろう。「ある日、スコットランドからね、フランキー・ミラーという人が来てね...」と、裏話も交えながら、ほのぼのと、淡々とステージは進行していくんだが、[マザー・イン・ロー」という曲ではオーディエンスがコーラスを歌い出したことに大喜びしたり...　本当に彼のことを好きな人たちが短いながらも濃密な時間を過ごしたのがこの夜のライヴだった。

　超名曲「サザン・ナイツ」に聞き惚れて、シャッターを押すことができなくなったり、予想外だったアンコールで「ん？これがいいかな、これにしよう」と歌い出した「What Do You Want The Girl To Do」で涙腺がゆるんでしまったり...　これなんぞ、本物のアンコール。客電が上がり、BGMが流れ出てきたというのに、誰ひとりとして会場を後にすることなく、歓声を上げ、拍手を続けていた彼らに心を動かされたのが客席で見ていたアランの奥さん。（だったと思う）彼女がステージを突っ切って楽屋裏に入り、それをアランに伝えることで実現したのがこのアンコール。そして、出てきたのがこの曲だった。筆者にとって最もなじみが深く、惚れ込んでいるのはリトルフィートのローエル・ジョージが録音したソロ・アルバム、"Thanks I'll Eat it Here (サンクス・アイル・イート・イット・ヒア)"の巻頭に入っているヴァージョンなんだが、ボズ・スキャッグスの名盤、"Silk Degrees (シルク・ディグリーズ)"も有名だ。もし、気が向いたらぜひ聴いてもらいたいと思う。

　もちろん、まだアラン・トゥーサンを知らなければ、最初に聴くべきなのは名盤、"サザン・ナイツ"。正直言ってしまえば、"リヴァー・イン・リヴァース"がアランのアルバムだとは思ってはいないんだが、この限定盤DVD付は素晴らしい。DVDの方は、遙かにアラン・トゥーサンが主役であり、これを見て、また彼に惚れ込んでしまうことになるのだ。