ザ・フォール・アウト・トラスト
@ ガラージ、ロンドン (31st May. '06)
アンサンブルという名の魔術
ロンドン北部にある、2階に分かれたライブ・ハウス、ここガラージは、まだ芽の出たばかりというような若々しいミュージシャンが多く登場する場所である。時に今夜お届けするザ・フォール・アウトの前座を知らずに会場へ赴いたのだが、思わぬ収穫にまた、にんやり。去年から何となく気になっていたバンドがそこにおったので す。
それが、前座二組目、ロンドン出身、男子4人組のアパートメントである。昨年シングルをリリースしたのみでまだフル・アルバムの発売には至っていないが、それが何とも、叙情性をたたえたメロディと、各パート相互のバランスがとれた、ポップでありながら、そこかしこにサイケデリックな要素も感じさせるバンド・サウンド。そして、これが肝心だが、ヴォーカルが、もう、支配的というか、周りを統治させてしまうような、威圧感、否、主張があるのだ。かといって、政治的な事を詩にしたため歌い上げている、というのではなく、その声を彩る表情の豊かさは、この先、ちょっとしたもんじゃないかい、と期待させるものを持っていた。ヘッドライナーのショウが行われるのもそんな遠い先の事でもなさそうなので、その際はしっかり取り上げますから乞うご期待。
*なお、EPがこちらで視聴できます。
そして、ザ・フォール・アウトのお出ましだ、ってふっと後ろを見渡すと、お客さんが少ない,,,、しかもすでに前出のアパートメントに盛り上がっていた人達が、さぁーっと引いてまっせ。そんなぁ、切ないよ、トリなのに。この有様に、ヴォーカ ルのジョー・ウィンターが「皆、もっと前に来てよ」と促し、なんとか観客は前方に。うーん、こんな寂しい幕開けではあったが、ともかく新曲の"ディス・ヴォイス・イズ・ノット・マイ・ヴォイス"から軽快にバンドは演奏を始め出した。想像していたが、やっぱりCDと遜色なく、いや、むしろそのバンド・アンサンブルはそれから伝わる以上にダイナミックで、心臓にズンズン、と響き渡ってくる。リズム・ギターのパターンやリード・ギターのもがくようなディストーションの取り入れ方も絶妙で、リズム隊も、時折アイ・コンタクトを交わしながらロックの基底をしっかりと支えている。また、ヴォーカルの妹であるジェス・ウィンターが奏でるヴァイオリンの、儚くも美しい音色が、総じて攻撃的なバンド・サウンドの中で凛と佇み、オーケストラ・ロックとでもいうべき壮大かつ、流麗な世界を作り上げるのに欠かせない存在感を放っている。ヴォーカルに関しては、若干粗さが目立ち、高音域でのシャウトが聴きづらい点はあったが、迫力のある演奏にも消え入らない声量と、体全体で歌う姿勢には情熱が感じられた。
"声"、そのものよりは、細部まで練られた、センスの高い楽曲の魅力が光るバンドといえるかもしれない。もう少しライヴの場数を踏み、そこに演奏を聴かせる、という今の持ち味プラスαの、バンドとしての叙情性が加われば、更なる進化を見る日もあるだろう、と長い目で期待。
-- Set-list --
This Voice Is Not My Voice / White Dog/Washout/Broken News / The Years / Cover Up The Man / My Punctuation / Them Or It/Take Comfort From Me /
When There's No Cold To Feel / Before The Light Goes / No Beacon / When We Are Gone
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