Rico Rodriguez with Cool Wise Men @ Shibuya Eggman (7th May '06)
至福の音
まさか、もう一度ナマで見られるとは思っていなかった。スカタライツとリコ・ロドリゲスが出るからと、慌ててチケットを取って初めて参戦したフジロックから4年、まったくもって恵まれているとしか言いようがない。しかも、キャパ300ほどの小箱でやるとあっては、フロアがあの4年前以上の熱気と興奮で渦巻くことも容易に想像できる。フジロック出演の翌年、クアトロにスカタライツが来たときは、冗談でもなんでもなく、フロアの後ろの方ですらタバコに火が点けられないほどの酸欠状態だった。それと同等か、それ以上の状況を覚悟して(というか期待して)会場へと向かう足取りは、朝から降りしきる冷たい雨の中でも軽かった。
あの4年前と同じようにサッカー・シャツに身を包み、仙人のようなあごひげを蓄えた御歳72のマエストロを、ステージ上では孫のような世代のクール・ワイズ・メンのメンバーが、フロアではルーディたちが、当然のように最大限の敬意で手を打って迎える。ステージに現れた時のリコの表情がたまらない。自分でも拍手をしてフロアの大歓迎に応えながら見せた、ニカッと笑ったクシャクシャな表情は、フロアのルーディにも伝染し、「かわいい〜!」などという黄色い歓声すら耳に入った。
ライブの方はというと、さながら"リコ先生の公開ロック・ステディ講座"といった様相。バックを固めるクール・ワイズ・メンのメンバーそれぞれにソロを要求しては、もっともっとと笑顔でシゴク。そうかと思えば、とてもオーバー70とは思えないソロを5分以上もキメてもくれるあたりは、さすがリコ先生としか言いようがない。しかもその音色は、彼の優しさや温かさを内に秘め、ほろ苦いペーソスでコーティングしながら、まるでトロンボーンではないかのような透明感と柔らかさで響く。これが、50年近いキャリアの成せる業なのか。気がついたら、踊るよりもその音色に聴き入っている。ライブでのそんな経験は初めてのことで、なんだか不思議な気がした。
さらに驚いたのは、直前まで吹いていたトロンボーンを下げ、いきなりマイクに向かって"What a Wonderful World"(オリジナルはこちら)を歌いだしたとき。一瞬の静寂を置いてどよめきが起こり、次の瞬間にはフロアとステージを巻き込んでの大合唱が始まった。リコもマイクをフロアに向け、笑顔で歌っている。リコの笑顔、甘い歌声、フロアの一体感、染みる歌詞……。70歳を過ぎてもなお現役で活躍し、多くの後輩たちからリスペクトを受け、それでも優しさを忘れることのない彼が歌うからこそ、重みが感じられたのかもしれない。すべてが温かくて、涙が出そうだった。
アンコールまでを終えてステージを下りる前に、間違いなく彼は"See you next time!"と、はっきり言った。あのステージを思い出すと、あれほど元気な72歳なら、きっとすぐにその公約を果たしてくれそうな気がする。あのフロアにいたすべての"リコ・グランドチルドレン"が、きっと同じ気持ちでいるはずだ。
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report by imakaza and photos by maki |
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