フランツ・フェルディナンド w/ザ・マジック・ナンバーズ @ 日本武道館 (10th Feb '06)
フランツ・フェルディナンドは卑怯である、という説
ロックンロールの本質のひとつに、「ザマァミロ!」って感情があると思う。気づいたもん勝ち、やったもん勝ち、出し抜いたもん勝ちの世界。地道に実力を積み重ねていくしかない勉強やスポーツとは対照的な残酷な世界。しかし、この残酷性こそがロックの真実ではないかと思うのだ。アイディア一発、才能一発、気合一発。それらを武器に固定観念に凝り固まった連中を一気に追い抜いてしまう。はるか後方からは「その手があったか」というため息がいつも聞こえてくる。
パンクやラップなんて特別な資質や大した練習なんて必要ないのに、それまで誰もやらなかったわけで、その意味ではこういった革命の歴史の代表格といっていいだろう。しかしですね、フランツ・フェルディナンドだっていい線いってると思うのだ。あの盛り上げるための節操ないキックの四つ打ちや、節操ない反則リフやメロディや、節操ないわかりやすいアレンジメント。開き直りにも似たニュー・ウェイヴの復権。初めて聴いたときは唖然としてしまって、「なんだよ、この時代にこの音楽! そりゃ踊れるよ、でもこんなんでいいなら誰だってできるぜ!!」と思わされたもんだ。だけど、いくらいっても負け惜しみにすぎないのだ。ロックンロールの世界では、人を踊(躍)らせた者は、それだけで無条件に「正しい」のである。悔しいけれど。
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さて、そんなフランツの二度目になる来日公演だ。グラストンバリーではしばらく観て裏のPJハーヴェイを観にいっちゃったんで、きちんと観るのは今回が初となる。それにしても早くも会場が武道館というのにも驚いたが(後述する)、そのキャパシティーとポテンシャルを完全に使いこなしているのには本当に感服した。まず、アリーナがなんと立見。客席をダンス・フロアにするためにはスタンディングは必定とはいえ思い切ったものである。すでにこの時点で、できる限りの「いいライヴ」を作ろうとしているスタッフの姿勢もがひしひしと伝わってくる。
そして、今回はバックドロップの位置に、巨大スクリーンが設置されていた。これが単なるハッタリに終わらず、最大限に機能していたのがすごい。ほぼリアルタイムで演奏中のバンド連中を様々な角度から映し出して、しかもそれがモノクロ映像なのだ。武道館の歴史やバンドの音楽性ともあいまって、この演出がやたらとハマっていた。このモニターは他にもアルバム・ジャケットを映写したり、"DO YOU WANT TO"のプレイ時には巨大な「?」マークが表示されたりと、使い勝手満点。これのおかげで遠くの席の人も楽しめたのではないだろうか。
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だが、そういった演出の数々が浮いてしまわずに、あくまで付加価値として捕らえることができるのも、フランツというバンド自身の実力がすでにとんでもないレベルにまで達してしまっているからだといえる。正直、最初に武道館公演の話を聞いたときは時期尚早だと思った。埋まる埋まらないの話以前に、使いきれないだろ、使いこなせないだろうというデカ箱に対しての(そしてフランツの潜在能力に対しての)不信感があった。ところが蓋を開けてみると、このバンドはもはやこの程度の規模の会場などものともせず、堂々と渡り合ったのである。
だけどその渡り合い方は、本当に卑怯だと思う。基本的に全曲ダンス仕様のキラー・チューンだらけの楽曲群なのに、さらに破壊力一段階増しのシングル曲を盛り上げ要所に絶妙に配置してくる。前半ピークでは"TAKE ME OUT"を、後半戦突入時あたりには"DO YOU WANT TO"を。そのスピード感溢れる流れのまま、ドサクサ紛れにさりげなく新曲まで演りつつ、一気に終盤まで突っ走る。盛り上げて、盛り上げて、サヨナラ。ずるいと思う。というかマジで節操ないと思う。だけど考えてみれば、まだデビュー後は間もないとはいえ、年齢的にはそれなりに老獪(30過ぎ)のバンドなのだ。そりゃあ戦のやり方も心得ているかぁ。だって、悔しいけど、やっぱりいいライヴだったもんな。
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report by joe and photos by izumikuma
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