ダーリンハニー @ 下北沢駅前劇場 (5th Feb '06)
オタクでマニアックなプレイ
ダーリンハニー第二回単独ライブ『PLAY』
人通りの多い19:00、下北沢駅前劇場に続く階段を上がると、お笑い好きな女性がワンサカいた。受付脇のスペースをすり抜け、一足先に席へ着いてみる。どうやらチケットはソールドアウト。ダーリンハニー(以下DH)は、奇天烈な芸人が一発芸でのしあがる中で、ニューウェイヴにこだわり、ささやかなCM出演とTV出演に絞り、裏側でせっせとネタを作っていたようだ。
opening movie
カット割りまでこだわって、ポップな色がはみ出してくるオープニング。バックの音楽はモダンな風を振りまいている。連想ゲームに似せた三段オチの数々が笑いを誘ったり、意外な反応をさせられたり。このビデオの裏には、人間(観客)観察といった、別の一面があると思えなくもない。
★プレイゲーム
テニスのダブルスでの出来事。サーブをすれば、ボールは飛んで行く。最初はお決まりの客席に飛び込んだり、あらぬ方向へ飛んで行ったりな展開だった。音響効果を駆使した新たな一面を見せたが、第三者やプログラミングに頼るのは、時代に流された結果とも言える。形態模写や、マニアックなネタでファンを増やしてきた彼らに、他の力が働いたぶんだけ違和感が生まれていたが、観客を手玉にとることは忘れていなかった。いつしか、テニスどころではなくなって、きまって悪役にされてしまう吉川と、賞賛される長嶋の対比が興味深いが、そのどちらも奇をてらう事無く、身の回りで起こる出来事の大げさな一例として存在していた。
★告白集会
番長らしき意地っ張りな男(長嶋)と、金魚の糞だとかイェスマンと呼ぶにふさわしい現代的な子分(吉川)のやりとり。番長は胸を張って言葉を述べるが、そのどれもが決め手にかける。子分のちゃちゃ入れによって、外ッ面は胸を張ったままだが、内面はやすやすと流されてしまうのが情けない。見せかけの威厳だけで生きていると、いずれはぼろが出るという話で、暗に「等身大で行きましょう」とアピールしているネタだった。面白おかしくディフォルメしているが、番長の転落人生は『さらば青春の光』のジミーがモデルになっているのではないかなぁ、っていう最後の一文は、mag以外だったら書かないはずだ。
★マイ・ホーム
DHの特色といえる薄気味悪い吉川の女装がざわめきを起こす。ワガママ女のけだるい調子が彼氏(長嶋)を操り、ぶち切れた要求を押しつけていく。近くにいたら、コンマ5秒で逃げ出したくなるキャラにもかかわらず、恋愛ボケした彼氏は「ハイ」と服従し、さらには放置され、しまいには理不尽な文句をつけられて愚直街道まっしぐら。最後には「おめぇらまだ発展途上じゃねーかよ!」と突っ込みたくなるオチが待っている。
★裏講習の男
免許センター前で問題を教えてくれる(と言い張る)オッサンがいるのは確かだが、それをどうやって身につけたかが気になって仕方がない。影からそっと見つめてても、仕事がら周りを気にするオッサンに見つかりはしないかと、ネタ以前の取材の画を想像するだけで笑けてくる。長嶋からキナ臭さが立ちのぼり、やんわり酩酊した調子で繰り出される見ぶり手振りに、誘いの文句「ウラコウどうですか、ウラコウ!」と「ハイ、い゛っでらっしゃーい゛…」の捨て台詞が加わった一人芝居で、観客は瀕死の状態に。気弱な受験生を演じる吉川は疑いながらも流されてしまう。弱い男が一皮剥けるまでのプロセスを凝縮して描いたネタだった。
★ジュテーム・モア・ノン・ブリュ
本音を言えない男女のスクリーントークは、やはりDHの姿がみえないぶん、勿体ない気持ちがある。しかし男女間の言葉の裏側にある本音の数々が飛び出して、亀裂だったり、それを修復する過程を見ることができるのは、ちょっとした勉強。ある政治家がネタを小出しにし、それを突っ込まれた時に思わず「全部出してしまったら、こちらのカードが無くなるではないか」と言った心境もわかる。世の中は駆け引きがすべてで、口車と多少の強引さを持っていれば勝ち組、自分の判断を持たず、カウンターパンチを発掘できなければ負け組となることを、裏側で言っているネタ。世知辛い世の中を生きる上では、ずる賢さも必要だということだ。
★プラマイゼロ論
夜分遅くに無鉄砲な吉川が、長嶋の家に乱入し「すべての人間はプラマイゼロで成り立ってる」と指折り数え、ゼロに帰す。明確な公式を提示せず、救えない人間・吉川のさじ加減一つでマイナス/プラスが決まってしまう理不尽さ。招かれざる客人がもたらす奇天烈な温度差を楽しむこと、それがヌーベル・ヴァーグでボサ・ノバで、結局全て同じ意味のニュー・ウェイヴなのだろう。
★リーディングガール
リーディングガールっていうのは、風俗などでサービスしてくれる女性のことを言うのだろう。客(長嶋)はいかにもな奉仕を待っているが、女(吉川)は黙々と本を読む(read)だけ。「タッチにします」と女が言えば、マンガの『タッチ』を読みやがる。しびれをきらした客は当然文句を言って帰ろうとするが、切ない身の上話にほだされて、どんどん感情移入してしまう。男から言わせると、女という生き物がさらに信用出来なくなる非常〜に迷惑なネタであると同時に、DHとの妙な共通理念も生まれる。逆に、女からしてみれば気分爽快なネタだと思うが…ぼかぁ、女じゃないからやっぱりわかりません。
ending movie
エンドロールが流れ終わると、予期せずマニアックなネタが飛び込んできた。
★バーカウンター
『タモリ倶楽部』内のマニア向け特集『タモリ電車クラブ』でみごと入会を果たしたネタを基本とし、電車マニア/電車オタクならば唸るフレーズが満載。まったくわからないにしても、吉川が猛烈なスピードでまくしたてる専門用語が凄みを生み出す。電話が鳴れば、カバンをガサゴソ、出てくるのは時刻表に電車のドア脇に掲げられているプレート、緑とオレンジで彩られた東海道線の車両だったり…といった具合である。車両をパカッと開けばそれが実は携帯。ワンマン運行ばかりとなったいま、おぼろげなイメージでしかない車掌の語り口を真似る吉川のふとした瞬間に見せる表情に、好きなことをネタにできるという悦びが感じられた。
DHは懐古主義のマニア/オタクで成り立つコンビである。音楽好きの長嶋は、どこで見つけてきたのか、相当レアなノーザンソウルもののLPを引っぱり出してくるし、電車好きの吉川は洗練された新型車両よりも、無骨な旧型車両を好いている。笑いも同様で『モンティ・パイソン』といった旧いものへ愛着を持ちながら、スタイリッシュな笑いを創造しようとする。
果たしてニューウェイヴから、お笑い界のハシエンダとなることができるのか?
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report by taiki and photos by sam
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