ドライヴ・スルー・ツアー 2006 @ 渋谷クラブクアトロ (14th Jan '06)
今後のdrive-thruを担う注目のバンド祭
drive-thru Recordsといえば、ほとんどのパンク・ファンにはお馴染みのレーベルだ。赤地に黄色の矢印が目印のあのレーベル・ロゴ。一時期は、勢いのある多数のパンク系バンドを排出し、このレーベルのバンドなら間違いない的な思いでレーベル買いをしたパンク・ファンも多かったはずだ。私もその例に漏れず、あのロゴが入ったバンドのCDであれば、何の疑いも持たずに手に取り購入していたクチである。ニュー・ファウンド・グローリー、フィンチ、サムシング・コーポレイト、ミッドタウン、アリスター。そうそうたるバンドが名を連ね一世を風靡し、パンク・ロック・シーンへの貢献度も極めて高かったレーベル。そんなdrive-thru Recordsが、ある時期から突然鳴りを潜めた。その内部事情は素人には伺い知る余地もない。それと同時に自然とあのロゴの持つ影響力も失いつつあったように思えた。がしかし、そのdrive-thru Recordsが、再起をかけて立ち上がり戻ってきた!そして今回は、今後のレーベルの中心的存在となりえるバンドがタッグを組んで、再びパンク・ロック・ファンへのアピールともいえるツアーを慣行した。会場内に大きく吊り下げられた、変わらない赤地に黄色のレーベル・ロゴが健在ぶりを多いにアピールしていた。
会場はクアトロ。開演19時少し前に会場入りしてみると、思いのほか集客はまばらだった。それもいたし方ないか...。なんたってメインは、フェニック・ティーエックスとアリスター。会場に掲げられた大弾幕に書かれたタイトルが、"Before The Blackout After The Breakout Tour"。"Before The Blackout"はアリスターの最新アルバムのタイトル、そして"After The Breakout"は復帰したフェニック・ティーエックスを意味するものだろうから、観客の期待もこの2バンドに集中していたようだ。...フェニック・ティーエックスって、本当に解散したの?未だにそこがナゾ、そしてそれは非常にもったいなさすぎる。でも今回このツアーに参戦ということは、活動再開と信じていいんだろう。
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【デンバー・ハーバー】
The official site
Denver Harbor
unknown
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"Scenic"
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トップ・バッターは、デンバー・ハーバー。フェニック・ティーエックスのヴォーカル、ウィリーが中心となって結成したサン・ディエゴをベースにした4人組バンドなのだ。基本はフェニック・ティーエックスのゴリゴリしたロック・テイストを前面に押し出したハードで男気溢れるロック・サウンド。スカの要素も取り入れたり、ダイナミックかつヘヴィ一辺倒にならないヴァラエティに富んだ曲の数々。やはりフェニック・ティーエックスの名残が強いのか、観客は前列でスタート時からフル・パワーで荒れ狂う。ズシズシと分厚いサウンドが耳に直撃してきて、うん、このバンドはかなり粋だ。...でも、フェニック・ティーエックスが再開となったら、このバンドはいつまで続くんだろう。
-- setlist --
Goes Around / Satisfied / Outta My Head / Move On / Police / Twenty Six / Twenty Seven
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2番手に登場したのはハリファックス。2002年にカリフォルニアで結成された4人組。ライヴを見ると5人組のようだったけど...。かなりおしゃべり好きな陽気なメンバーたちだった。ツイン・ギターとヴォーカル、ベースの4人がステージ前方で綺麗に整列すると、それはどこぞのボーイズ・グループに匹敵するほどの存在感と不思議な色気。メロディックなポップ・パンクとは異なり、スクリームとヘヴィ・ロックで他のバンドとはややテイストの違うサウンドだ。曲間に必ずしゃべりを入れて、まぁ、口を開けば「ビールくれ」、「すし」の繰り返しと下ネタ。ギターの後ろにも、ご丁寧に白いテープで下ネタの文字を入れていたり。そのしゃべりは途中から観客を放置してまで続く、つづく。なんだか女子禁制の男子寮に迷い込んでしまったような感じでしたよ、まったく。何やってんだか。
EP『A Writer's Reference』を聴きこんでいる観客も多いようで、"I Hate Your Eyes"ではフィストを掲げて、観客との「ヘル、ヤァー!」の合いの手もバッチリ決まっていた。「ポーラ・アブデュールを知ってるか?」なんて突飛な問いかけをしたかと思ったら、彼女の"Straight Up"のカヴァーを披露。懐かしいこの曲も、男節でドライヴの効いたかなりイカした曲になっていた。所狭しと前列4人が飛び回り駆け回り、迫力あるパフォーマンスとエッジの効いたロック・サウンドで、drive-thru Recordsを担う次代のバンドとして注目度の高いバンドのようだ。寿司を食べたらあまりに美味しくて作った(みそスープとも言っていたけど)と言う曲は、恐らく寿司とは一切関係ないでしょう。リップ・サービスですね。
-- setlist --
A Writers Reference / Our Revolution / I Hate Your Eyes / Such A Terrible Trend / Nightmare / Straight Up / Broken Glass Syndrome / Anthem For Tonight / Sydney
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ようやくフェニック・ティーエックスの登場だ!今回の私の大本命がこのバンド。かれこれ10年以上のキャリアがありながらも、どうやらこれが初めての来日らしい。"A Song For Everyone"なんて名曲を収めたアルバム『Lechuza』から4年。一体どうしていたのかと思ったら、解散→奇跡の活動再開...。紆余曲折しながらも、どうやら戻ってきてくれたようだ。
彼らの出番(20:30は軽く過ぎていた)になると、会場はライヴ・スタート時よりも断然人が増えていた。やはり、彼らの来日を待ちわびていたファンは非常に多かったようだ。
一発目に持ってきたのが、重厚なサウンドで畳み掛ける"Something Bad Is Gonna Happen"。満員になったフロアは、ここで一気にヒート・アップしてジャンプとモッシュの嵐で会場内の気温もかなり上昇。フィービー・ケイツに夢中の歌(だと思う)"Pheobe Cates"や"Threesome"の風切る疾走感と最高のメロディ、スコーンと突き抜ける晴れ晴れとした"Minimum Wage"や"Ben"などなど、フェニックス・ティーエックスの真骨頂を発揮した一度聞いたらクセになる曲が続々。ここまでくると、クラウド・サーフィンがゴロゴロ転がり続けて止まない。終盤には、ニルヴァーナの曲もやっていたような気がするんだけど("Breed"?)、あれは重くなりすぎずスピード感バツグンでかっこ良かった。そして遂に"A Song For Everyone"のイントロを聴いた時には、嬉しくて叫びたくなるくらい、泣きたくなるくらいだった。イイ曲なんだ、この曲が。そう、みんなの歌。場内に大合唱も響いていて、堪らなくなった。極上のメロディと爽快感を生み出したフェニック・ティーエックス。また新しいアルバムを作って最高のパンク・ロックを聴かせてくれることを心待ちにしてる。
-- setlist --
Something Bad / Minimum Wage ( )/ Phoebe Cates ( )/ Katie W / Ben / Tearjerker / Pasture Of Muppets / Flight 601 ( )/ Threesome ( )/ G.B.O. H. ( )/ A Song For Everyone / All My Fault ( )
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さて、このdrive-thruツアーのヘッドライナーを務めたのがアリスター。お帰り、アリスター!そんな気持ちでいるだろうファンでフロアはギッシリ。黒のノースリーブ・シャツに白ネクタイ姿のティムは、動きも歌声もあまりに男前でホレボレ。一時たりとも彼から目が離せなかった。...なんてミーハー心というか純粋な乙女心、ホホッ。当初男性陣が半数以上を占めていた場内は、アリスター登場の時には女性陣も多くフロア前方まで詰め掛けていた。ティム効果でしょうか。
ニュー・アルバム『Before The Blackout』からのハードでパンチのあるロック・ナンバー"D2"を最初に持ってきてご挨拶。それに応える観客のジャンプも一層高く、盛り上がりは瞬間に沸点到達。凄まじく入り乱れるフロアはまだまだ余力充分だ。ニュー・アルバムを聴いたファンならば彼らの変化に多少なりとも気付いたはずだ。アルバムの一曲目"Waiting"でもわかるように、明らかにアリスターは、それまでの甘くてポップでキャッチーな曲調から、ダークでマイナーな曲調が目立つようになっている。でもそのベースには、従来通りの弾けていて耳にしっかり残る気持ちいいメロディがある。メンバーの入れ替えを繰り返して復活した新生アリスターに、そして彼らの挑んだ新たな曲の数々に違和感はない。"D2"や"Waiting"のロック・テイストの濃い曲はパワフルで、存分にファンを飛ばせて一緒に歌わせる。数倍もカッコ良くて成長したアリスターに大満足だ。続けて前作の『Last Stop Suburbia』からの"Scratch"になると気持ちよく風を切って走り抜けるアリスター節に、激しく体を動かして全身で楽しさ嬉しさを満喫している場内の一体感、楽しさが一塊になって物凄いパワーを感じて熱くなる。
シリアスなスロー・テンポの"Blackout"が終わると、次はベーシストのスコットが「オレの18番」と流暢な日本語で紹介して"Shima-Uta"がスタート。あの"島唄"です。もちろん日本語で歌ってます。だいたい外人さんが「18番」という言葉を使いこなせること自体が素晴らしい。そしてその"Shima-Uta"、これがアリスターの曲のように聞こえてしまうから不思議。パンク・スピードでプレイされるこの曲で異様なまでに盛り上がって、フロアはぐちゃぐちゃの荒れ放題。見ているだけで気持ちイイ。その荒れたフロアに追い討ちをかけるように、"None Of My Friends Are Punks"。この曲で恒例のモッシュの輪ができる。荷物さえなければ、一緒に笑って廻りたかったほどです。それにしても、スコットは独学で日本語を勉強したらしいんだけど、笑いを取れるほど問題なくMCを日本語でこなす。他のメンバーは恐らく日本語があまりわからないようで、何言ってやがんだ、みたいな目でみていたけれど。
アリスターの爽快な曲に興奮を抑えられないのは観客だけではないらしく、前出の他のバンドのメンバーが次から次へとステージ上からフロアに向ってダイヴを繰り返していた。ステージの端には、ダイヴの順番待ちの列まで出来ていたくらい。アリスターは、心の底から気持ちを楽しくさせてくれて、スッキリさせてくれて、頭を空っぽにして弾けさせてくれる。雲ひとつない突き抜ける青空を仰いでるような、美味しい空気をたくさん吸ってるような爽やかな気持ち良さ。ずっと聴いていたくなる。最後にみんなで歌った"Radio Player"。ずっとフェイヴァリット・ソングが鳴り続けてる、これが今の私はずっとアリスターの曲なのだ。当然、ライヴの帰りの電車の中でも家でこのレポートを書いている間も、ずっとアリスターだ。一人アリスター祭り。
-- setlist --
D2 / Over / Scratch / Waiting / Fly / Blackout / Shima / None / Study / Balance / Jacob ( ) / Nerve / Alone / Full ( )/ Race / Radio
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ライヴが終わってロビーに降りると、ついさっきまでステージにいたアリスターのベーシストのスコットが、グッズ売り場の狭い隙間に立ってファンと握手をしたり話をしたりしていた。日本語で話しかけるファンにも、しっかり日本語で答えていた。見事だ。デンバー・ハーバーやフェニックス・ティーエックスのメンバーも出口に立って、観客をお見送り。少しでもバンドのメンバーと触れ合えるチャンスがあるのが、こういうライヴのいいところだ。肝心のヴォーカル群の姿は見えなかったけど。ティムを間近で見たかった。残念。この次の日はインストア・イベントがあったり、またライヴも続けてあるし、まだまだ多くの人と触れ合える時間はある。もっとたくさんの人にこの日出演したバンドの曲を聴いてほしい。ポップ・パンクはもう飽き飽きだ、という人も多いかもしれないけれど、飽きのこない楽しい音に出会えるはずだから。
すっかり古株となったアリスターやフェニックス・ティーエックスを柱に、drive-thru Recordsは再び活気を取り戻して盛り上がり、新進気鋭のバンドを排出していくに違いない。また目が離せないレーベルになった。
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