button ピクシーズ @ Zepp東京 (5th Dec '05)

凶暴(ワル)かった肥満(デブ)
 2004年のフジロックに出たピクシーズは、確かに伝説のバンドを遂に観ることができたという感激があり、さらに名曲の連打というセットリストに狂喜したのだけど、時間が経つにつれて記憶が薄くなっていった。それは、メンバーが楽しげでリラックスしたので、当時のCDから聴こえた緊張感とか不気味さがなかったからかも知れない。それは時が流れれば仕方のないことで、悪いことじゃない。

 今回の来日で、もう一度彼らの姿を観たくなった。高校生から大学生にかけて文字通り浴びるように聴いていた、あのピクシーズなのだ。フェスの場でなく、お祭的な気分抜きで彼らに向き合いたいと思ったからである。会場のZEPP東京は、ほぼ満員と言ってもいいくらいのお客さんの入り。外国人の比率が高い。自分と同じくリアルタイムで聴いていた世代もいるけど、結構若いのもいる。やっぱり、グランジの源流のひとつとして伝説的な存在なんだろう。

 おそらくストゥージズあたりのゴリゴリとしたリフが特徴的な曲をBGMとして、メンバー4人が現れる。ブラック・フランシスの体形はやっぱり風船のように膨らんでいる。そして、"Gouge Away"から始まったピクシーズのライヴは、やはり、というべきか、いくら激しく弾いても、シャウトをしても、まじめな人が突然刃物を持って暴れ出すような、あの背筋がゾクゾクする狂気の世界にはならなかった。今の良好すぎる人間関係を反映してリラックスして丸くなった音が、そこから聴こえてくるのであった。ブラック・フランシスはぬいぐるみのように愛玩動物系だし、キム・ディールは終始ニコニコ笑顔で、こちらの心を和ませるし、ジョーイ・サンチャゴは寡黙なギタリストのままだし、デイヴィッド・ドラヴァーリングはなんだか大学の助教授みたいな落ち着きのあるキャラになっていた。多分、彼らはピクシーズでいることが楽しいのだろう。そして、そんな彼らから伝わってくるのは、ピクシーズの曲が持つメロディのよさで、こんなにいい曲が多かったっけ? と改めて彼らのもうひとつの魅力を確認するのだった。

 彼らが、2006年現在でもピクシーズであることによって、何を得て、何を失ったのか、残酷なまでに明らかになったのだ。そして、"Caribou"を聴いているとき、彼らが現在もピクシーズにしかなれなかったという業の深さを思って泣いた。彼らは、バンドを解散して、他の何ものかを目指していたのだろうけど、結局のところピクシーズに戻ってきた。それは帰るべき家みたいな生ぬるいものでなく、絶対に逃れられない(呪われた?)運命のように思えたのだ。特に、ジョーイ・サンチャゴのいかにもオルタナという感じのギターが聞こえてきたとき、彼はそれこそ、ジョン・フルシアンテに匹敵するような、才能と格好よさが溢れるギタリストなはずなのに、こんなに地味な存在でしかないのだろうか、彼はもうピクシーズでしか生きていけないのではないか、そしてその悟りきって運命を受け入れた表情に感動して涙が止まらなかった。

 ジーザス&メリーチェインの"Head On"のカヴァーも現在と過去は断絶していないということを伝え、ピクシーズが、いま存在する理由というのは、まさに我々は歴史の連続性の中にいるのだということを忘れさせないということなんだろうと勝手に思う。そして、"Monkeys Gone To Heaven"、"Bone Machine"、"Debaser"あたりの何度も聴いていた名曲が凶暴さを抜いてよみがえり、"La La Love You"のユーモアに笑みがこぼれたし、スローな"Wave Of Mutilation"の美しさに染み入るのだった。どれもこれも名曲だった。そして、"Vamos"の間奏では、デイヴィッドが投げたドラムスティックをジョーイが受け取り、ギターにこすりつけてノイズを撒き散らし、ジョーイが投げ返してデイヴィッドが見事に受け取るという技を見せて、フロアが沸きあがるのだけど、これってどれくらいスティック投げの練習をしたのだろうか、それを考えると凄いことである。アンコールは、メンバーは楽屋に引っ込むことはせず、ステージ上で相談している風の小芝居をみせてから、"Gigantic"。 キム・ディールの歌と笑顔でこのライヴを締めた。

 このライヴが良かったとか、悪かったとか、そういう話じゃないのだ。これは、20歳前後にピクシーズに出会ってしまった人間に突きつけられたものなのだ。オマエは今でもオルタネイティヴでいられるのか? 単なる懐メロで満足してんのオマエ? 20歳前後の自分を映した鏡を見て「で、オマエどうすんの?」と問い掛けられ、やはり、丸くなって狂気が抜けきっても、ピクシーズはピクシーズでしかない運命を思い自分の姿と重ね合わせて、他の何かに成りたかったのに、こう生きることしか出来なかった15年後の運命を静かに受け入れるのだ。

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