buttonコーナー & ファイン・ラインズ
@ 渋谷クラブクアトロ (1st Dec '05)

答えはこれから

 人間、悩んでいる時には何事もうまくいかないものである。慌てて結論を出したり、急いで動こうとすると、表面上はうまくいったとしても、後で何かしら歯車が合わなくなることが在るように思う。また、反対に、悩みすぎて、悩んで悩み抜いて出した結論が、後になって考えてみると、本当は意外と近くに答えのヒントがあった、なんてこともあるのではないかとも、思う。自分も今、その渦の真ん中にいるので、よーくわかる。そして、根が真面目な人ほど、その渦は大きくなる。一度はまったが最後、とことんその渦に巻き込まれていくのである。そして穏やかな流れに戻るには、いい加減さをうまくリズム化して日々を過ごせる人よりも、とっても長い時間が必要となる。磯部さん、この日のライブを観て、今もハスキング・ビーを愛して止まない、10人中3人(推定)のファンが、思わず叫びたかったであろう感想を代弁します。
 「だから言ったじゃーん!!」

 今年3月に解散した、ハスキング・ビー。自分はたまにこのmagでライブレポート等を書かせてもらっているが、実のところ、勢いにまかせて書いたはいいが、封印している原稿がいくつかある。そのうちの中で、最も早く書き終え、最も掲載を希望していたにも関わらず、送らなかった(送れなかった)レポートが、今年3月のハスキング・ビーの渋谷AXでの解散ライブである。これは完全収録でDVDとしても発売されているので興味のある方は観て頂けたらと思うが、どうにも。自分的には、納得がいかなすぎたのである。なぜ休止ではなく、解散なのか。本当にこれがラストライブでいいのか。完全な状態ではない(当日ヴォーカル磯辺氏の声はガラガラ、演奏もまとまりがなかったとあえて言わせて頂く)で、最後を迎えた彼らに対して、多くのメディアの反応や多くのファンの感想は、「最後まで感動をありがとうハスキン!」であった。え?ほんとにあれが最後でいいの?納得できるの?今読み返しても、その日のレポートは『?』マークでいっぱいなのである。もちろん、当人達が決めたことに対して、他人がどうこう言ってもそれはただの第3者の意見でしかない。しかし。 こちらとて心から愛情を注いできたバンドなんだ。だからこを言わせてもらうぞコノヤロー。「絶対この4人でやれるべきことはまだまだある。だからこそ、活動休止でいいじゃないかー!!」

 あれから7ヶ月。10月19日に発売されたコーナーとファイン・ラインズのスプリットは、その『?』マークをますます大きくする作品であった。コーナーはハスキング・ビー活動中に磯辺氏が始めたソロユニットであり、ファイン・ラインズはKaz氏が始めたユニットである。コーナーは磯部氏を中心として、ライブではバンドのメンバーを迎えているし、ファイン・ラインズはKaz氏がショート・サーキットの黒澤譲治氏と、アコースティック形態から最近ではサポートを迎えてバンドスタイルでライブを行っている。しかし、このスプリットはずるいのである。両ユニットの名前を掲げておきながら、ヴォーカル&ギター磯部正文・ギター平林一哉(Kaz)・ベース工藤哲也(TEKKIN)。ドラム以外は、まんま元ハスキング・ビーの3人である。もし万が一メンバー名はわからなくても、特に2曲目を聴いて、誰もが思ったことだろう。「これってハスキンの新曲じゃないの???」。当分彼らの活動には背を向けようと固く心に決めていたが、これはこの目で確かめにいかねばならない。前フリが長くなってしまったが、この日のライブはそのスプリットの発売記念ライブであったのだった。

 まずは磯部氏がアコースティックギターを持って1人で登場。「あまり体調はよくない」と言いつつ、最近発売された7stars(ラウド系バンドのCDジャケット等でもお馴染みの人気デザインチーム)10周年記念のコンピレーションアルバムに提供した新曲"Full Moon"を披露。その後、コーナーとしての最初のライブから一緒にプレイしているギターの伊東悦士氏を迎え、さらにウッドベースにsmorgasの河辺氏、ドラムにtoe・Reaceの柏倉氏、打ち込み等を操る今谷氏をステージに迎え、バンド形式となり、コーナー名義で発売されている唯一のフルアルバム『走るナマケモノ』からの曲を次々と演奏していく。そう、次々と。約1時間ほどのライブであったが、いつも通りの、いや、いつも以上に、まった〜りとした、ライブであった。MCしかり。"あいさつ"も"ビルの屋上で"も"霧の浮舟"も"気分屋ブンブン"も"755℃"も"マグカップの相談"も。サポートのバンドメンバーは、それぞれにいい音を出す人達であり、磯部氏のやりたいことを広い懐と演奏力で支えていると思う。しかし、コーナーとして最初にライブをした時から少なからずライブを観てきた者として、常に感じることがある。 それは、ひとさじ、何かが足りない。ということだ。それが料理でいうところの塩なのか砂糖なのか、辛さなのかとろみなのか、それはわからないが、観終わった後、いつも、「あーもうお腹いっぱい」にはなれないのである。
 そして、その問いに対する答えは、次に登場したファイン・ラインズにあったのだ。

 短いセットチェンジから、ファイン・ラインズの登場。
 2003年頃からハスキング・ビーと並行して活動を開始し、開始当時はKaz氏の伸びやかな声をより活かせるからか、アコースティック形式であったらしいが、最近ではバンドスタイルで意欲的にライブをしているとのこと。この日もKaz氏と黒澤氏はエレキギター片手に、ベースにTEKKIN氏、ドラムに(顔が見えなかったのだがおそらく)SLIME BALLの片山氏を迎えてのライブ。活動は知っていたが、観るのは初めてであった。感想を一言で言うと、「凄ーく良かった!」。何が?Kaz氏の、その佇まい、そのたくましさ、だ。現在はオムニバスやシングル等にしか発表されている音源はなく、曲数も少なかったが、英語詞、日本語詞、どちらの曲も、とても良かった。1曲1曲が既に確立されていて、聴いていて体がうずく、この感じ。観客もリズムに身を寄せて動き始めている。そう、ファイン・ラインズは、私達が求めている、『バンド』の音なのである。

 TEKKIN氏がかつてKaz氏と同じバンドにいたとか、黒澤氏も片山氏(違ってたら申し訳ない)も旧知の仲であるとか、そんなことは関係なく、ファイン・ラインズには、勢いと力強さとバンドとしての面白さとか未知の可能性が、たっぷりと詰まっている。それは、おそらく、ハスキンではギターをメインに、コーラスや何曲かのメインヴォーカル曲を持っていた、いわゆるサブ的な役割であったKaz氏が、「俺は音楽を続けていく。俺のやりたい音楽はこれなんだ!」という、次へ進んでいこうとする潔さと、堂々としたその歌いっぷりと演奏がまず、素晴らしいのである。曲によっては、ああ、このメロディ、このフレーズ、このサビへの持っていき方は、ハスキンの時からのKaz氏の作っていた曲を思い出すな。いい感じだな。というのもある。しかし、演奏側の気持ちが前に進んでいるから、どの曲も、ファイン・ラインズの曲としてとても新鮮に聴こえたし、聴いている方も、身を引き締めて聴く体勢に思わずなり、気がつくとグングンと曲に引き込まれていくのである。

 おそらく、これではないかと思う。コーナーに感じられないのは。この、「わしがやりたいのはこれなんじゃうりゃー!」という、磯部氏の明確な曲への姿勢と、潔さ。コーナーとして、やりたいこと、やりたい音楽は、よくわかる。しかし、それは、まだまだ内側を向いてしまっていて、解放されきっていない。だから、その世界に、入り込めないのではないか。それは客席を見ていればわかる。どちらのバンドも、この日初めて観る人も多かっただろうと思う。しかし、コーナーで思わずあくびをしてしまったり、後ろで携帯をいじり始めてしまった人も、ファイン・ラインズでは友達と少しずつ前方へ近づいていったり、足でリズムを取り始めていたのを、目撃した。バンドは生き物である。生々しいほどに、同じところにはいられない。だからこそ、面白い。だが、どこでどこへ動いていき、その気持ちがどこへ向かうのかが、鍵なのである。

 ファイン・ラインズのライブの中で、特に印象に残ったのが"Small Red Light"という曲。Kaz氏の、高音が綺麗に響く歌声が、緩やかでエモーショナルなメロディラインの中で最大限に活かされ、ギターも、ベースも、ドラムも、「ああ、ここ、気持ちいい!」という絶妙なラインを滑らかに流れていく。エモ好きにはたまらないであろう曲である。この曲を聴くために、また、ライブに行きたいとさえ思った。こういう曲は、ハスキング・ビーでは実現しなかった曲であると思う。

 そして。この日会場に集まった多くの人が、この瞬間を待ち望んでいたことだろう。ステージに今回のスプリットのメンバーが登場。ドラムは作品作りに参加してくれたという、この日8年ぶりに人前で演奏するという、ヤナギ氏を迎えてのライブ。(心配だからお昼ぐらいに会場入りして練習していたそうです)曲はもちろん、スプリット盤『Small Happiness』に収録の4曲から。1曲目"Good Bye"。立ち位置も同じ。この3人を、また同じステージで、こんな早いタイミングで観ることができるとは、誰が想像したことだろう。歌詞の「あのね とある物語の取れたページ作り変えるよ」「確かめ合うのが この場所だったら ゆっくり ゆっくり 手を触れ」というのを生で聴いて、早くも胸が熱くなってしまった。つまり…?と、思わず気持ちを入れ込んでしまう。曲が終わると、客席から大きな暖かい拍手。

 そして続く"Dud"ではKaz氏がメインを取り、先程のファイン・ラインズとはまた違った表情を見せる。磯部氏の横で歌う時の、表情なのである。顔ではない。彼の場合、歌い方に、その時々の、表情がある。さらに、そう。この曲である。今回のスプリットを聴いて、特に、これは反則だ!と思った、2曲目に収録されている曲は。"夢寐movie"。もろ、ハスキンである。もう、心が、浮かれてしまう。こうしてこのメンバーで演奏されているのを聴くと、色々なことが頭をめぐり、まるで現在形でハスキング・ビーが動いているかのようである。ハスキンの持つ、キラキラしたメロディが、ふわふわと、しかし、ずっしりと、響くのである。客席の熱い視線。涙がこぼれそうになる。そして。
 曲が終わると、磯部氏が、話し始めた。

「自分でも実際、何のために解散したのか…。何のためにこうやってまた一緒にやっているのか、ほんとのこと言えよ、て言われたら、色んなことがありすぎて…」すると、TEKKIN氏が、「話し始めたら丸2日かかるよ」と笑いを誘う。磯部氏は言葉を選びながら少しずつ話し、そして「こうして曲を作って、時には一緒にやったりというのがお互いにとってはいいことなんじゃないかと僕は勝手に思ったわけです。こうやって、またやっていきたいなと。そんなカンジです」。会場が、喜びと幸せな気分に包まれる。拍手と笑顔が生まれた。はっきりした答えなんて、ないんだ。磯部さんは、迷いながら決断して、また、迷いながらも、こうして、このメンバーでここに立っている。ハスキンのファンは、いつだって、暖かい。バンドの勝手な解散も、バンドの勝手な新しい動きも、こうして、また、素直に受け入れている。もちろんここにいた全員を納得させることは無理でも、少なくとも多くの人が、この報告を、ポジティブに、受け入れていたように思う。

「僕にとってこの曲は、今後の人生のキーポイントになる曲ではないかと思うぐらい、よく、あの時、蝶が蝶になって、目の前に現れてくれたなと。感動のあった曲です。この曲を一緒にできることを嬉しく思います」と、演奏された"March"。「森の遥か向こうから のんびりゆったり いつも気ままに風まかせ 陽気にゆっくり」「今日をもっとずっと変えられる そんな風に待っている 逢いに行かないとね」

 そして最後に…。「やらない方がいいのかな」磯部氏が言った瞬間に、皆が叫びそうになった。ファンにはわかる。あの曲だ!ハスキング・ビーにとって、とてもとても、大切な曲。"新利の風"。一気に客席が飛び跳ねる。嬉しい!!単純に嬉しい!悔しいけれど、涙が出た。まわりでも、驚きで手で顔を覆う人もいた。でも…。"新利の風"であって、そうではない。そう。ドラムのレオナくんのいない、この曲は、やっぱり、同じ曲ではない、別物なのだ。

 再結成ではない。これから、どういう形でやっていくのかもわからない。ボツにした原稿も、磯部氏と同じように、答えが出ていない自分に対して世に発表していいものか悩んだからなのだと、今は思う。レオナ氏が今後どうやって参加するのかもわからないし、また次、といいつつ、こういう形でハスキンの曲が次にいつ聴けるかもわからない。すべては、彼ら次第。

 でもまあ、バンドなんてそんなものだろう。悩んで、悩んで、でも進んでいく。人生と一緒だね、きっと。だから、答えはこれから。

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