Sound Tribe Sector Nine @ Shibuya Club Quattro (3rd Oct '05)
音楽に満たされた空間
朝霧JAMでは「良かったんだけど……音がキレイ過ぎたな」「もっとアゲだと思ったんだけど……」なんていう声も聞かれたSTS9。新しいアルバムもどちらかっていうと大人しいもので、2年前のフジロックでの興奮が遠くなったのかなあと感じてしまった……完全に油断していた。ナメていた。正直、すまんかった。約3時間弱の長さを感じさせず、時間と空間を全く別物にしてしまった彼らの音楽、そして、お客さんたちの熱狂ぶり、この素晴らしさをどう伝えようか。
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独自のPA卓を持ち込んでまでこだわった音はめちゃめちゃ良く、細かい音の重なりが聞き分けられるのは、ライヴハウスだからこそなんだろう。そのキラキラした音が会場内を乱舞している。そして、ファンク、ヒップホップ、ドラムンベースのビートを自力で叩き出すザック・ベルマーがまさに神業で、彼の手数が多くて、アクションも派手なドラミングに見とれてしまうのだった。それでいて、突然スウィングし始めたりして引き出しの多さにジェットコースターに乗るような展開に酔わされる。
ステージには客席から見て左からキーボードのデイヴィッド・フィップス、ギターのハンター・ブラウン、パーカッションのジェフリー・ラーナー、ベースのデイヴィッド・マーフィー、そしてドラムという順で位置取る。ドラム以外のメンバーは楽器の代わりに機材を操作することもある。ドラムが端にあるというのも珍しく、その存在感を際立たせている。遠目で見ているとナイナイの岡村とガレッジセールのゴリを足して2で割ったような感じなんだけども、ドラムを叩く姿、お客さんを煽る仕草が格好いいのだ。そして、キーボードの後ろでは、演奏中に木に飾りをつけるようなオブジェを作っている。この手の音楽では、よく演奏を聴きながらライヴペインティングをしている人がいたりするのだけど、これもそのようなものだと思う。
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朝霧JAMのときよりバンドはアグレッシヴで、そんな演奏に合わせてお客さんも激しく体を揺らしている。いわゆるジャムバンドと言っても、エレクトロ色が強い。その電子音と生演奏が融け合わさって、聴く人によって、デジタルに感じたり、オーガニックに感じたりできるのだ。ライヴが始まる前、客席はちょっと空いてるなあって感じだったけど、段々いい具合に埋まってくる。というか、お客さんの熱量×人数のトータルは、自分が今まで観た中で一番くらいだった。約1時間の演奏の後、20分くらいの休憩へ。この時点で、この前々日の朝霧JAMを軽く超える。そして第二部なんだけど、ここからが凄まじかった。ほとんどハードロックとも言えるゴツいリフが聴こえてきたとき、自然とヘッドバンキングをしているお客さんもいて、STS9でヘドバンかよと思う。だけど、もう何でもいいのだ。彼らはファンクであり、ジャズであり、ドラムンベースであり、ヒップホップであり、エレクトロニカであり、ロックであり、全てなのだ。
彼らが発する音に、そこで踊る人がいて一緒に作り出す空間が渋谷クアトロという限られた場所なんかでなく、上にも下にも右にも左にも、いかようにも伸びていく自由な空間だったのである。
こんなものを作り上げるバンドが他にあるだろうか? おれは、STS9のCDは3タイトル持っているけど、曲名なんかろくに覚えていないし、思い入れのある曲などないのだけど、だから何? 言葉とか、記憶に頼らず、彼らは純粋に今ここで鳴っている音楽の力で、この熱狂を引きずり出してきたのだ。それは今までプログレッシヴやニューウェーヴと呼ばれたバンドたちが夢見た地点にSTS9はいるのではないかと思えるくらいだった。本編終わっても激しい拍手、当然のようにアンコールも盛り上がり、それが終わっても余韻に包まれ、なかなかお客さんが引けなかった。
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report by nob and photos by yusuke
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