ザ・カスタネッツ @ 下北沢クラブ・キュー (19th Sep '05)
笑顔の種をもらった夜
このバンドがまとっている空気をひと言で表現するなら”温”だと思う。ステージにメンバーが現れた時から、なにか暖かい粒子のようなものが会場中に充満する。それは笑顔の元だといってもいい。ザ・カスタネッツのライヴには必ず笑顔が溢れているから。
彼らが奏でる曲はポップで絵本の色調のように柔らかい感触のものが多い。「俺」ではなく「僕」で、「おまえ」ではなく「君」なのだ。聴きながらほっとできるから、会場の雰囲気はいたって穏やかだし、観ている人々の表情もにこやかだ。でも、ただ暖かくて柔らかいだけではない、決してそれだけではないのだ。この日はMagでレポートする予定ではなかったにもかかわらず、こうしてレポを書いてしまっている。「書きたい、伝えたい」と強く思うくらいザ・カスタネッツに感情を揺さぶられた。
どこにそんなに突き動かされたかといえば、やはりVo.牧野元の持つ歌の魅力だ。丁寧に、そっと何かをなでるように唄う。本当に楽しそうに目を光らせて唄う。そして、自分のすべてを振り絞るように唄う。そうやって表現される歌は、柔らかいのに力強くて、胸にグッと刺さってくるような感じがする。カスタネッツの曲で多く唄われている、日々のちょっとした出来事がすごく大切なことのように思えてくる。例えば「また明日」っていうささやかな約束をできるのがどんなにうれしいことか、とか(この日本編最後に聴いた”また明日”より)。ジーンとして、身動きできないくらいにさせたかと思えば、”気分屋さん”のようなカラッとした曲では笑いの種を思いっきりばらまいて見せる。自分サイズの日常を歩きながら、何かいい感じや匂いのするものをひとつひとつ集めて、ライヴや音源で惜しみなく表現しているバンドだと思った。それをかぎとった会場の人達はみんなすごくいい顔をしていた。
ライヴの後、少しづつ冷たくなってきた秋の夜を吸い込んだら、いろんなものがクリアに見えてきた。何をやっていてもどこか空虚だった毎日に、ザ・カスタネッツが笑顔になる心地よさを思い出させてくれた。
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