登場人物
■幸田"ヤングコーン"伸太郎: オトコマエのテナーサックス奏者。エンターテイメントの融合を図るマッドサイエンティストでもある。
■ユキさん: スキンヘッドのバリトンサックス奏者。おちゃめな部分はサボテンで実証済み。
■ゴールデンパパ: どっしりと重厚なたたずまいながら、すばやい手さばきでリズムを叩きだすドラムス担当。
■タケオ: ウッドベースを抱く水先案内人。ロカビリーのテイストをさりげなく注入している。
■シュウちゃん: ブルーズもブギもお手のもの、ギターの音色を聞いたら一杯といわず二杯目もいける。
■コウさん: トロンボーンとスキャットは誰にも譲れない。サングラスを取ると、きっとそこにはつぶらな瞳があるはずだ。
幸田が選んだにがり100%の豆腐と、彼お手製の薬味やつゆを嗜む、幕間に生まれた呑んだくれ風情がいかにもスナックだ。おかげさまで、まんまとブラサキの手のひらで転がされている気がしないでもない。そんな折、ゆらゆら揺れる水面に、ポタリと水滴が落ちるようなざわめきがあたりに広がる。どうやら、しなびた町の風景がステージ前のスクリーンをはじめ、数あるモニターに大写しになったことが発端のようだ。さりげない日常を描くことに関して、右に出る者がいないと言われる小津安二郎のようなロングショットから始まって、カメラはずんずんずんと、いかにも妖しげな、赤い看板に吸い寄せられていく。それまでスターウォーズ・エピソード1が流れていたせいか、そのギャップに少々面食らいながら凝視していると、おぼろげながら、看板に笑いを誘う強烈な文字が書かれていることに気づく。
…『スナック宇宙』
幸田の親切なMCによれば、ところは浜松だそうだ。サボテンの影響が少なからず入ったおちゃめな演出に、一同ニヤリとしたのは言うまでもない。
小手調べの"Speak Around"は鋭い刃物のようにオトを切り「捨てる」美学によって成り立っているように思える。メンバーが徒党を組んで、一斉に襲いかかってくるのがブラサキの魅力のひとつであるが、その対極を見せつける落ち着いたアプローチに、凝り固まった先入観が粉々に。要するに、以前見た時のライブ(Snuck 宇宙 Vol.2)からある程度の期間を置いてしまったので、刺激的なヴィジュアルが肥大されて、僕の頭はずいぶんとハードボイルドなイメージを作りあげてしまっていた。
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"Talk Of The 52nd"では、幸田とコウさんが耳元に手をあてがい、スキャットで駆けていく。絶妙なユニゾンであるが、声の質の違いにより、コーラスにも聞こえる。一区切りとなるささやかな息継ぎのたびにまた別の世界が動く展開の早さに、カートゥーン・ネットワークあたりの、軽快なテンポで愉快な猫やら鼠やらがドタバタ走り回る騒々しさを連想したりもあった。"日曜日のチェルシー"は幸田曰く「昼のニューヨークをイメージした」とのこと。憂いを感じる落ち着いたイントロが響きだすと、やがてわき起こる拍手。決してけたたましく叩かれたわけではなく、思わず叩きたくなった感じのさめざめと泣くような拍手は、ジャズの実況録音盤に針を落とした時のそれと同じだった。
芸達者なブラサキは、以前から聴覚も視覚もしっかりとカバー出来ていた。それを表現するために、味覚やら、嗅覚を引き合いに出すこともあるけれど、所詮は一種の比喩にすぎない。しかし、この日に関しては、信頼できるスペシャルゲスト、ブラサキ宇宙の広がりを一手に仕切る影の親玉的存在、シュガー・スペクター(実のところ、佐藤さん)という切り札を持って来て、前方に陣取る常連さんの味覚と嗅覚をも支配してしまった。フランス語と僅かなハナモゲラ語をきっかけに調子を上げ、"マイ・ウェイ"を吹き上げる佐藤さんの横で、幸田は趣味である料理を始めた。まな板と親父さん譲りの包丁テクを駆使し、魚を使った九州の漁師料理「なめろう」を作っているのだ。残念ながら僕は箸をつけることが出来なかったが、遠目から見たところ、ユッケの魚版みたいな感じだった。ネギの香りは堪能しましたが、やっぱり味のレポートがしたいっすね…。
佐藤さんの嵐が吹き荒れた後、ユキさんと幸田のサックスバトルが展開され、お互いに一歩も引かない。ビデオで見たなぁ、ビッグバンドを後ろに従え、2人のサックスが直前のプレイよりもさらに凄いフレーズを奏でるやつ。前の奴よりもさらに上をいくプレイをしないとステージから引きずり下ろされるというスリリングな意地の張り合いが、こぢんまりとした日本のスナックで展開されるとはまことに贅沢じゃないかえ。"暗がりでツイスト"になり、もちろんジャズをベースとしたドラムであるのは言わずもがなだが、ベースラインはロカビリーテイスト溢れるものであったし、ラテンの陽気さも兼ね備えていて、それらてんでばらばらなベクトルが一つに収束した音像に心は踊った。アンコールの"ポークチョップチック"は、ひょっとすると、豚肉のぶつ切りですか? なーんて疑問もどこへやら、皆で共有できるグルメとはこうも楽しいものなのかと、ひとしきりあえいでしまったのですよ。とにかくさぁ、皆で来たらいいじゃないかと思うんですよ、身近な宇宙に。
report by taiki ana photos by sama
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