The Pogues @ Shibuya AX (26th Jul. '05)
酒をくれ、もっともっと…
THE POGUESでなかったら、夢だと思っていた彼らでなかったら「大満足」と言える内容だった。しかし、思い入れが強く、名曲が多すぎるバンドであるからこそ「まだ足りない」と思ってしまうのは贅沢なのか。
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数年前までは、シェイン・マガゥアンが参加し、ほぼオリジナルのメンバーが一同に会すことも奇跡だった。数ヶ月前までは、フジロックに来ること、ましてや単独なんて夢にも思わなかった。決定したあとも、シェインのアルコールにまみれた破天荒な人生が、ちょっとした不安要素であった。そして、いざ来るんだと安心しかけた矢先に台風の接近があった。天候までもが不安にさせるんだぜ、まったく。天気のアホタレ! ちょっとは安心させろよ、Pogue Mahone!(キス・マイ・アス!)。それもこれも、無事にライブをしてくれたから言えること。現時点では、イギリスでのGuilfestと今回のジャパンツアー、そしてフジロックのみの予定であるから、他地域では少し前の僕らみたいな思いを抱くヤツらが今でもわんさかいる。つくづく日本って恵まれてるなぁ、と思う。同じ島国だからか? "Pachinko"という複雑怪奇な娯楽があるせいか?
それとも"Sayonara"の意味を教えた日本人が偉いのか? もしそうならば、その日本人に感謝の言葉をいくら並べても足りない。もっと見せてくれ、もっともっと。これに味をしめて、再びツアーをしてくれたら万々歳だ。
卓越したソングライティング能力を持ちながら、酒で身を滅ぼしていったシェインが真ん中で歌ってるTHE POGUESが見たかった。アイツがいなけりゃTHE POGUESの魅力は半減、そんなことは皆わかってる。だからこそ、長い間諦めていたし、少し前の再結成を見て見ぬ振りをしていた。そんな過去もありつつ、突如として沸き上がった「本当の」再結成話に妄想が止まらなかったり「あれもこれもそれもイイね、こんなレア曲やっちゃうかい?」と友人との話に花が咲いて、忙しいことこの上なし。忙しいことは幸せなこと…当たってるかもしれない。「不安だ。不安」とのたまいつつも、ピンピンしたシェインなど見たくない。あぁやっぱり贅沢だ、贅沢すぎるぞ日本人。保証など無い不安定な感じが人を惹き付けるんだとわかっているなら文句を言うな、俺よ、おまえよ。
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ハコに入れば物販に続く長い列があり、それは正面玄関から左手へ伸び2階席を突き抜けて反対側へ。誰しもが待ち望んでいたバンドの縮図がそこにはあった。列に並ぶ若者の話に聞き耳をたてると「本当に信じられないよね、明日もライブなんでしょ? フジに来るときにはもうヘロヘロなんじゃねぇ?」…知ってるヤツなら首を縦に振らざるをえない的確な言葉が飛び出していた。イントロにも書いた通り、THE POGUESがいかにハイリスク・ハイリターンなのかは皆知ってる、相当な大博打だ。フロアに入ると、まだ明るいうちから「シェイン、カンバーック!」と何かの映画よろしく、しきりに叫んでた。ワカル、わかるぞぉ、俺たちゃ兄弟、老若男女のいっさいがっさいがポーグスチルドレン。SEの合間の静寂なんて耐えきれないよな。今日ぐらいは首に青筋立てなきゃイカンよな。定時に始まるなんて期待はこれぽっちもない、でも諦めていた数年間の思いがしっかりとのしかかってくるから待ちきれない。そんな自己矛盾と戦い、手は緊張で汗ばみ、気が気で無い状態をささやかながら緩和させるためにマーチンの紐をきつく締め直した。
THE CLASHの"Straight To Hell"が鳴り響き、客電が落ちると、叫びとも悲鳴ともつかない呻きがあたりに轟いていった。「出てきたぞ、ホンモノだ!」こんな言葉ですら、うまく言えなかった。スタイリッシュにキメた伊達男たちに数千のキラキラした眼差しがいっせいに突き刺さると、ステージからは余裕すら感じる微笑みが。赤みがかった玉虫色のジャケットを着て、その上にちょこんと青白い顔を乗っけたシェインも笑ってた。この瞬間まで一切の余談を許さなかった、頭でっかちな妄想からやっとこさ解き放たれたオーディエンスの口元は次第に緩んでいった。
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ジェム・ファイナーのバンジョーとスパイダー・ステイシーが奏でるティンホイッスルの調べに導かれ、"Streams Of Whisky"が始まった。「サー」の称号を勝ち得たかつての反逆者よりも、酒に逃げ込んでしまったリアル・ヒーローに覚える親近感のほうが遥かに大きい。Sex Pistols親衛隊であった過去を重ねたり、ガタガタの歯に喧嘩の名残を見たりと、音楽雑誌やライナーノーツで読んだ事柄のひとつひとつを確認していった。歌える・歌えないはともかくとして、不安定曲線を描くしゃがれ声が「ウイスキーのあるところに俺は行く」と歌えばオーディエンスは「行く!」と叫んでしまう。ラム酒も愛も鞭の響きですらもなみなみと注がれたアイリッシュ・フォークと、その注いだ酒をこぼしてしまうどうしようもないパンクが合わさった遠い地の祭り囃子は、冒頭からいきなりダイブとモッシュを加速させていた。
そんなパーティチューンに続くのは、彼らを聴くならまずこれを買え! というほどにストーリー性が溢れた名盤『堕ちた天使』のはえある1曲目"If I Should Fall Grace With God"。アコーディオンが鳴りだし、サビの「Let me go, boys. Let me go Boys」で、シェインの声がかき消されるほどのシンガロングと、突き上げられる拳の数々。ギターのフィリップ・シェヴロンやスパイダーがヴォーカルをとる曲では、シェインが裏へと引っ込み、コップにアルコールを注ぎ足して帰ってくる。それを数回繰り返しているうちに、いつしかよれよれとなり呂律がまわらなくなっていた。「カカカッ!」と痰が絡んだようなくすぶった笑いをするたびに体がぶれて、酒をこぼしては一張羅を汚していた。救いようのないシェインをバックが強力に支えているから、ライブはぎりぎりのラインで成立し「酔いどれバンド」としてあるべき姿、相応しい姿となっていった。彼が崩れるたびに、ニヤリとしてしまうオーディエンス。やっぱり皆、完全体のシェインは見たくないらしい。
そんじょそこらのバンドとは、楽しむ基準が明らかに違うので不安などは全くと言っていいほど感じなかったし、むしろ彼が何かをしでかすたびに、それが起爆剤となって興奮が渦巻いていった。
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本来シェインが歌うはずの"Thousands Are Sailing"ではフィリップがアイルランドからアメリカへ移住していった人々の物語をミドルテンポのオケに乗せてとくとくと歌い上げる。シェイン抜きで5年も続いたのは、スパイダーやフィリップ、そしてジョー・ストラマーのそれぞれ色が違うヴォーカルスタイルがあったからだろう。だが、よくよく考えてみると、ワールドミュージックへと触手を伸ばしていた時期でもあって、多様な声を必要としていたのかもしれない。アイリッシュフォークとパンクの融合につとめた時代は、アイリッシュの生活スタイルから抜けきれないシェインでないとつとまらない。それが例えジョーであっても。
パンクロックのテイストを薄め、ルーツを探索した曲"Dirty Old Town"では、共通の思いを持ったもの同士が同じフレーズを口ずさみ、肩を組む余裕すら生まれていた。ここまで楽しいライブを繰り広げてくれたから、あとは、あの曲とこの曲と…といった口に出さないリクエストをやってくれるかにかかっている。
戻ってきた彼らは、お目当ての曲を振る舞ってくれた。本編だけでもヒットメドレーだったのだが、アンコールの密度はその上をいっていた。憧れのTHE DUBLINERSとの共演を果たしたUKトップ10ナンバー"The Irish Rover"にアイリッシュとしての誇りを感じ、"Sally Maclenane"でスネアを打ちつけるタイミングで拳は無数に突き上げられた。そして、曲が終わると、ジェムはおもむろにサクソフォンを手にした。誰しもが待ちこがれていた"Fiesta"だ! イントロのゆったりとしたサックスのメロディはファンファーレよろしくボルテージを上げていき、ホイッスルが鳴ると同時にゲートは開いた。スパイダーは金属製のトレイで頭をしきりに打ちつけ、フロアはモッシュとダイブの嵐。パーティーチューンは想像を上回る勢いで突き抜けていった。
次はなんだ、"Yeah Yeah Yeah Yeah Yeah"か、"Honkey Tonk Woman"か、それとも"Fairytale Of New York"か。結果は"Fiesta"で終わりだった。単独が決まってから、それぞれがセットリストを思い描いていた。「もっとやれー!」「まだ足らねーぞ!」の言葉が吹き出して10分たっても帰らないオーディエンス。でも「金返せー!」ではなかった。ライブの中身は大満足だったが、頭でっかちな僕らには足りなすぎたのだ。帰り道「カースティ・マッコールがもうこの世にいないから、"Fairytale〜"を封印したんだろう」と友人は言った。その時は納得したが、今は違う。クリスマスにライブがあれば見れるんじゃないか? なんて前向きな思いにシフトしている。THE POGUES好きはみんなしつこいのだ。
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セットリスト(原文まま)
STREAMS/FALL FROM GRACE/BOYS/BMS/NED/TURKISH/RAINY NIGHT/
TUESDAY/WHITE CITY/PAIR OF BROWN/REPEAL/O.M.DRUG/1000'S/
BODY/LULLABY/D.O.T./BOTTLE/SICKBED
STAR/DOG/SALLY/FIESTA
report by taiki and photos by maki
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mag files : The Pogues
こいぃ〜 (05/07/27 @ Osaka Mother hall) : review by miyo, photos by maki
酒をくれ、もっともっと… (05/07/26 @ Shibuya AX) : review by taiki,photos by maki
photo report (05/07/26 @ Shibuya AX) : photos by maki
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