ダーリンハニー @ シアターD (19th Jun '05)
音楽好きなら見ときましょう。
ライブを見にやって来ました渋谷クワトロ…の隣。そう、隣です。そんな所にハコなんぞあったっけ? という声もごもっとも。僕もついこのあいだ知ったばかりですし、magにいらしてくれる音楽好きが想像するような、いわゆるミュージシャンが演奏する"普通の"ハコではございませんので。逆に、「隣」のお客様からしてみれば、クワトロも馴染みの薄いハコということになります。そのハコはシアターDといいまして、舞台と言ったほうがしっくりくる、若手芸人達の足がかりとなる場所です。
さて、今回取り上げるのは「お笑い」です。
取り上げる若手芸人の名前は「ダーリンハニー」といい、この日、念願の第一回単独ライブ「STEREO」を開催いたしました。左と右のチャンネルという意味の他にも何かウラがありそうですね。決してステレオタイプ(=画一的)な人たちではないですから。
ダーリンハニーは同じ高校に通っていた長嶋智彦と吉川正洋によって結成された、お笑いコンビです。スマートやスタイリッシュといった言葉が似合い、音楽的趣向も見え隠れするスタイルは一種独特。それもそのはず、結成当時の名前は「モダんず」といい、長嶋氏はモダーンズ(俗に言うモッズ)やシブヤ系のアーティストを数多く輩出した和光大学の出身です。自らもその昔、バリバリのモダーンズでVESPAにまたがり青春を謳歌したという逸話の持ち主でもあり、先日のMODS MAYDAY ‘05にもオーダーメイドで仕立てたユニオンジャックの三ツ釦スーツに袖を通して登場し、周囲の視線を一身に受け踊っておりました。相方である吉川氏とは初めてお会いしましたが、リハーサルの合間に(だけではないのですが)ギターをかき鳴らすあたり、やはりというか音楽好きの匂いが漂っておりました。
※ここではセットリストより、ネタのタイトルをつけていますが、本番では発表されておりません。
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『本人登場』
ブザーが鳴り、客電が落ちた。第一回公演に満を持して登場するという意味と、ネタ自体の名前というダブルネーミングでこれがセレクトされたのだろうか。キンクスに通ずるイントロで始まったメロディは、次第に70年代後半〜80年代にかけてのアイドルが歌っていたような歌謡曲に変わっていく。モノマネ番組をテーマとした作品で、騒ぎ立てるほどでもない些細な歌詞に合わせたコミカルなフリや、吉川が演じるモノマネ芸人(弱者)と長嶋が演じる節回しがやたらと鼻につく本家アイドル(強者)のやりとりが見どころ。「あるあるネタ」を自分のギャグと絡めてブレークする芸人が多い時代にあって、ひとつの物語としてまとめ、コントとして発表するという昔ながらの笑いを提供していた。最後はライトがだんだんと暗くなりフェードアウト。結果を見せないってのは一種の技だと思う。
一ネタ終えて、オープニングの映像が流れた。R&BのBGMとリンクする形で、ターゲットマークがあしらわれていたり、フレンチポップ風な色使いが印象的。演出家・長嶋の私的趣味趣向が炸裂するワンシーンだった。
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『猫』
真っ当なキャラを演じることが多い長嶋だが、このネタでは轢き殺した猫に取り憑かれてそそうしまくる。猫というまったりとした自由気侭な生物になりきり、腰のライン、まばたきにいたるまで完コピ。確かに彼は犬よりは猫が似合う。吉川の素が垣間見える、奇怪でありながら、どこかしらアットホームな風情が漂う作品だった。
『グルーピー』
グルーピーとは音楽用語で言うところの自己中心的なファンだ。海外アーティストが来日しライブを行なうとき、場違いなセクシー衣装を見に纏った女の子は大抵グルーピーと捉えてもらっていい。それをアキバ系に置き換えて、スリムな吉川が演じる。降りかかる身を想像してみれば恐ろしさがさらに倍増するであろう音楽ネタ。一人で妄想まじりのQ&Aを処理しながら、長嶋が演じるミュージシャンに理不尽な要求を突きつけるため、彼ははしだいに困惑していく。周りの見えない妖しげな女と、うろたえた小動物のようなミュージシャンとの間に存在する溝に焦点をあてている作品だ。
『演出家』
プロデューサーらしき男(長嶋)に駆け出しの俳優(吉川)が操られる様を見て、僕らには縁遠いテレビの裏側を想像してしまう。かなり誇張されたネタだとは思うが、知らぬが仏。実際の状況を知る由もないため「マジでそんななの?」と思いながらも納得させられてしまう。プロデューサーの一語一句にバカ正直に反応する俳優は、裏切られ続け、挙動不審の度合いがさらに高まる。俳優に押しつけられるのは時事ネタや社会批判。日本という国をチクリと皮肉ったネタでもある。名フレーズの宝庫だし、長嶋のもっともらしい動きにも注目。
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『ギター』
ギターを手放せないストリートミュージシャン(吉川)が、順風満帆な友達(長嶋)の家に押し掛けるというお話。およそ勘違いな明るさでごり押ししてくる様を見て、こんな奴ぁ別世界で生きていったほうがいいんじゃないかとどこかで思いながらも大爆笑してしまった。選択肢を無理矢理狭めて思い通りにことを進めようとはしてみるものの、メロディにのせて余計なことも喋ってしまうためあえなく失敗する。迷惑な存在であることには変わりないが、ここで演じられる蛇足な男はどこか憎めないし微笑ましくもある。
『お遊戯』
こっくりさんを題材とした、懐かしさが漂う学生ネタ。霊的なものを信じない長嶋と、信じる吉川のデコボココンビがくりひろげる青春時代の覇権争い。しかし、どうやっても一枚上手な長嶋が主導権を握ってしまう。考えがまとまっていない言動や、恋愛でうろたえる様子など、若さゆえの甘酸っぱさもしっかりと滲み出ていた。
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『ダンスホール』
場所はクラブ。これまた妖しげな女装で登場の吉川が演ずるのは「理科」という女(自己紹介は必見!)。寡黙な男性(長嶋)に言いよるため、理科は定位置である踊り場と男がたたずむテーブルを行き来するたびに混雑したフロアを通り抜けて行くのだが、彼ら2人だけしかステージ上に存在しないため、カニ歩きにしかみえない。これが狙ってないんだろうけど面白くて、クスクスと笑いがこぼれていた。そして支離滅裂な単語を吐いて元の場所へ帰る。彼女は、言いよってくる男には冷たい、プライドの高い女のようだ。吉川の女装ネタはこのあともまだまだ続く。
『告白シミュレーション』
高校で結成というからには、学校が舞台のネタには、多少の経験等が加えられていると思うのだがどうだろう。恋愛の、ガツンと言えない恥ずかしさやプライド、さらに気持ちの探り合いをテーマとした作品。その探り合いによって思いがけない言葉が飛び出る過程は、あのじれったい雰囲気だ。名前でしか登場しない第三者(一応、本命の女だが…)の存在によって三角関係が出来上がる。やがて状況は二転三転、真実はどこ? えっ、そうなの? と観客を手玉にとりながら、物語は加速していった。
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『スピーチ』
ダーリンハニーを代表する「アイリーン」ネタ。アイリーンは出身国フィリピンを「ポリピン」と呼ぶ正直すぎる女だ。このネタには『エンタの神様』のDVDに収録されている「アイラブ・アイリーン」の続編だ。舞台は結婚式で、スピーチを担当する男(長嶋)が体調不良でトイレへ。その間にスピーチの順番が回ってきてしまい、爆弾ポリピン女・アイリーンが代わりに放言してしまう。大雑把なポリピンの経済や日本人論を軽快なテンポで語るため、結婚式はあらぬ方向へと向かい始める。明るく自虐し、明るく攻撃してくるキャラは最強だと思う。名作だ。
「笑われる」ではなくて、知性をウリにした「笑わせる」ダーリンハニーのネタ。コアな音楽ファンも十分楽しめることだろう。今回の第一回単独ライブは発売後即完売してしまったプレミアチケットでした。でも皆さん、ぜひぜひ次回の単独ライブに足を運んでみてください!
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report by taiki and photos by sama
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mag files : Darling Honey
音楽好きなら見ときましょう。 (05/06/19 @ Theater D ) : review by taiki,photos by sama
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