あがた森魚、真黒毛ぼっくす、ニッカーボッカー 幕間:徒然楽隊 @ 新宿レッドクロス (12th jun. '05)
新宿外れの狂想曲
新宿紅布はギュウギュウのパンパンでした。先ほど東新宿駅から歩いてくる途中、向こう岸の新宿ジャムの前に大きな人だかりを見つけたことを考え合わせると、日曜日の新宿地下事情はいまだ幸福なようです。
身動きもままならないフロアーから眺めていますと、あがた森魚はウエスターンハットをかむり、「こんばんはー」とボヘミアンめくショールを羽織っての颯爽とした登場で、隣にはリッケンバッカーをぶら下げた年若い女性が「ツン」と控えています。まず不思議な組み合わせに思えたステージ上の二人ですが、主人がアコースティックギターを弾きながら歌い始めますと、リッケンバッカー女史は柔らかなエレキギターの音色をあやつりその物語を甘くコーティングするようで、私は「糖衣ギター」なる言葉を頭に浮かべ、「なるほど」と了解したのでした。
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ステージ上はフロアーと同じくらいの混雑ですが、それまでジッと左手元を見つめながらストイックな伴奏で指揮棒を振っていた主人は、その肩からストラップを外し、その手にマイクだけを握る勇姿で「真っ黒毛ぼっくすと合うのか合わないのか、グッと渋いやつをやっちゃっていいかな」と宣言し、今晩のハイライトのひとつ「春の嵐の夜の手品師」を始めました。感情をたっぷり入れたり突き放したり、伸び縮みしながら語尾に向かって脱力していく艶っぽい声の魅力と、永遠の空想家にふさわしいキラキラとした物語世界の魅力とを、この曲は余すところなく伝えてきます。 |
「香ル港」「ジェットプレーン」の二曲はこの二人だけで演奏しますが、その無駄も飾りもない舞台装置には、嵐の前の静けさといった緊張がありました。すると案の定、あまり大きくない舞台上に、各々楽器を持った男や女が参加してきます。ベースにドラムにアコーディオン、ジャンベを股に挟んだ人も見られ、彼ら都会の音楽隊は、今晩の出番を終えた真っ黒毛ぼっくすの面々で、「今にしてみれば」で肩慣らしを終えると、さらにリコーダーとアコースティックギターを抱えた楽士も加わるにぎ
やかさです。
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楽隊も、30年前からそこにいるような貫禄で、「グッと渋いやつ」にもバレリーナの叙情が溢れこぼれる寸前の演奏でよく似合っていましたし、次の「ドミニカ共和国で録音したアルバムより・・・」との導入で始まった「MORIB監獄」では、さすが「騒ぐ曲ならお手のもの」と、自分の土俵に引き寄せた力士さながら「のこった!のこった!」の大変な騒ぎです。女性の一人は、そのアルバム名「ギネオベルデ」にちなんだ、青いバナナを高々と掲げ、主人もピョンピョンと、狭い舞台はいよいよ監獄の狂騒です。 |
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舞台の上には、所狭しと色々な種類の人が、様々な楽器をもって、それぞれの方法で楽しんでいるので、「像ねずみの校庭」の最後などでは、学生時代の体育館を思わせる大円団の青臭さがあり、それが曲本来のノスタルジアを説明しているようです。さらに本日もうひとつの共演者ニッカーボッカーを加えた「港のロキシー」では、別れを常とする港で、その悲しみを紛らわそうと精一杯明るくみせる楽隊の趣がありますし、さまざまな楽器が加わりいまや飽和状態の舞台美術が、上手に働いているように思われるのです。
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本編が終わり、当然のアンコールの拍手に呼ばれた主人は、リッケンバッカー女史とともに、再び舞台に登場しました。そうして「つまり・・・戦後すぐのことなんですが・・・」とあがた森魚小学校時代の担任、佐藤敬子先生の思い出を話し始めます。給食にでる獣臭いヤギのミルクを飲めなかったあがた少年に、手ずからミルクを口に押し当て飲ませようとする先生、そのとき少年は先生の手をガブッと噛んでしまい、そこに春の目覚めを感じる話等、セピア色の語りはいつの間にか伴奏を伴い、「佐藤敬子先生はザンコクな人ですけれど」へと流れていきました。そんな個人的な物語に、我々があたたかい気持ちで聞き入ってしまうのは、その私小説世界がオブジェの連続で仕上がっているため、個人的事象から抽象へと開かれるからなのでしょう。
再度、大家族の楽隊が登場し、舞台も華やかににぎわうと、アコーディオンによる三拍子が始まりました。「赤色エレジー」の始まりです。この曲でも、みんなは黙っちゃいません。笛が鳴り響き、チンドン屋が客席を練り歩き、リコーダーが問答無用のノスタルジーを演出する、このジンタめくマイナーコードの寂しい騒ぎは、「赤色エレジー」という永遠の恋人に出会ったかのような堂の入りかたです。曲最後のリフレインはあがた森魚抜きの大合唱で、主人が多少ヤレヤレ顔を見せた気もしますが、「お涙頂戴ありがとう」の大円団、客席もステージ上も、幸子と一郎のお涙頂戴話に乾いた涙でガハハと盛り上がる大円団。帰り支度も始まり、寂しくなったフロアーには、お客さんの落としていった乾いた涙がゴロゴロとしていました。
今晩はニッカーボッカーと真っ黒毛ぼっくすでしたが、あがた森魚は若いバンドに競演を呼びかけられることも多く、いろいろなバンドと同じステージに立っています。そのつど、既成の曲が目くるめくその衣装や表情を変えてゆく!こんなに魅力的なことがありましょうか? |
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report by yuji and photos by nachi
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