Yo La Tengo @ Laforet Museum Roppongi (28th May '05)
スシとサシミとヨ・ラ・テンゴ
ヨ・ラ・テンゴ。この一度聞いたら忘れがたいリズムをもつバンドは、86年から活動を続けている20年選手で、現在はギターとベースとドラム、それに鍵盤を少々の、余計も無駄もない単純明快なスリーピース・バンドです。シャツの襟がよく似合うドラマーと丘サーファー調ボーダーシャツのギタリストは夫婦、それに大きな体をしたベース奏者の丸メガネを足したら米国産ヨ・ラ・テンゴの出来上がり。彼らの持ち味は、時に白昼夢のめまい、時に海底へさし入る薄光のゆらめき、中でもギターのフィードバック・ノイズは、マーシャルを積み上げた即物的なそれではなく、古いフェンダーの生物的で艶かしいうねりで、加えて彼らの音には「アート」云々をヒョイっと飛び越えるクレバーな説得力があるところが出色です。
さて、時は2001年の4月にまでさかのぼります。サンフランシスコ・インターナショナル・フィルム・フェスティバルなるお祭りが開かれた際、1920年代のフランスで活動をしていた、ジャン・パンルヴェという科学者にして映像作家の一風変わった短編映像集が上映されました。このフェスティバルでは、知名度が低いという運命をもった、古今東西のフィルムを見ることができるのです。そこでヨ・ラ・テンゴは、故ジャン・パンルヴェの8つの短編映像に生演奏を合わせました。この企画は好評を博したようで、アメリカ国内各地やロンドンなどでも催されたようです。
さあて!ようやっと本題だ。つまり、このスペシャルな本上映会兼演奏会が、ロッポンギ・ジャパンにやってきた!
だだっ広いホールの天井は高く、簡易椅子が整然と詰められたフロアーの正面には映写を待つばかりのスクリーンが掲げられ、左右には襞もスレンダーに、長い幕が垂れています。幕に挟まれスクリーンに見下ろされたステージには、弦楽器や箱型のアンプ器機が、子供部屋のやり方で散らばっており、それらはホーボーケンから来た三人囃子が登場し、会場に闇が始まりいよいよの上映もはじまると、スポットライトを受けることなく影に見えなくなりました。
三人の楽士たちは、スクリーンを見上げながら、闇のなか演奏を始めます。
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正面に眺める明るい四角形の中では、クモガニ、ウニ、クラゲやタツノオトシゴなど海洋生物の生態がそれぞれ一編ずつ説明されていきます。その一編一編に対して、楽士たちは、ウニの体内の神秘に舌を巻いたり、エビの哀しさを勇ましく励ましたり、顕微鏡で覗く一匹のクラゲの誕生を祝福したり、タコの愛欲をデフォルメしたり、ティム・バートンも真っ青の海底界をホラー風味に演出したり、二匹のタツノオトシゴがト音記号型に丸まった尻尾の先をカギに絡ませ、無邪気な遊戯に耽るのをはやしたてたり、魔女の舞を披露するカエデのスカートを音符の色気で水にゆらゆらとさせてみたりと、エレガントに生命的な映像に、聴覚で注釈を加えるのです。恐ろしい形相をしたタコが獲物を捕らえるとき、楽隊の調子は一気に高まります。ギターの悲鳴は危機一髪の獲物に警鐘を鳴らすかのよう!ドラムの轟きは見るものの恐怖心を煽るかのよう!ベースの高鳴りはタコの鼓動を映すかのよう!そのようにして、映像と音楽は綴れ織り合っていました。ジャン・パンルヴェの作品も、ユーモラスかつ科学的で、そのアプローチは生物学的に過ぎず、実験映像に傾き過ぎもせず、ヨ・ラ・テンゴが「アート」をすり越えるように、「教育」や「芸術」といった言葉を虚しくさせる説得力があり、その点からでもこのコラボレイトのマジックを説明できましょう。
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八つの神聖にして壮大な生命の物語が終わると、闇になじんだ三人の音楽家は一列に並んでお辞儀をし、海洋生物研究の発表が終了したことを我々に告げました。そうして終演後、人波を避けて来た方とは別の方向にある地下鉄駅へ向かう途中、ふと見上げた東京タワーが水中の微生物と同じ微細な光り方で伸びていたのでした!私は連続した海底の気分を味わい、足元をすくわれたようによろめきました。
追記
この「The Sounds Of Science」を音源化したもの「The Sounds Of The Sounds Of The Science」は、ヨ・ラ・テンゴの公式ホームページのみで購入できます。
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report by yuji and photo by nachi
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