button リクオ @ 京都 拾得 (30th Jan. '05)

心象風景のピアノフォルテ


Rikuo


どこへでも流れてゆくのさ ぼくらは風 そんなイメージ


Rikuo  阪神大震災で被災し、独り身のお年寄りなどに弁当の宅配を続けるヴォランティア団体〈すたあと長田〉 を支援するために作られたコンピレーション・アルバム『風ガハランダ唄』 。そこにソウル・フラワー・モノノケ・サミットの面々やヒート・ウェイブの山口洋、石田長生らとともに収録されているのが、リクオの「風のイメージ」という曲。

 簡素だけれど豊かなピアノの弾き語りとチェロの音色に乗せられて、優しく浸透していく歌声。アルバムのスリーヴには、震災当時、全国各地から神戸に、そして長田に集ったヴォランティアたちに向けて「あなた方はまるで風の様にこの町に辿り着きましたね」という言葉が添えられている。風ガハランダ唄…なるほど。


Rikuo  町から生まれる歌は、当然、そこに暮らす人々から生まれ、支えられ、祭りや酒席や、町の人々が集う場所で語り継がれる。まるで肩を寄せ合うようにして。そんな風景を目の当たりにしたのが、今年9年ぶりに長田神社で催され、アルバムに参加した面々もこぞって境内のステージに立った『つづら折りの宴』 という草の根イベント。あの震災で失われたもの、もう取り戻せないもの、そして、そこから生まれたものを実感した冬の一日だった。

 ちょうどその打ち上げの席で、ソウル・フラワーの中川敬さんたちを交えて『自己責任論』の話題になり、リクオさんの「若者が、とか動機が不純とかって非難されるけど、世界中で起こってるいろんなことを見たいっていうのは、そんなん若者の特権やん。俺だって見たいよ」という言葉が、「風のイメージ」の歌と重なって、とても印象的だった。そんな風たちの意思がなければ、きっとこの歌も、このアルバムも生まれることはなかっただろう。ぼくももう、そんな特権を失っているのかもしれない。

Rikuo  そういえばリクオの歌には、旅や、その旅先での心象風景、短編映画のような他愛もない男女の会話や、そこに添えられる情景…ふと気がつくといつのまにかぼくらが失っていたものが、懐かしく、脆く、愛おしい共有意識のように紡がれている。さすがにこの年になって、もう夜に、訳もなくただ闇雲な不安に駆られることもなくなったけれど、「きみのことを想い出し 夜更けに電話をした 眠れないでいるのは ぼくだけじゃなかった」(「風の声」)と聴くと、なんだか懐かしく微笑ましい気にさせられる。少々恥ずかしい告白だけれど、そんなこと、だれにだってあることだ。

Rikuo  好盤のライヴアルバム『Rollin’』では、ポラリスの坂田学の小気味良いドラムス、ロザリオスのトキエの伸びやかなベースがスクラムを組んで、ピアノトリオで生音ドラムン風に軽快に走り抜ける「風の声」だが、地元京都、拾得では8年ぶりとなるこの日は、繊細な、そして力強い弾き語り。小坂忠のカヴァー「機関車」では、胸打つ歌声にだれもが目を閉じて聴き入っている。それはごく自然な光景。人の弱さを知っている人間が本当に強い人間、そんな心象風景を歌う人だ。 そんな彼が「ピアノフォルテ(弱く強く)」という名をもつ楽器を繰り、ジャズにブルーズ、ブギ、スゥィング、シャンソン、ボサにラテン(それにもちろんアグレッシヴなロック!)までも垣間見える、心的にポリフォニックな和音とリズムを響かせているのは、本当に天性のものだと思える。


Rikuo  10数年前のデビュー前や直後にホームグラウンドのように立っていたというステージから、漆喰塗りの町屋を改装した趣きのある店内を見渡し「なんも変わってへんなぁ」。歌詞とコードを走り書きした譜面ファイルを手に、年期の入ったヤマハのアップライトをぽろんと弾いて「やっぱり、このピアノはブルーズが合うな」 そう言って攻めるブルーズでシャウトする。学生時代、足しげく通ったという高田渡のライヴのエピソードを懐かしそうに語り、「おれも飲もうかな…飲んでもええよな?」と焼酎のお湯割りを注文する。「芋で!」と付け足して。ご機嫌なブギ「マウンテンバイク」や、軽妙なボサ風の「夜霧よ今夜もありがとう」での微笑ましいコール&レスポンス。そして、ごくごく自然にそうなった、抑揚のついた流れのなかで愛おしむように歌われた「光」や「風のイメージ」といったバラードは、店内の空調を背景音にして、歌声とピアノの音色が、静かに浸透していくように紡がれる。

Rikuo  胸にグッと迫るものを感じて、ちょっと涙しそうになったのだが、若者の特権とは逆に、この感受性は年齢を経て研ぎ澄まされるものかもしれない。そう思うと、なにも失ったものばかりではないのだ。音楽に涙する。これほど心地良い時間はない。これほどの快楽は。それに素敵な出会いは、音楽を含めて、年を追うごとに確実に増えていくものだ。忙しさに押されて、立ち止まる時間をないがしろにさえしなければ。

 曲間にロングフェローからたこ八郎までの名言を綴った定番「パラダイス」の後、この日のアンコールは「スローなブギにしてくれ」だったのだが、演奏しながら実に機嫌良く飲んでいたせいか、トイレから登場したのはある意味斬新だったな。それくらいに気さくな雰囲気と、泣き笑いに満ちた楽しい一夜だったのだ。
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