buttonKatia Guerreiro @ Shinosaka Melpark Hall (28th Sept. '04)

愛おしいファド ~カティア・ゲレイロという響き

part1
Katia Guerreiro
 ポルトガルの国民性といえば、ドラマチックだけれどどこかはかなく、悲観的なイメージがぬぐい去れない、そんなことを改めて感じたのは今年の初夏のユーロ2004。地元開催で悲願の初タイトルを目指した代表チーム、しかもフィーゴ、ルイ・コスタら『黄金世代』が活躍するおそらく最後の国際大会となる。国民の期待を一身に背負っての華やかな開幕戦で、ポルトガルは伏兵ギリシャにまさかの敗北…。

Katia Guerreiro  しかも完敗だった。試合終了を告げるホイッスルが鳴り響いた瞬間、満員のスタジアムからは、すでに諦めと達観の視線がピッチに向けて投げかられていた。

 あの敗戦の衝撃は、なにもポルトガルだけが受けたものではないのだが、それまで街中で続いていたお祭り騒ぎが翌日からは一転、喪に服したかのように静まりかえったそうだ。期待が大きいほど失望も大きい。この10年、ポルトガルのサポーターたちはそのことを繰り返し知らされ続けてきたのだから。

 その後まさに背水の陣でしゃにむに勝ち進んだポルトガルは、決勝戦で再びギリシャに破れる。サポーターたちは(皮肉にも)まるでギリシャ悲劇を見ているかのような思いだっただろう。この試合を花道に代表チームからの引退を表明していたルイ・コスタの、疲れ果てた背中がすべてを物語っていた。リスボンはこの日、街に溢れた何万というサポーターたちの吹き鳴らすホーンの嘆きと、悲しみの声に沈んだのだ。

 ポルトガルを象徴する3つのF。フットボールと、マリアの降臨で知られる聖地ファティマと、そしてファド。
Katia Guerreiro
「ファドというとどこか悲しいイメージがあるのだけれど、そんなことはなくて、喜びだったり、人生におけるすべてのもの、ファドとは人生そのものです」 カティアがステージ上から観客に向けて語りかける。訥々とした言葉を補おうとしてだろうか、身振りを交えて。事実、彼女の歌うファドには達観や、悲観的な響きはまるでなくて、「世の中にはすべてのことがある。このすべてのことは悲しい。このすべてのことがファド」と歌われる“これがファド”のようなはかない歌も、なぜだか慈しみに満ちた柔らかなヴェールに、そっと包まれてしまう。

Katia Guerreiro  小悪魔的な複雑な女心を綴った“セグレードス(秘密)”など、恋人へのいたわりの気持ちとさえ感じてしまう。“あなたの魅惑”や偉大なアマリア・ロドリゲスのレパートリ“真紅のバラ”といったメジャー調の明るく弾むような曲では、トレードマークの背中で両手を組んだ姿勢のままで、ゆりかごのように、リズムに肩を左右に漂わせる。プログラムの終盤、アマリアのというよりファドの代名詞である“暗いはしけ”では、客席から鳴り響く手拍子に誘われるように、背中に組んだ両手をほどき翼のように広げて歌う。

 そんな不思議で新鮮な魅力がいったいどこから来るのか、吸い込まれるように彼女の歌声に耳を傾け、ステージ上のカティアを見つめていた。彼女は空っぽだ。ギターラのように、空洞の体に歌声を響かせているのだ。

Katia Guerreiro  女性の体をギターに喩えた詩人はネルーダを始め数多くいるだろう。カティアの歌声は、一本一本が喜びや悲しみであり、愛や生、風や海、美しい風景であり、そして物語といった弦をつま弾き、擦り、掻き鳴らすことで響く。歌を介添えするギターラとクラシックギター、コントラバスでさえ、カティアの心に張られた弦の一本として、他の感情や風景とともに響き合っている。

 そんなふうに歌う歌い手を僕はこれまで知らない。



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