Andy Van Dyke @ THUMBS UP (22nd June '04)
「アメリカン・ルーツが持つ力」
アメリカン・ルーツという言葉がある。文字通り、アメリカをルーツとした音楽のことで、それはフォーク、カントリー、ブルースなどを指し、この昨今、ひとつの曲に様々なジャンル要素が混じっているなか、もっと根本に回帰しているようなシンプルなもののことのようだ。その「シンプル」ってやつはいったいどんなものなのか?ということを、RainravensのAndy Van Dykeが教えてくれた。
この日は、横浜のThumbs upでよくライブをしているというオハラマヤというシンガーが前座で歌っていた。アメリカンロックをイメージして会場入りした僕には、彼女の不思議なメロディに少し困惑したけど、すぐに、彼女の世界に入っていくことが出来た。弾き語りフォークスタイルなのだけどコードの音色が抽象的なもの哀しさのなか進んでいき、綺麗な声でポツリとした存在感で歌っていた。ミステリアスであり、どこか根底にブルースやロックの持つ「泣き」の感情が彼女の歌に存在しているように感じた。
ところでこのTHUMBS UPは、アメリカンの内装なバーレストランの店なんだけど、ブッキングが凄い。7月末なんてフジロックに出演するアーティストがゴロゴロ要る。キースリチャーズ、ポールマッカートニー、エルヴィスコステロなどが大ファンと公言するNRBQや、バンバンバザール、THE SAVOY TRUFFLEなどが決定していた。FRFに行く方で、現地での彼らのライブを見て感動したり、見逃したりしたのなら、ここでライブをやるので、戻ってきたら店に足を運んで欲しいです。
さてそんななか、いよいよANDYの番になった。ANDYもアコギ一本の弾き語りスタイルでギターを弾き始めた。曲調としては、アメリカン・ルーツなカントリー、ブルース、ロック、そのあたりを基調として、Amからのメロディだ。哀愁あるそのメロは、どこか日本のフォーク全盛期にも存在していた物哀しさと底辺に同じ水脈が流れているように感じる。
アメリカンルーツの話に戻るが、日本の音楽において、戦後いろいろな海外の音楽が日本に入ってきて、日本の音楽はアメリカンルーツの影響を強く受けたとしてもいいんじゃないだろうか。フォーク世代も、弾き語りで自分の魂の原点を歌おうとしているし、ボブディラン、ブルーススプリングティーン、エリッククラプトン、ブルースならマディウォーターらがそのルーツを掘り下げていて、さらに彼らが秀逸なのは、決して奇形の個性で終わらず、今の言い方をするならPOPであり、別の言い方をするなら、多く人々ひとりひとりのこころに、ギターの力を借りて伝えようとする、「生きていく」というヴァイヴが、ダイレクトに届く力強さがあった。その力強さ、POPさ親しみやすさは、日本にもフォークをはじめとした当時の歌謡曲に深い影響を与えたといえるのではないだろうか。
そのアメリカン・ルーツが持つ力とは何なのか、ギターが弾き語りできて歌声が綺麗なのとそれはどう違うのか、それはANDYが体現で教えてくれた。二者はぜんぜん別物なのである。ANDYも歌声が綺麗で、奏でるアコギの音色も聞きやすく曲として親しみやすいが、そのほかに、「風」を感じさせる。風とは、その曲を作ったとき、誰かに聞いて聞かせてるその風景に流れている風だ。隔たりが無い広々とした空の下で生まれた曲なんだな、そのように感じさせられる。ボブディランの「風に吹かれて」などはスピーディーワンダーなどにカヴァーされたほうが有名だったりするが、原曲はただのアコギ弾き語りなのに、耳の横を抜けていくその風を強く感じてしまうのだ。風を呼ぶ力がアメリカンルーツ、特にロックやカントリーに強くあるんじゃないかと僕は思う。テキサス州の少し郊外の自然が残された場所で、ANDYはリラックスした状態で、ロック、カントリー、ブルースを使い分け、時にはハーモニカを使いながら一人で歌っていた。
ライブが終わったあとに、僕はANDYが感じさせてくれた「風」と、ルーツの持つ力強さ、そしてそれらを引き出すために必要不可欠なアコースティックギターという楽器のポテンシャルにただ敬服するばかりだった。そしてそれらを最大限に見せてくれたANDYの魂にも。
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report by taku and photo by Noriko Hashimoto
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