buttonThe Vines @ Shibuya Club Quattro (19th May '04)

「伝説」


  いやいや、レポートを書く人間にとってこれほどありがたいライヴは早々出くわすことは出来ない。「悪夢。」このライヴの内容などこの一言で言い表すことが出来るのだから。 The Vines

  昨年のマジックロックアウトをキャンセルして以降、英国はおろか日本の音楽誌ですら表紙を飾るなど、はちきれんばかりの期待を向けられた今日のライヴ。渋谷クアトロ入り口では20人ぐらいはいたであろうか、皆「チケット買います!」と言う紙と懇願の意を込めた表情をこちらに向けていた。クーラシェイカー初来日の時はそちら側の人間だったので、彼らの期待も背負った気分で会場に入る。しっかり見届けるぞ!

  ファーストアルバムからのヒットチューン"Outtathaway"でその幕は開く。カタルシスとまではいかないものの、フロアのテンションもなかなかのもの。...だがしかし、何かがおかしい。この曲のビデオクリップや、インターネットなどで彼らのライヴ映像をご覧になったことがある方は分かると思うが、ボーカルのクレイグと言えば目をひん剥いてがなる、あくの強いカートコヴァーンのようなスタイルを私は想像していた。

  今日の彼はそんな意図的なやさぐれ方ではなく、ただ純粋に嫌そうな表情を浮かべていた。寝起きの悪い人間が殴られて起こされた時の表情みたいなものだ。しかもそれは”Amnesia”の時辺りからしきりにモニター(アーティスト側に演奏の音を返すもの)の音量の不満を指示していくことで「悪化」していく。この時、私の頭に「ヴァインズのライヴは最低と最高がハッキリしている」という話がよぎった。

The Vines   その事を皆同じように思い始めたらしい。開始から10分ぐらいであろうか、クアトロのフロア全体に、ハッキリと分かるくらいの緊張の色が見え始める。最新ヒットチューン"Ride"の盛り上がりもどこかぎこちなく、アコースティック曲の終わった時の歓声など白々しさすら感じた。

   クレイグ自身も数曲後にとうとう鬱憤が口から漏れ、SやFから始まるよろしくない言葉がマイクを伝っていく。最初は「イエー」で返していたオーディエンスも「ドラッグくれ」と彼が言ったクレイグを「また冗談言ってー」みたいな空気が流れている時に「マジでさ」と表情も変えず彼が言い放つと、クアトロはもうガラスを割っちゃった小学生と仁王立ちの体育教師の構図である。「今日は...シャレにならん」私はクアトロ入り口で背負った期待を放棄することにした。 The Vines

  「口撃」はそのあたりから止まらなくなる。「クソッたれ。この国はクソだ。」などと我々までも次々罵倒し、ビデオ撮影者に水をぶっかけたりあからさまにやる気の無いアクションを取ったりする。それが「ロック的★」と盛り上がれるのであればまだしも、会場一体は完全に萎縮してしまっている。他のメンバーも奥に引っ込んでいくし、最初は「このライヴもしかして中止に...?」とドキドキしていたが、「クソッたれ、もう出てくぞ俺は。何か言えよお前ら、わかんねえのか?」とまで言われたら「そこまで言うならさっさと帰れよ...」という気分になってきた。満足できないライヴは数多く経験したが、ステージ上の人間に怒りすら湧いたのはいまだかつてない。

  この空気が少し変化したのはヒット曲”Get Free”の時だ。穏やかでない雰囲気をギターのイントロがかき消して、フロアは再び盛り上がりを見せる。これは退廃的な社会に刺激を、というロックの初期衝動がもたらしたラッキーなのかもしれない。そんなイントロの時に、クライグはギターを置いてステージを出て行こうとするのだが、そこで響いたのはオーディエンスの「I Wanna Get Freee!!」の合唱だった。おお、なんという感動的なシーン!それを聴いたクレイグはその日初めての笑顔を見せて再びマイクの前に戻ってきたのだ!!!...なんだこれ。中学生日記すか? The Vines

  まあ色々あったけど的な具合に、いささかぎこちなさはあったもののそのまま安定した演奏が続き、最後は”Fuck The World(F.T.W.)”で締め括られた。最後、ギターでドラムをバッキバキに攻撃していたが、前半の重い空気に比べたらこんな行為はどうってことない。終演後アンコールも無くいきなり客電がついた時、皆がほとんどブーイングを出していなかったのは、きっと気のせいではあるまい。

  今日のステージは賛否両論なんて生易しいものではない。ショックを受けた人間はたくさんいるだろう。このバンドに金輪際関わらないと決めた人間もいるだろう。そして皮肉屋は今日のことを思い出して笑うだろう。まあ面白くはあった。だが、また日本に来たとしたら私は果たして行くだろうか?うーん、それ以前に彼らが来ないだろうな。

追記:大阪ではどうやらコレとは全く異なる素晴らしい演奏だったらしい。ふむ、「ヴァインズのライヴは最低と最高がハッキリしている」説はどうやら間違いではないようだ。

[ set list ]

01-Outtathaway
02-Amnesia
03-Ride
04-Winning days
05-Evil Town
06-Autumn Shade
07-Get Free(mistaked)
08-Get Free
09-She's Got Something
10-Sunchild
11-Animal Machine
12-Mary Jane 13-Ain't No Room
14-TV Pro
15-F.T.W.
The Vines


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