Gaz Mayall @ Osaka Big Cake (13th Mar.'04)
泥酔エンターテイナー
なんでも前日の日高の大将のパーティの後も、朝の7時まで飲んでいたらしい。この日東京からの移動の新幹線でも、ワゴンサーヴィスが通るたびに大騒ぎしてビールを注文していたという。南堀江の最果てに位置する、知る人ぞ知る、そして知らない人は知らない小さなバーに、2トーン・ムーヴメントの最重要人物がロンドンからやって来たのだから、この日の南堀江四丁目には大事件だ。きっと隣近所のマンションの住人にはいい迷惑だっただろう。
ギャズの格好からして、そんな'匂い'がプンプン漂う。ポークパイハットに黒の50's風のタイトなスーツ、真っ赤なシャツに海蛇の柄のようなナロータイ、そしてエナメルのウイングチップシューズ。思わず「昨日のパーティのままの格好?」と疑ってしまう。「いや、服は一応着替えてる。昨日と違うから」とは同行者の弁。詰めかけたお客さんのなかにもロンズデイルのスウェットにジョージ・コックス、ミリタリーシャツ、ボロボロのフリースといった'ルーディ'な格好がちらほら。帽子率高し。
で、そんなフロアの期待度を知ってか知らずか、ギャズ本人は傷だらけの7インチを嬉々とかけている。完全に露払いと化したSYFT RECORDSの和田氏のプレイを引き継いでの1曲目は、のっけからムーディな50'sナンバーで、歌いながらくるりとフロアに背を向け、自分の背中に両腕を絡ませて一人抱擁をしてみせる。おいおい。おもむろにプレイを止めると「大阪はいつ来ても、笑いと愛であふれてるよね。通りを歩いてて目が合うと、みんな微笑んでくれるしさ。ここも愛と笑顔でいっぱいだ」と語りだす。まだまだ距離を置くフロアの雰囲気を汲んでか、スローでムーディなナンバーをプレイしだしたから、「まったりしすぎてるよ!」と言うと、苦笑して、ようやくロッキンなブルースにいろんなアクションを付けて、場を盛り上げる。後は独壇場のギャズ・オン・ステージだ。 |
R&Bにオールディーズ、ブルースにスカの7インチを、ノイズもなにもお構いなしに、本人のグラスを空けるペースに比例する大音量でプレイしていくのだが、曲の最中にブースを離れて、ガールフレンドの席に行きメニューとにらめっこしてアルコールをオーダーしたり、店に置いてあるアップライトピアノの蓋を開け、みんながなにか弾くのかな?と思って見てると、かかっていた曲のラストに合わせて「ジャラララン」と鍵盤を鳴らしてブースに戻る。思わず友人と「それだけかよ!」と突っ込んでしまった。かと思うとプレイを止め、今度は本当にピアノを弾き語るのだけれど、そばにいたお客さんに「これ、ボンゴだから」と丸椅子を渡し、店のギターを「これもボンゴだから」と言って別のお客さんに渡して、超即興のジャムセッションが始まる。
それがひととおり終わると、"Lolli Pop"をそれぞれ別なヴァージョンで3曲も続けて、いつそんなものを仕込んでいたのか、みんなに棒付きキャンデーを配って歩く。根っからのエンターテイナーなのだ。人を喜ばせることが大好きだった子供が、そのまま大きくなった感じだ。ロンドンの自分のパブでも、きっと同じように泥酔ホストぶりを発揮して、みんなを楽しませているのだろう。最後にはメインアンプを飛ばしてしまって、仕方なしにピアノにまた向かうと、「リンゴ〜の花びらが〜♪」と"リンゴ追分"をみんなが大合唱。 |
急場凌ぎにモニタースピーカーをフロアに向けて、DJを再開したのだが、途中で店の外に出て誰かと話こむ。曲が終わっても戻ってこないから、ガールフレンドが代わりに曲をつなぐ。店内に戻ってきたギャズは、琥珀色のマッカランの10年物の注がれたグラスに鼻を突っ込んで「この香りを嗅ぐとまず目の前に海が広がって、それから空が見えて…」とスコッチウィスキーを語りだす。そのままプレイを引き継いだガールフレンドを指して「いいDJだろう」と何度も言うから、「Better than you」と答えておいた。「ハハ、そのとおりだな」と笑っていた。
シングルモルトの次は沖縄土産の泡盛を試したら、と勧めたのだけれど、気がつくとすでに泡盛のロックのグラスを片手にしていた。どうやら気に入ったらしく「ナイスチョイスだ」と言いながらまたブースに向かって行った。僕はそれで帰ったのだが、結局、酒の話しかしてないな…。
report by ken photo by ikesan
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