buttonJohn Frusciante, Performance Three & Four
@ Knitting Factory, L.A. (2nd and 3rd Feb '04)

微笑み合える程のリアルさで
 ジョン・フルシアンテが、昨年からL.A.で"Performance"と銘打ったライヴのシリーズを行っている。3・4回目に当たる今回は、FRF’03のヴィンセント・ギャロのステージでのプレイも記憶に新しいジョシュ・クリングホッファーと、FUGAZIのベーシスト、ジョー・ラリーと共に演奏するという。しかも、スペシャルゲストはex-Captain Beefheartのモリス・テッパーらしい。うわぁ、豪華だ。これは観に行かねば! だって、ジョンは私が世界一敬愛するギタリストなのだから。

 しかし、何年間も憧れてきたジョンのソロライヴをやっと観ることができるのに、恐ろしいほど実感が湧かなかった。2000年のRed Hot Chili Peppers (RHCP)の来日公演の初日前夜なんて、初めて彼に会えるという興奮で、とうとう一睡もできなかったくらいなのに。今回は何故か「Performance Three」と印刷されたチケットを手にしても、ハリウッドにある会場の入場待ちの列にキッズに混じって並んでいても、渋谷クアトロよりひとまわり小さいくらいのフロアで開演を待っていても、音源すら聴いたことがなく、名前だけを知っているバンドを観にきたような心持ちなのだ。おかしいなぁ、もっと盛り上がりたいのに。なんて、少しだけ自分自身にガッカリする。でも、彼の存在を実感しようにもRHCPのライヴ会場は巨大すぎるし、RHCPというバンドもビッグすぎる。彼の歩んできた人生だってあまりにドラマティックで、凡人の私の想像の範疇を軽く超えている。それに、彼の写真を何百枚眺めても、インタビューを何十本読んでも、それらは過去の彼の姿の表層であり、言葉の断片にすぎない。私はその表層と断片から構築された、自分の中にある彼のイメージを愛している。きっと、それは子供がアニメのキャラクターを好きになるような感覚に近いのだろう。全くリアリティがない。だから、こんなにもフラットな気分なのだ。

 フロアに入ると、ステージ前にスクリーンがあり、タイトルは分からないが白黒のフランス映画が写されていた。ステージ上にはグラスハーモニカ(水の入ったグラスの縁を、濡れた指でなぞって音を出す楽器)がセットされていて、これは何だろうと思っていたら、オープニングアクトのダグラス・リーが使うものだった。彼は白人の青年だが頭にオレンジ色のターバンをインド人風に巻いていて、その格好でグラスハーモニカを演奏すると、怪しい魔術師みたいに見える。しかも、グラスハーモニカの生演奏なんて初めて観るから比較対象がないけれど、見る限りバカテクなのだ。ウッドベースとパーカッションをバックに、フランク・ザッパのあの曲とか、ディープ・パープルのあの曲などをホワホワとした音色で次々にカヴァーしてみせて、観客は大ウケ。私も、しょっぱなから面白いものを観てしまったなぁ、と得した気分になった。

 次に、モリス・テッパーがたった1人でステージに登場した。演奏が始まって最初の数分は、Captain BeefheartのCDで聴けるのと同じ、ソリッドなギターの音色を生で聴いていることに、ただ感激していたが、次第に彼のステージ上の存在感に、強力に惹き付けられることになる。基本的にはハーモニカを吹き、テレキャスを激しくかき鳴らしながら、ワイルドなボーカルを聴かせる弾き語りなのだが、わざとマイクから完全に離れて囁くような声で歌い、ザワついたフロアを一瞬で静まり返らせたりもする。それが凄くカッコイイ。照明が非常に暗く、フロア前方で観ていても彼の表情はほとんど見えなかったのだが、かすかに光る赤いライトに反射する額の汗が、彼の気迫を十二分に物語っていた。2日目はベーシストとドラマーと共に演奏し、こちらも素晴らしかったが、パフォーマーとしてのオーラや色気をより強く感じたのは、初日の演奏だったかもしれない。両日ともアンコールもやってくれて、大満足。でも、もう一度観たい。来日してくれないかなぁ。フジロックのレッドマーキーで観られたら最高だろうなぁ、と、どうしたって妄想してしまう。

 セットチェンジが終わり、ステージにジョンが姿を現わすと、途端にRHCPのライヴと同様のテンションの、盛大な歓声が上がる。セットリストが読めるギリギリの明るさまで落とされた、黄一色のシンプルな照明の下、ジョンはマイクに向かって「ハロー」と一言。ステージ後方には黒い幕が引かれ、メンバーの服や楽器の色もほとんど無彩色である中、ジョンが持っているフェンダーのジャガーの朱色だけが、浮き立つように鮮やかに見える。

 今回演奏されたのは、過去に発表されたソロアルバムやシングルに収録されたものでも、最新作の4thアルバムからのものでもなく、全てが今までに聴いたことがない曲だった。中盤に演奏されたジャム以外は、どの曲もベースとドラムのフレーズはシンプルで、その分ジョンの歌うメロディーと、ギターソロが際だっていた。ステージ奥に立つジョー・ラリーのベースの音と佇まいは、こちらの期待どおり終始ストイックで渋い。ジョーとジョンの音の間には、ジョンとフリーの音の間に存在するのとは全く趣の違うコントラストが存在していて、それがとても新鮮だ。ジョシュは、ステージ左端に横向きにセットされたドラムを、今にも立ち上がりそうな勢いで跳ねるようにプレイする。(実際に立って叩いている場面もあった)しかし、叩きっぷりは派手でも、音はバンドの音の一部としてスマートにバランスよく調和していた。やはり、バンド編成であっても、このライヴの主役はジョンなのだ。ジョンはステージの真ん中に立ち、しっかりと前を見つめて歌う。ワンフレーズごとに、観客ひとりひとりの存在を確かめるように、やわらかく微笑んだりする。その姿には、かつての危うさはほとんど感じられず、しなやかで瑞々しい正のパワーが溢れていた。ジョンの全ての感情が注ぎ込まれるようにギターソロが奏でられ、独特の哀し気なトーンの音に、意識をまるごと連れ去られそうになる。ジョンが激しくギターを鳴らしながら頭を振ると、長髪がフワリと宙を舞い、乱れた髪の奥から幸せそうな笑顔がのぞく。私はジョンがこんな風に笑うなんて、知っていたけど、知らなかった。自分の中で大切にしていた彼のイメージを全て拭い去るかのような鮮烈さで、瞬間ごとに、リアリティがダイレクトに感覚へ突き刺さってくる。ああ、そうか。今、ジョンが自分の目の前に居るのだ。五感でしっかり受け止めなければ。と思えば思うほど、受け止めきれない分が溢れ出すかのように、涙が流れた。ライヴ前までは、今日は泣いたりしないと思っていたのに。

 最後の曲はジョーが前に立って歌う。抑揚を押さえたジョーの歌声に対し、ジョンのギターが熱を帯びたように聞こえるような曲だった。しかし、後半でジョンが操作しようとした機材(ヴィンテージっぽいアナログシンセ)から上手く音が出なかったようで、ジョンはジョシュに向かって「もうやってられないよ」というようなジェスチャーをして、曲の途中でステージを降りてしまった。ジョーが「機材のトラブルがあったみたいだけど、直ったら再開するよ」と言い、ステージに幕が引かれたが、結局、この日のライヴはそれでおしまいだった。残念だけど、こういう所もすごくジョンらしい。絶対、翌日のライヴはもっと素晴らしいものになるはずだ。

 さて、2日目。フロアで開演を待っていたら、私のとなりに居た女の子が「昨日はヴィンセント・ギャロが観に来ていたよ」と教えてくれた。この日は周りの米国人キッズに、ギャロの監督作の「ブラウン・バニー」が日本で先に公開されたこと、その映画のサントラ(ジョンの曲が5曲収録されている)を、日本では定価で購入できることをやたらと羨ましがられた。サントラをアメリカで手に入れようとすると、とても高くなってしまうらしい。やっぱりジョンのファンだと「その周辺」もまとめてチェックして好きになる傾向があるのは、米国人でも同じなんだなぁ。スタッフ側もそれをよく心得ているようで、開演前の場内のBGMも「ブラウン・バニー」の劇中で使われている曲やBuzzcocksだったり、ジョンのお気に入りのバンド、Blonde Redheadの"Melody of Certain Damaged Lemons"がまるごと一枚かかったりしていた。私は周囲のキッズに、開演前からこんなに「ジョン度」の濃いライヴを地元で楽しめる君たちが、羨ましくてたまらないよ。と言いたかった。

 この日はジョンがステージに立つなり、「I love you, John!」「I love you too!」と男性客から声がかかる。そういえば昨日も私のとなりで観ていた女の子が、ライヴ中に感極まったように「ジョン大好き!」と呟いていたし、ジョンがライヴ中に曲順を忘れてしまっても、観客から次々に「大丈夫だよ」と励ましの声がかかる。やっぱりこの人は、ファンにとても、とても、愛されている。

曲は前日と同じものが、全く順番を代えて演奏された。ジョーがボーカルを取る曲では、ジョンが前日に上手く働かなかったアナログシンセで、まるで別次元から聴こえてくるような凄みのあるノイズを出し、「ああ、昨日はこれをやりたくても出来なくて、悔しかったんだろうなぁ。」と納得。この日はスムーズにライヴが進行し、ジョンのギターソロも前日より激しさを増していた気がする。フロアから声をかける観客に、ジョンがにこやかに応える場面も何度かあった。そして、この日一番のハイライトは、2日目のみ演奏された、ジョシュがドラムセットを離れ、前に立って歌う曲だった。ジョシュは、長身をマイクに向かって屈め、ワンフレーズ歌う毎に照れたように後ろを向いてしまう。その姿は、とてもさっきまで激しくドラムを叩いていた人物とは思えない。声質もジョンの高音コーラス声やヴィンセント・ギャロの歌声に似て、シフォンのように繊細だ。そして、その声に寄り添うように奏でられるジョンのギターの音色は切なく、全てを許すかのように優しかった。ジョシュは曲の終盤で歌詞を忘れ、はにかんでカンニングペーパーを細かくちぎりながらドラムセットに戻ってしまうのだが、その瞬間、会場は観客からの温かい歓声と拍手に包まれた。

 たった2晩ソロライヴを観ただけで、私がジョンを身近に感じるようになった、なんてことは言うつもりはない。本屋に行けば、相変わらず彼はギターヒーローとして世界中の雑誌の表紙を飾っているし、RHCPのライヴに行けば、目の前に広がるオーディエンスの波のさらに向こうの、米粒みたいな彼の姿に目をこらしながら、私は"By the Way"なんかを口ずさむのだろう。しかし今後、例えば部屋でひとり、"Smile From the Streets You Hold"を聴いたりするときに、この作品を作った彼が、今回のライヴでは生命力に溢れた佇まいで演奏し、微笑み合える程のリアルさで同じ空間に存在していたという事実に、もしかしたら少しだけ救われたりするのかもしれない。そんな気がしている。


report by keco


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