The Strokes @ Alexander palace (6th Dec '03)
飛躍的な進歩、圧倒的な勝利
ロンドン中心地から北北東の少し郊外にあるWood green駅から更にバスに揺られて5分。今回の会場であるアレキサンダー・パレスは平坦な街並みのロンドンでは珍しい、辺り一面を見渡せる小高い丘の上にある。建物ひとつない寂しい丘だが、いたる所にストロークスのニューアルバム『room on fire』のジャケットがプリントされたポスターが貼られているので、まるでこの街全体が「ストロークスのライブ」という一大イベントに彩られているようでもあった。そう、今やストロークスのライブはただのライブではない。チケットは発売から僅か数時間で売り切れ、引換券が実際のチケットに代えられるのもライブの一週間前からという闇市場での値上がりを警戒した厳戒態勢。NMEが毎週のように彼らの情報を載せて煽り、ライブの日が近づくとHMVでは前回のツアーTシャツが再び入荷された。大げさかもしれないが、今回の貴重なチケットは無闇に人前に出すのが憚られた。まるでサッカーのワールドカップのチケットを持っているみたいだった。
アレキサンダー・パレスはアリーナ級の会場であるが、2階席が無く、天井までのスペースが広々としているので、それ以上の広さに感じる。2年前に1500人規模の渋谷AXで彼らを観たのが嘘のようだ。あのときはまだライブでの演奏はまだまだといった印象だったが、果たしてこの2年で彼らはどう変わっているのか。ボブ・マーリーのライブ盤が流れる中、既に前の方では押し合いが始まっている会場を見渡して、期待と不安が入り混じった、何とも言えない興奮を感じていた。
会場が暗転すると、"ロッキーのテーマ"に乗って5人はゆっくりとそれぞれの位置へと着いた。太ったという噂だったジュリアンは、私の見た限りでは2年前よりも引き締まって、むしろ精悍になっていた。彼は最近のインタヴューで、事あるごとに周囲からの過剰な期待の視線を浴びながらニューアルバムの製作をすることのプレッシャーについて語っていたが、どんな困難もただひたすら努力することで乗り越えてきたロッキーのテーマ曲を今回選んだのは、そんな彼の心情と何か関係があるのだろうか。その答えはわかるはずも無いが、既に観客はリングに上がって戦闘態勢に入っている英雄たちに喝采を浴びせている。それを一身に受け止めた5人は、まずは"between love & hate"で様子を見るようにゆっくりとスタートを切った。
スローで少しレゲエ・フレイヴァーが効いたこの曲は、シャープで切れ味の鋭いロックを信条としていた彼らがニューアルバムで見せた新局面のひとつだが、観客はそんなのお構い無しとばかりに前後左右に波打ち、その中にいるとまるで津波にのまれているようだった。そうなると、ファーストの流れを汲んだ次の"reptilia"では大型台風の上陸だ。この曲の途中、一度全ての電源が落ち、一旦曲が中断されるというアクシデントがあったのだが、そんなのもお構い無しに会場には嵐が吹き荒れ続けた。
胸の辺りでギターを抱え、肘から下を掻き回すように動かすアルバート独特のリズムギターが跳ねたGを奏で出すと、一段と大きな歓声が上がり、会場全体から合唱が沸き起こる。"last nite"だ。ほとんど彼らの代表曲と言っていいこの曲だが、セカンドアルバムからの曲と並べて演奏されると、あっけないほどシンプルに感じる。正直言って、物足りないくらいだった。アルバムとして聴いたときは、少し疲れが見えるセカンドより溌剌とした勢いに溢れているファーストの方が私の好みだったが、ライブではセカンドからの曲の方がむしろ聴かせる。特にニックの変幻自在なリードギターは、ジュリアンを差し置いてライブの主役と言ってもいいだろう。ベタなハードロックすれすれでクールなロックンロールへと着地するギターソロから、エレポップのキーボードのような80ユsフレイヴァーのプレーまで、一人のプレーヤーがギター一本でここまでやるかと思わせるような多彩なプレーから目を離すことができない。リズムギターのアルバートの高い持ち位置とは対称的に、腰の辺りで構えた低いギターもバンド全体の見た目のバランスとして非常にいい。
しかし、このバンドはここまでシャープな音が出せるバンドだっただろうか。"soma"のオープニングは前回ここまでタイトに引き締まっていなかったし、以前は全体的に音がもっとバラバラに聴こえてきていた。それが今はファブのカウントが入ると、5人全ての標準がひとつの所へピタリと合わさる。この2年間でのバンドの成長が手に取るようにわかった。このバンドサウンドだったら、アレキサンダー・パレスという大会場も全く問題が無い。
全くテンションの落ちることの無い観客にジュリアンが最後の曲だと言い放ち始めたのは、いつもの通り、"take or leave it"だった。アンコールもいつもと同じように、無かった。基本の路線は変わらず、しかし間違いなく進歩している、という批評が彼らのニューアルバムに多数寄せられていたが、それはライブにおいても同じだと言えるだろう。ただひとつ注意しておきたいのは、ライブのクオリティーの進歩はアルバムを遥かにしのぐ勢いだったということだ。開演時に流れた"ロッキーのテーマ"は、ライブが終わったときには必ず勝っている、という勝利の確信の下に選ばれたのかもしれない。そうすると、閉演時に流れていたサム・クックの"a change is gonna come"は、更なる進歩への宣言か。それとも、常に高い評価を受け続ける自分たちもいつかは落ち目になるというニヒルな視点なのか。どちらにせよ、今宵の彼らは圧倒的な勝利の味を素直に噛みしめることだろう。
report by yoshi_k |
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2003
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