近藤智洋 @ 札幌 とまと畑 (6th OCT.'03)
PEALOUT近藤、孤高な歌人の夜
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PEALOUTの近藤智洋がソロライヴを東京などでやっているというのは、話には聴いていたが、まさかここ札幌で行われるとは思わなかった。PEALOUTのライヴでは、その情熱をあらん限りぶつけていくテンションの高さを見せている近藤だが、果たしてソロライヴという場では、どのような姿を見せるのか、興味をそそられ、出かけていった。
会場は30人程度入ったら満員になりそうなこじんまりとしたレストラン。その一角にギターやピアノなどの楽器が置かれているといて、アットホームな雰囲気を感じさせている。
近藤が登場すると、会場から拍手が起こる。つばの広い帽子を目深に被っているあたり、彼のシャイネスを感じる。近藤は「今日はソロの曲を演奏します。みなさん自由に楽しんでください」と話し、アコースティックギターを抱え、曲を歌い出した。
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彼のソロの楽曲を聴くのは初めてだが、こうして聴いていると、PEALOUTとは違う世界がやはり感じられる。PEALOUTもメロディや言葉を大事にするバンドであるけれど、それがいっそう剥き出しになることで、彼のナイーヴな世界が露になっていく。歌はラヴソングだったり、ノスタルジアをかきたてるものだったりする。演奏、そして歌は力強さを失わず、しっかりと聴き手に伝えようとする彼の熱意が伝わってくる。そうした彼の姿を観ていると、一人ギターを抱え、旅を続けながら、歌を歌いつづけていく孤高の詩人、というイメージがぴったりくる。
時折、メロディとして登場する口笛も効果的だ。こうして口笛を吹きながらギターを弾いている姿がなかなか格好よいし、普段こういうスタイルのライブをしているだけあって、その口笛も見事だ。
そうした静かなスタイルではあるけれども、やはり彼はロックンロールの人だな、と思わせるところもある。テンポの速い曲の底にあるグルーヴは、強烈な8ビートの加速というものが感じられるからだ。あのPEALOUTのアンサンブルのビートは、彼の体の底に刻み付けられているのだろう。
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PEALOUTでもそうしているように、アコースティックギターを置いて、ピアノも演奏する。そのピアノで披露される歌では、目の前に広大な風景とか、晴れた夕暮れだとか、さまざまな景色が見えてくるように色彩感が増す。アコースティックギターで披露されていた歌とはまた違うところが見えてくる。それがピアノとギターという楽器の特性の違いをうまく生かしているのだろうと思う。
PEALOUTの曲を普段、聴いていても思うことだが、近藤の声とそこから放たれるメロディには大きなスケールが感じられるところがある。8ビートの激しいロックンロールというフォーマットでありながら、PEALOUTが独自の世界観を表現できる一つの要素だと思う。そうしたスケールの大きさが、こうしたピアノの楽曲では色彩感を増して、ぐっと聴き手の心に迫ってくるところが素晴らしい。彼のナイーヴなリリシズムと解放感あふれるメロディ、そしてピアノというメロディとリズムを複雑に奏でられる楽器の特性、全てが見事に合致して、世界を作り上げている。
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再びアコースティックギターに戻って、今度はハーモニカを吹きながら、彼の歌が続く。ハーモニカの音色にノスタルジアを感じてしまうのは、子供の頃、死ぬほど吹いたせいだろうか。そうした、こっちの勝手な思い込みもあるけれど、やはり叙情が一層沁みてくる感じがする。
最後の方にはPEALOUTの曲も何曲か演奏された。最後は「旅人の歌」だ。「遠くへ歩き出す旅人よ、歌は聞こえているかい?」というラインに、歌っている近藤の姿がその旅人のように見える。終わってみれば、1時間30分を超える熱演だった。演奏後、会場は暖かい拍手に包まれていた。その後、そのまま、会場では食事やドリンクが出され、楽しい宴が始まった。久しぶりに暖かな気持ちになる、そんな夜になった。その気持ちのいい雰囲気を作り出したのが、彼の歌のおかげだったことは言うまでもないだろう。
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reported by YSMZ and photo by Minako Hashimoto |
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