|
ちょっとフロアにいるやつ片っ端からひっつかまえて説教して回ってやろうかと。いや、もう何だったら引っ叩いて回って目を覚まさせてやってもいいとも思った。本当にこの日のケミカル・ブラザーズのプレイは素晴らしかったのだが、いや、本当に素晴らしいプレイだったからこそ、この日はフロアを見て、少しバイオレンスな気分になってしまった。だって、みんなDJブースを凝視してるだけで、なかなか踊らないから。そりゃ、キャパ1000人のクラブでケミカルが目の前にいれば、そっちを向きたくなるのはわかる。それはいい。わかった。でも踊れ、と私は言いたかった。私はケミカルをライブセットとDJセットでそれぞれ一度ずつ観たことがあるが、この日の彼らのプレイはそれらと比べ物にならないくらい素晴らしいものだった。それなのに、なんでフロアにいる人たちはこんなにもったいないことをしてるのだろう。不思議で仕方なかった。
この日私が行ったのは、ロンドンのターンミルズという有名なクラブ(ファット・ボーイ・スリムのライブCDが出てるブティックというイベントもここで行われている )で行われたケミカル・ブラザーズのデビュー10周年記念イベント「glint」。エクスクルーシヴDJセットと銘打たれたこの日は、時計の針が0時を打った頃から朝方まで2人が交代で回し続けるという、正に夜通しのバースデイ・パーティーであった。前売り券は当然のように売り切れ、フロアは通勤ラッシュの山手線のように混んでいたが、どことなく会場全体が祝祭ムードに満たされていたので、混雑はそれほどマイナスには感じなかった。いや、誕生日会なのだから、一人でも多くの人が来て盛り上がった方が嬉しいだろう。
そんななかでバイオレンスな気分になっていた私はちょっと興奮しすぎていたのか。幸い、2時頃からは、ちょっと腰を振れば隣の人にぶつかってしまうようなスペースしかないフロアでも、誰もが踊り狂うようになっていた。ちなみに私はフロアから一段上がったDJブースの真横のところで踊っていた。このスペースはいい。もしターンミルズ来る機会があったら覚えておいた方がいい。この日のようなビッグイベントでも、ここなら踊るスペースがあって、更にDJと同じ視点でフロア全体が見渡せる。DJブースの真横といっても、ブースの出入り口の目の前なのでプレイの様子がしっかり見えるし、この日はプレイの途中にひょこっと出てきてフロアを感慨深げに見渡してるトムにちゃっかり握手してもらえたりと、かなりお勧めなスペースなのである。
しかし、一組のDJであんなに長く回して全く飽きさせないのは神業としか言いようがない。初期の楽曲群を思わせる、ジャングルの木々をなぎ倒しながら進む重戦車のように暴力的なブレイクビーツの嵐があったと思えば、少しソウル・フレイヴァーが入ったプレイでスローダウンしたり、テクノ的な4つ打ちで責めてくることがあったりと、彼らのレコード棚に詰まっているであろう膨大な音楽的知識が次々と披露され、プレイの展開が単調になることがない。また、それだけでなく、曲の切り替えのタイミングが本当に絶妙なのだ。ああ、もうこのパターンはそろそろいいかな、と思った瞬間に曲が変わる。心の中が読まれてるのではないか、と思わせるようなこの上手さは、本当にいいDJのお手本のようだ。
さて、全く踊れないと評判の新曲"the golden pass"だが、この日のプレイの中では全く問題なかった。いや、むしろ、"the golden pass"〜"starguitar"という流れはこの日のクライマックスだったと言っていいだろう。ケミカルらしい攻撃的なブレイクビーツから一転して流れてきたこの2曲は、激しい雨の後に架かった虹のようにドラマティックで、美しく、カタルシスのあるものだったからだ。実際、この2曲が終わった時点で私は集中が途切れ、この日はじめてチルアウトに行った。時計を見ると4時を過ぎていた。4時間踊り通しだったのだ。
正直、今は日本がうらやましい。だって、ケミカルがプレイするのはこれからなのだから。今すぐ日本に飛んで、リキッドに駆け込みたい。そして、またあの素晴らしいプレイで朝まで踊り狂いたい。
report by yoshi_k
|