私デーモンに触った、私デーモンに触ったのお、と隣にいた女の子が、"girls & boys"が終わってから3曲くらいの間ずっと騒いでいた。そういえば、今日のライブは女子率がいつになく高い。だいぶいい歳になったと言っても、デーモンのアイドル的人気はまだまだ健在だ。水色のシャツの裾を出してピンストライプのスーツをラフに着こなしていたデーモンは、『パークライフ』の頃のかわいらしい感じはさすがに無くなっていたものの、相変わらずポップスターのオーラを身にまとっていて確かにかっこよかった。 ステージを見渡して他のメンバーの様子も見てみる。無精髭がちと無精と呼べないレベルでモジャモジャなのが気になるアレックスも、くわえタバコの少し気障な佇まいは変わらない。デイブも堅実なドラミングと、少しだけお金持ちな家で飼われてる犬のようなルックスは相変わらず。そして、もちろんグレアムはいない。一度でいいからグレアムがいたブラーを生で観たかったというのが正直なところだが、客から、「we miss グレア〜ム」「we love グレア〜ム」という声がかかっても、「僕らもそう思ってるよ」とサラリと返すデーモンを見て、そのことはもういいや、と私は素直に思うことができた。 それに、グレアムの代わりに入っていたのがなんと元ヴァーヴのサイモンと聞くと、現金なものでそれもまた生唾ものの話だと感じる。アメリカのインディーシーンに影響されたエクスペリメンタルなグレアムのギターと、悪魔に魂を売り渡してしまったようなヘビーサイケなサイモンのギター。グレアムがオリジナルメンバーであるという条件を抜きにすれば、どちらも捨てがたいではないか。ただこの日のサイモンのプレーは、ライブに参加して日が浅いこともあり、グレアムのギターを忠実になぞっていくものではあったが。 前作『13』ほどの重さは無くなったものの、いつになくポップ度の低いアルバムになった新作『think tank』(祝、初登場一位!)からの曲が、今のところどれくらい受け入れられているのかというのも、私の気になっていた点のひとつ。これがしかし、意外にも浸透しているのだ。"beetlebum"や"tender"といった今までのヒット曲でみんなが合唱するのはある程度予想していたのが、新作からのリードシングル、"out of time"でも、出だしからみなさん早くも大合唱! 私は歌詞を覚えていかなかったから、途中ちょっと口パクで誤魔化していたのが悲しかったが。この曲はもう既に代表曲の一つに仲間入りしているかのような雰囲気だ。 前半〜中盤は、"beetlebum"、"for tomorrow"などのポップサイドのヒット曲を適度にちりばめた構成で、後半は"crazy beat"、"song 2"、"I got a file on you"といったパンキッシュな楽曲がズラリと並ぶ。そんななかでアンコールの一曲目、"popsence"は、後半のパンキッシュな流れのひとつであるものの、音楽的にも商業的にも今のブラーがあるための大きな第一歩であったという点で、少し特別な想いを抱いてしまう。この曲で私は将棋倒しにあい、更にその上からダイバーに突っ込まれるというどうしようもない事態に巻き込まれながらも、気持ちは少し感傷的になっていた。音楽的評価の浮き沈み、音楽性の大胆な転換、そしてメンバーの脱退など、様々な事態に直面しながらも、彼らはそれを乗り越え、今日もイギリスのトップバンド、ブラーとしてまたこの曲を歌っている。そんな彼らの、特にデーモンが見せる自信に満ち溢れたステージングに憧れを抱くなと言うほうが難しい。別にミュージシャンになるつもりはないが、どんな分野であるにせよ、彼のように裏付けのある自信に満ち溢れた態度で私にも仕事ができるようになるのだろうか。何年後かはわからないが、そうなることができたときは、またブラーのライブを観に行きたい。そして"popsence"で力の限りジャンプするデーモンに心の中でそのことを密かに報告したい。 report by dak |
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