スリルズ――。そのちょっと危なそうなバンド名に加えて、熱血アイルランド出身でU2のボノやモリッシーからラブ・コールを受けたと聞けば、もうそれだけでどんなに気合いの入った音かと思うだろう。だが、それは見事に裏切られ、世界は突然ビーチ・ボーイズ。歌われるのはラスベガスにサンタクルーズと、60〜70年代、夢のカリフォルニアと化す。ダブリンにいて、まだ20代初めの連中の出す音が一体どうしてこうなるわけ? 興味津々でクアトロ入りするものの、日本ではまだシングルを集めたミニ・アルバムが出たのみ。客は決して多くはない。定刻5分前、BGMがストーンズの連打に変わると、ゆったりとフロアに座っていたお客も思わず立ち上がる。いよいよ気分も乗ってきたところで客電が落ちる。オープニング・テーマは何と我らがボス、ブルース・スプリングスティーン。1974年の大ヒット「明日なき暴走」だ。私は死ぬほど好きな1曲だけど、ホントにこいつら20代? キーボード、ドラムの2人をバックに、中央に立つヴォーカルのコナーはブルーのジャケットの下にチェックのシャツとジーンズ。その両端にはどちらも赤いミッキーマウスのTシャツ姿のギター、ダニエルとベースのパドリック。徹底して70Sのダサさ漂うスタイルだ。CDで聴いていたよりもずっとしゃがれた声のコナー君、もしかして少し喉を痛めてるのか、声が出にくそう。 だが、それもまたステレオフォニックスのケリーやロッド・スチュワートにも通じる 味。何より印象的なのは、マイクスタンドを両手で握り、身体を大きく左に傾けて歌うスタイル。目の前で見てる私まで一緒に身体を右に傾けるクセが移りそうだ。小気味いいドラムのイントロにチャラ〜ン、チャラ〜ンとギターが絡むとさっそく歓声が上がる。ミニ・アルバム中一番の胸キュン・ソング、"Your Love Is Like Las Vegas"。そして思わず踊り出したくなるノリなのは"Say It Ain't So"。6月にリリースされるデビュー・アルバムに収録の新曲も次々と披露されていく。 どの曲もふとどこかで聴いたような懐かしくもせつないメロディを持ち、それでいて決してレトロとか古臭さを感じさせない。単なるポーズじゃなく、「歌」そのものを大切にしなければこの胸キュン味は出せないだろう。歌の合間に、手の中にすっぽり収まる小さいハーモニカで熱演を聞かせるコナー君だが、"Old Friends And New Lovers"ではそれも最高にハマっていた。 「皆スリルズを見に来てくれてありがとう。初めてこの国に来て、僕らの国とは全然違うけどとても楽しんでるよ。フジロック・フェスティバルでまた逢えるといいね!」 そんなコメントに狂喜の声が上がったところで、ピアノのイントロは待ってました!の"One Horse Town"。そして本編最後は彼らのテーマとも言うべき"Santa Cruz(You're Not That Far)"だ。ああ、これブライアン・ウィルソンが聴いたら一体何て言うだろう? そしてアンコール。聴こえてきたおなじみのベースラインは、何とマイケル・ジャクソンの"Billie Jean" 。そう言えばヘイヴンも1月の来日で"Beat it"をお遊びでやりかけたが、スリルズはフルに歌い切ってしまった(笑)。実はスリルズという名もあの「スリラー」にちなんでるって話はやはり本当だったのか?「次の曲で最後」の声に落胆のどよめきが起こる中、50分ほどの短いセットは"Deck Chairs And Cigarettes"で渋〜く終了。「UK期待の新人」なんて周囲の狂騒とは無関係に、この先も彼らは憧れの夏を歌い続けていくのだろう。サンタクルーズとは行かないが、苗場の真夏の太陽だって、きっと彼らの歌にはよく似合う。今日の続きを絶対聴きに行かなくちゃね! report by ikuyo. |
The Thrills : http://www.thethrills.com/ 東芝EMIのサイトにてミニ・アルバムの視聴が可能です。 |
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