Massive Attack 東京ベイNKホール (25th March '03)
--- 「伝える」ということ ---
この日は夕方から雨が降っていて、舞浜の駅を降りたときには、雨が激しくなって
いた。窓や吊り革の取っ手までもがミッキーマウスという変なモノレールに乗ってベ
イNKホールへ。冷たい雨を除けながらエントランスに駆け込んだという感じだ。中に
入ると、DJシャドウがすでに中盤に差し掛かっていた。残念!映像とリンクしたサン
プラー使いも驚くものだったけど、音を止めて数分間も費やして反ブッシュの演説を
するのも凄かった。
終わると、微妙な照明にアンビエントなSEが流れ、このセットチェンジの間もマッ
シヴアタックのライヴの一部分として組み込まれているような感じ。そして、まずメ
ンバー全員と通訳が登場して「イラクの子供たちへ一分間黙祷します」とあの広い会
場に静寂を作りだしていた。背後の巨大なスクリーンの隅で数字がずっと回転してい
る(スイマセン、目を閉じてませんでした)。刻一刻と事態が動いていて、この会場
が世界から切り離された特別安全な場所でないんだということ現れかも知れない。普
段のライヴとは全く違ったオープニングに何か奇妙な感触に囚われながら、始まった
のが"future proof"。ゆったりとした電子音から徐々に起きだしていく。
まずなによりも、とにかく音質が良いのに驚いた。自分は2階席のやや上の方だっ
たのだけど、どのパートもはっきり聴こえて、かつ低音が腹に響いた。こんな広い会
場でこんなに音質のいいライヴを体験したことがない。それだけで感動してしまうく
らいだ。声がキレイに聞こえたので"teardrop"なんかの歌モノは会場をふんわりと包
んでいたし、重低音がずっしり響くために、彼らの音楽がスッと体の中に入り込んで
くる。
あんまり「音質がいい」と言うと「ライヴの感動に音質云々なんて関係あるのか、
そんなもんどうでもいい」と言われてしまいそうだけど、果たしてそうだろうか。音
質の善し悪しというのはマッシヴアタックの根っこに関わることなんじゃないかと思
う。それは、このライヴが最近の他のライヴには見られないくらい、あからさまに反
戦を打ち出したライヴはなかったということと密接につながっている。
演奏中スクリーンには「戦争反対」「ハウ・アーユー東京」と日本語で大きくメッ
セージが映し出されていた(カタカナで「ハウアーユー」とは。隣の外国人も爆笑し
ていた)。膨大な文字や数字、アスキーアートのような動画の間に、世界の人口とか
各国の軍備予算が現れる。その他、「ARAKAWA」とか「TOTTORI」という日本の地名、
その日のニュースから取ったと思われる「理想の上司はたけし」「千と千尋がアカデ
ミー賞受賞」など、スクリーンの演出も日本仕様になっていた。だけど、一番印象的
だったのは、スクリーンに大きな文字で、
「石油の」
と出る。「石油の」って何だよ!?と数分間考え続け、次に出てきた言葉が
「ための」
「石油の」「ための」?ここで察しがつくけど、次の言葉を待つ
「戦争」
「石油の」「ための」「戦争」だ。こんなふうにシンプルなメッセージをこんなイン
パクトあるやり方で伝えようとしている人を初めて見た。
3月後半から4月にかけてアンドリューWK、マッシヴ・アタック、ベック、エイジア
ン・ダブ・ファウンデーションとアメリカとイギリスという戦争の当事国のアーティ
ストのライヴを立て続けに観てきたわけだけど、それぞれのアーティストたちにイラ
クの戦争が影を落としているのを実感する。あからさまに反戦を打ち出す者、さりげ
なくスマートに反戦をアピールする者、アピールはしないけど、自分の立場を徹底す
ることが反戦である者など、表現の方法はさまざまだ。
マッシヴの伝えたいことは、最も単純であり、分かりやすすぎる。だけど、それを
伝えるのはとても難しいということはテレビのニュースをつければ、イヤでも感じざ
るを得ない。マッシヴはその困難なことに真正面から挑んでいたと思う。大きなスク
リーンにでっかく「戦争反対」と映すのは、観た誰もがそのことについて考えるよう
にするためであるし、音質が驚くほど良かったのは「自分たちのメッセージを聞き漏
らさないて欲しい」という、それはもうひとつのメッセージだと感じるのだ。
高音が頭に響いて、中音が胸を打って、低音が腹を揺らす、音そのものがメッセー
ジであってさらに、でかいスクリーンでは日本語でもコミュニケーションを取ろうと
する。使えるだけの全ての手段を使って訴えかける、その切実さに心打たれるのだっ
た。
最後は"group four"。ギターが鳴り響いて、広い会場がそのうねりに満たされて
いった。そのギターのノイズはほとんどロックと言ってもおかしくないくらいだっ
た。そのノイズの渦の中で、メッセージと音と言葉のつながりを考えていた。伝える
ということの大切さと難しさを、このライヴを通じて体験したのだった。
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