button曽我部恵一 at Shibuya Quattro(15th Nov '02)

賛に一票

 バーカウンターの辺りでも身動きが取りづらいほどパンパンに客が詰まったクアトロのステージに、曽我部恵一が姿を現わしたのはちょうど定刻をまわったころだった。挨拶もなく、サニーデイのころより若干肉付きがよくなったように見える彼が、いつもの喫茶店でいつものコーヒーを注文するのと同じくらいさりげなく始めたのは、アルバムのオープニングナンバーでもある”ふたり”。一分足らずの短い曲だが、それでも生で聞く曽我部の声には、サニーデイのころと変わらないつややかな美しさが感じられて、ちょっと懐かしいような嬉しい気分にさせられた。

 続く"テレフォン・ラブ"は昨年行われたインストア・ライブでもアコースティック・バージョンが披露されていた佳曲で、フルバンドだと小気味よいリズムが楽しい。演奏はゆるめだったが、まだ初ワンマンだ。これからもっと良くなっていくのだろう。

 簡単な自己紹介を挟んで、次は"愛のゆくえ"。当たり前のことなのだが、ライブは淡々とアルバムからのナンバーで進んでいく。しかし、私はそれで少し心配になってしまった。曽我部はまだソロ名義ではアルバムを一枚しか出しておらず、しかもそれは40分しかない。シングルのカップリングをやったとしても、ライブは一時間にも満たないだろう。それではワンマンのライブとしては幾らなんでも短すぎるものになってしまうのではないだろうか、と思ったわけだ。しかし、そんな不安は「新しい曲たくさんやりますよ。」と曽我部がさらっと言ったMCですぐに吹き飛んだ。ワンマンでは持たないどころか、本当にどんどん新曲をやり、2時間に迫る長いステージになったのだ。その新曲のなかでは3拍子の力強いバラード"雪"や、シャウトも入りソロになってからは一番激しい曲調の”瞬間と永遠のブルース”が特に秀逸だった。

 さて、ライブも半ばを過ぎると、ミネラルウォーターの代わりにビールで喉を潤していた曽我部に酔いが回ってきたのか(?)、段々と饒舌になってきたのが面白かった。ベストヒットUSAの小林克也に会って感動したエピソードや、「笑っていいとも」で客からお約束の「えっー」を言ってもらえなかったレアな体験談など、意外にも巧みなMCで、ゆったりめの曲が続いて少しだれてきたかな、という時に上手く盛り上げていたのが印象的だった。

 そして、なんと言ってもこの日のライブの一つの山となったのは"大人になんかならないで"だろう。歌部分が終わったあと、曽我部がエフェクターを勢いよく踏みしめたのを合図に始まった、アルバムには入っていないインプロビゼーション、それが圧巻だった。"3月29日のバラード"を髣髴とさせるスリリングな演奏で、それまでの会場の雰囲気を一変させるくらいの力強さがあった。このバージョンがアルバムに入ってないのが本当に惜しいくらいだ。

 そして最後に"mellow mind"、"夏"とアルバムからの曲も全てやり終え、曽我部たちはステージを後にした。全曲やったのだからアンコールはないかもしれないと誰もが思いつつも、私たちはステージ裏に向けて手拍子を送り続けていた。すると、曽我部は一人で出てきて、昨日つくったばかりだという文字通りの新曲である"もしも"と"12月"の2曲を弾き語りで披露し、本当に全てやりきって帰っていった。

 「皆さんアルバムはどうでしたか。賛否両論あるけど、僕は賛の方です。」という冗談めかした曽我部のMCが印象的だったが、中盤のなんとなくゆるい空気も含め、飾らない今のありのままを出してきたこの日のステージに、やはり私は賛を入れたい。この日クアトロを埋めていた他の客たちはどうだったのだろうか。

report by dak.


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