Speech at Shibuya AX(2002年4月18日)
--10年間で最高のライブでした--

 やばい! やばい!! やばい!!! やばい!!!! さっき渋谷AXから渋谷駅へ向かう道、僕はひたすらやばい、やばいと独り言を言っていた。僕の独り言を聞こえた人にとっては相当怪しかったんだろうなぁ。で、何がやばかったって、今日のスピーチのライブ!!!

 みんなそれぞれ今まで見た中で、最高のライブって必ず一つや二つ思い浮かぶと思う。 僕も今まで10年以上も音楽を聞いて、ライブに行ってそういう瞬間に何度か出会ってきた。

 去年の横浜のRadioheadは今まで何度もライブを見たのに信じられないくらい衝撃的だったし、ロンドンで見たジャズ・ギターリスト、Pat Metheny Groupのライブはもうこれ以上の完璧なライブってないと思ったし、一昨年のグラストンベリーで見たTravisのライブなんて一生忘れない感動のライブだと思ったし、ロンドン大学で見たGoo Goo Dollsのライブもこんなに本人たちが楽しそうでそれが伝わってくるライブなんて他には絶対にないと思った。でも今日の元Arrested Developmentのスピーチのライブ!! 今日のスピーチのライブはこの10年間見てきたライブのどれよりも衝撃的で楽しくて幸せで一生忘れられない感動のライブだった。

 スピーチと出会ったのは1996年、東京のFMのTop100チャートで一位になったマービン・ゲイの曲をサンプリングした'What's Goin' On'という曲を聴いたとき。当時のヒップホップってすでにギャングスターがアメリカ中で流行っていて、Hip Hopってああいう汚い事を歌にした音楽しかないと思った。そこに突然スピーチという家族愛や平和を歌にした汚いスラングの一言もないHip Hop/Soul/Funkのアーティストに出会った。それ以来6年間、スピーチは僕が最も好きなミュージシャンの一人であり、どうしてもライブを見てみたいアーティストの一人だった。

 でも僕はそのスピーチが1stソロアルバムを出した年からイギリスへ行ってしまい、その年にロンドンのJazz Cafeという2、300人くらいしか入らない小さなジャズクラブの公演も、チケットまで買ってたのにキャンセルになってしまった。それからスピーチは本国アメリカどころか日本以外の国ではアルバムを発売しなくなってしまった。アルバムが出ないんだからイギリスにライブをしにくるはずもなく、今日まで一度もスピーチのライブを見れることはなかった。

 今日、渋谷AXに入って驚いたのがあまりの観客の少なさ。以前はあんなに東京で流行っていたのにやっぱりあれから6年も経っているからみんな忘れちゃったのかな? 最近は日本でも国産のヒップホップやその他のブラックミュージックが出てきているのに。それなのにこんなに素晴らしいライブを見にくる人がこんなに少ないなんて、もったいないなぁ。やっぱり観客が少ないだけに最初は少し会場内に違和感を感じた。でもそんなのものの2,3分の事で、スピーチがあのなんとも言えないやさしくて透き通った声で歌い始めたら、もう観客は飛び跳ねたり踊り狂ったり、もう本当に楽しくてみんな幸せで、そういう今まで体験した事のないくらいの最高の雰囲気がすぐに出来上がった。演奏した曲も新譜を出したばかりにも関わらず、過去4枚のアルバムからまんべんなくやってくれ、ファンにはたまらない1stや2ndからの曲もたくさんやってくれました。しかも最後には「あの」グループのグラミー賞獲得アルバムからの曲までも!!

 今回のスピーチのバンド構成はとてもシンプルで、スピーチの他にベース、キーボード、ドラム、女性ボーカルの5人編成だった。でもスピーチのバックバンドなだけに中途半端なわけがなく、途中で急にジャズのインプロバーゼーションが始まったり、ある曲ではリズムセッションがアフリカンミュージックになっていて急にアフリカの民族の集いに連れて行かれた気分にされたり。他にもスピーチ抜きでフュージョン系のジャズが演奏されたりもした。ステージ上にあった二つのスクリーンがあって、そこに映し出されたスピーチからのメッセージに心を動かされ、そのスクリーンに映し出されたスピーチの子供たちの映像で場内が大爆笑になるという場面もあった。

 最後の曲ではスピーチの奥さんと時差ぼけで半分寝てしまっていた娘がステージ上に座って、その曲が終わるまでそこで聴いていた。そういえばLauryn HillといいEryka Baduといい、歌詞に絶対に汚い言葉を入れないアーティスト達はどうしてここまで自分の家族を大切にできるんだろう。世の中には本当にスラングばかりの曲や暗い事ばかりを歌っているアーティストがたくさんいる。こういう事を歌うようになってしまったのはもちろん過去のいろいろなその人達の経験からなんだろうけど、子供がどういう大人に育っていくのかはやっぱり親の存在が一番大きいんだなって、今回改めて実感した。スピーチはこういう意味では素晴らしい家庭環境で育ってきたんだろうし、スピーチの子供たちも絶対に曲がった大人にはならないんだろうな。そう考えると、スピーチがアメリカのマーケットを完全に拒絶してしまったのも今の汚れたアメリカの音楽シーンが関係あるのかな。

 とにもかくにもこのレポートがなるべく早くアップされて、できるだけ多くの人に今回のスピーチのツアーを見逃さないで欲しいな。もうこれは音楽が好きとか嫌いとか、どういうジャンルが好きだとか嫌いだとか、スピーチのライブはそういうレベルの問題じゃないよ。マービン・ゲイやジョームス・ブラウン、ネヴィル・ブラザーズやスティービー・ワンダーを実際に目の当たりにした人達は、多分今日の僕みたいな衝撃を受けてきたんだろうな。絶対に誰でも楽しめて幸せに浸れるライブだと思うし、そんなライブを見逃すのはあまりにもったいなすぎると思うよ。

report by yohei.


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