高円寺百景 at 吉祥寺スターパインズカフェ(2002年2月11日)
マエ!

 非常に大所帯のバンドである。3人のVo(女2、男1)、Dr、Bass、Guitar、Keybordの7人編成。見渡したところ、ミーハーな私が満足するような王子はいない。ちぇっ。残念であるが、二人の美女(Vo)の姿が見えるので良しとしよう。可愛い人は男女に限らず好きだ♪ しかし、演奏がはじまると、美女達は豹変。変則的なリズムに合わせて、わけのわからぬ雄叫びをあげはじめたのである。

「きあーーーーーーーubbbb★☆れてa◆※らっ!きゃーーーーっ」

「遊星からの物体X」が、ばりばりっと美女の頭をカチ割ってあらわれたらどうしようかと思うくらいの迫力である。油断していた私はかなりビビった。ただ、その声は非常に鍛練されてもののようで、ド迫力の中にも美しさを感じることが出来る。カナキリ声のよーなバイオレンスな迫力とオペラの美しさをあわせ持っている。日曜日のお父さんのよーな穏やかな顔つきの男性Voも凄い。狂ったダークダックスのようだ。男性Voも女性Voも声楽の訓練をされた人独特の歌唱法なのである。この混声複雑怪奇雄叫びの歌声に激しいドラムとベースがびりびり。カオスである。うーん、ギターの人の目もイっちゃってる..。

 始まるなり、隣に座っていたスキンヘッドの外人さんがヘッドバンキング。うわっ。反射的に思いっきりよけてしまったが、それがきっかけで途中ちょっとおしゃべり。彼は自分の奥様が出演しているのでやって来たのだそう。えっ、どっちの美女?

「東京ナミィ」

 彼はたどたどしく言った。ああ、そうなんですか〜〜ふーん。すると「どうして日本の女の子はライブに一人で来るの?」

 余計なお世話であるが、それらしく言い訳してみる。

「日本の男の人は女の子よりもずーーっと保守的なの。」

 嘘。ほんとは変態バンドと言ったらことごとく断られた。まあ、それも保守的といっていいのかもしれないが。 すると彼は我が意を得たり!という感じで

「日本の男、スケベ(ここだけ日本語)です。」

......。

 変態プログレというのは客同士の会話も噛み合わないものなのだろうか。しかし、その後現代音楽でこんなのが好き、などと他であまり話せない(同士がいない)話題で盛り上がれたのでいいのだけど。

 高円寺百景といえばRUINSの吉田達也氏の別ユニット、というか掛け持ちバンドのひとつである。吉田氏はいくつものバンドに参加しているので有名だ。 そういえばZUBI ZUVAという、歌詞が全てズビズバというアカペラユニットもやっていた。ま、まじっすか?!の超絶ステージだったらしいが残念ながら私は未体験である。RUINSでさえ見た事がない。なのに何故今、高円寺百景なのか。それはいわゆるプログレなものに対する拒否反応が消えたからかもしれない。高円寺百景をただのプログレと呼んでは怒られるかもしれない。変態をつけなきゃ。変態プログレ。私のプログレに対するイメージはオタクな親父や兄貴が超高価なステレオの前で、無秩序のカタマリのような音楽を日がな一日、それも大音量で聞く...という、そのスタイルからして理解不可能なものであったのだ。しかもそのステレオに触れようものなら悲鳴をあげて駆け寄ってくる。見るからにモテない男のくら〜〜〜い趣味、という感じであった。しかし時は既に21世紀。そんなヤツラも息絶えているだろう、ということでやってきたのです。そして、その通り、非常にマターリとユルーイ感じのいい雰囲気。21世紀で変態プログレ。これでいいのだ。

 ライブは二部構成になっていて、途中15分の休憩が入る。しかし私には前半と後半の曲の違いはまったくわからなかった。しかし、それでいいのだ。

「オビタリケヒャヒャ〜!」美女が呪われた滋養強壮ドリンクの名前のよーな歌声を張り上げる。あいの手のように「マエッ! マエッ!」と叫ぶお父さん。何がマエッ! なのかわからないが、とりあえずだらしなく横座りしている姿勢を正して前を見る事にする。 日本語ではないのかもしれぬ。といって何語だかまったくわからない。これはもしかして、北斗の拳語だろうか?あべしっ! ひでぶ!

 ちょっと違う。言葉というより「奇声」と呼んだ方がピッタリだ。 そう、奇声。それでいいのだ。この奇声に変則なリズムのヘビーなドラムが混ざり、その上でギターがワウワウ言っている。何だか蜘蛛の巣のような音楽を奏でる人達だな。方向性はバラバラで上下も左右もなく縦横無尽という感じ。そのバラバラの音が合わさってひとつの滅茶苦茶なカタマリが出来上がるのを見ているようだ。

「おーれたホウキでまた来るぞー! おーれたホウキでまた来るぞー!」

 空耳アワーのお時間です。もはや知っているボキャブラリーは皆無である。

「ンギャァーー!」と一声叫び、ドラムをバシッ! ンギャー、バシッ! ンギャー、バシッ! をくり返す吉田氏。まるで居間で五木さんを発見、絶叫しながら慌てて丸めた新聞紙で床を叩く....長い例えだが、日常の恐怖としてこれ以上のモノはない。そのような切迫感が吉田氏のショッキングな顔つきから感じられる。「アレが出たぞー!」私にはそんな心の叫びが聞こえた...気がした。もしかしたら私にはわけの分からぬ奇声に聞こえる歌詞も吉田氏には大切な言葉なのかもしれない。そして、それをわからない、わからない、と言って楽しむ。そう、それでいいのだ。だって楽しいんだもん。脳みそが浄化されいく感じで気持ちいいんだもん。無秩序というものがこんなに人の脳みそにマッチするとはとは思わなかった。思わずCDまで買ってしまった。また行こうっと。

マエッ!

report by mimi.


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