DAVID BYRNE at 渋谷クアトロ(2002年2月6日)

--新しいのや古いの、いろいろやるよ--


 あ〜あ、ラテン・ブームの今来日したらすごい人気かもしれないのに、先生、どこで何してるのやら――。

 しばらく前、私はそんな風にデヴィッド・バーンに想いを馳せていた。「ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ」の大ヒットでキューバのバンドが多数来日し、ラテンなサンタナがグラミー賞など独占していた頃の事だ。そして今年、ようやく10年ぶりの来日決定!なのに、大阪ではよりによって、大好きなシャーラタンズとバッティング。どっちも落とせないと悩んだあげくの最終日、東京遠征である。

午後7時。渋谷クアトロは外人客も多く、大歓声の中ニコニコしながら登場したデヴィッド・バーンは、短く刈り込んだ銀髪にガソリン・スタンドのお兄さんのツナギかと思うような上下グリーンのシャツとパンツ姿。オープニングはセミアコ・ギター1本の"SOFT SEDUCTION"。トーキング・ヘッズ当時はちょっとうわずった感じの奇声が目立っていたが、ソロになってからの彼は実にしっかりとメロディを歌い上げるヴォーカリストでもある。

「新しいのや古いの、映画の曲とかいろいろやるよ」とコメントした後は、さっそくトーキング・ヘッズの"NOTHING BUT FLOWERS"へ。ラテンなリズム隊の強力なビートにこっちの身体も揺れる、揺れる。映画「ブルー・イン・ザ・フェイス」で使われたナンバーなど挿み、再びヘッズの"AND SHE WAS"から"ONCE IN A LIFETIME"の連打にはもう場内騒然! これが本当に20年近く前の音か?と疑うぐらいカッコいい。

 さらにストリングスが加わり、新作「ルック・イントゥ・ザ・アイボール」のナンバーや、リリース当時は誰も見向きもしなかったラテン・ユニット、レイ・モモ時代のラテン・ナンバーなど本当に軽やかにこなしていく。"WHAT A DAY THAT WAS"では、ストリングスも歌もビートも大迫力で走る中、映画「ストップ・メイキング・センス」でおなじみ不思議なダンスも炸裂だ。

 お客の反応は当然トーキング・ヘッズのナンバーでより大きくなるものの、他のラテンなナンバーとも全く違和感はない。すべては彼を通してひとつのビートとしてごく自然につながっているのだ。だが、今回何よりびっくりしたのはあの笑顔。曲間のファンの歓声もすごいが、ヘッズ時代はどこか神経質で、今にもキレそうな芸術家イメージだったのに、そんなにリラックスしてニコニコ応えていいのか? バーン先生。

 左端カウンター最前に陣取り、座っていてもかぶりつきの如く見える特等席から楽しんでいた私も終盤、"LIFE DURING WARTIME" のイントロには遂に我慢できずロープをくぐりぬけ、段を下りて最前突入ダッシュ! そしてデヴィッド・コールの巻き起こる中、アンコールは何とホイットニー・ヒューストンの懐かしの大ヒット、"I WANNA DANCE WITH SOMEBODY"ときた。何でこの曲?という疑問はさておき、これも納得のラテン・ヴァージョンだ。3回のアンコール、2時間ほどで終了後は、ステージ最前でバーン先生の足元にあったセット・リストも初ゲット。大阪から遠征したかいありと、大満足でクアトロを後にした。

 トーキング・ヘッズから趣味のラテン音楽に走った当時は、とてもついていけない私だったが、ソロになって以後、彼の音楽はそうしたラテンやその他の様々な音楽とトーキング・ヘッズの音楽とが実に楽しく合体している。いや、もともとすべて「デヴィッド・バーン」の音楽でなのあって、彼自身には壁など初めからなかったのかもしれない。1952年生まれというから今年50歳。かつてのように最先端の音楽シーンに属さなくとも、自分の中に流れる音を、まさに音楽の二文字通り楽しむことが出来る境地に達したデヴィッド・バーン。あの満面の笑顔は何よりその証しなのだ。何事につけ、過去の壁を越える秘訣はとにかく「自分を楽しむ」ことに尽きる。

 そんなことをかみしめつつ渋谷の駅前まで来ると、何やらドンドコ音がする。見ると数人が輪になって、ひたすらコンガを叩き続けていた。誰に向かってでもなくただ己の中から放出され続けるビートとリズム。クアトロの続きみたいで思わず立ち止まる。そして思った。そう、バーン先生のビートもこうして延々と続いていくのだ。

--- SET LIST ---

1.SOFT SEDUCTION
2.NOTHING BUT FLOWERS
3.GOD'S CHILD
4.BROKEN THINGS
5.AND SHE WAS
6.ONCE IN A LIFETIME
7.THE GREAT INTOXICATION
8.MARCHING THROUGH THE WILDERNESS
9.THE REVOLUTION
10.SAX & VIOLINS
11.MARCO DE CANAVEZES
12.NAIVE MELODY
13.WHAT A DAY THAT WAS
14.DESCONOCIDO SOY
15.LIKE HUMANS
16.U.B. JESUS
17.LIFE DURING WARTIME

---encore---

18.I WANNA DANCE WITH SOMEBODY!
19.THE OTHER SIDE OF THIS LIFE
20.AUSENCIA
21.THE ACCIDENT
22.MOMENT OF CONCEPCION

report by ikuyo.
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