Ron Sexsmith @ Shibuya Quattro (13th Jan. '02)
捨てた後に残ったものの美
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フジロックの深夜、ロン・セクスミスがベロベロに酔っ払い、テクノで踊りまくっていたという噂を聞けば、意外な感じがするのはおれだけではないだろう。まぁちょっと小耳に挟んだだけなんで本当かどうか分からないけど、彼のライヴを観ていると、その話が腑に落ちるような気がしてきた。別に何もロン・セクスミスがテクノをやったというわけではない。シンプルな編成で、美しいメロディを持つ歌を演奏しただけであるのだけど。
満員の渋谷クラブクアトロ、まずは前座のウイリアムが登場する。このウイリアムは外国人でなく、日本人ひとりのユニット名である。まあ、コーネリアスみたいなものである。キーボードとギター&ベースの2人のサポートをつけて演奏している(普段は一人で弾き語りをやっているみたい)。1曲目はバッハのカノンに詞をつけたような美しい曲。詞はひらがなで書くような「きみ」と「ぼく」といういかにもの世界で、ひ弱で誠実そうなメガネ君が歌っているのでイメージそのまんまなんだけど、意外にも声に力がある。その声がひとつひとつ言葉を大事にしているので青臭いんだけども、素直に耳を傾ける気にさせる。それと、温かみのあるオルガンの音色がいい。彼はプロコル・ハルムとか絶対好きでしょう?あとは、くるりのフォークっぽいところが好きな人にもお勧めできる音楽だ。
そしてロン・セクスミス。気心知れた仲間とちょっと演奏しに来たんだよ、という感じで現れる。メンバーはギター、ベース、ドラムの3人。特にドラムはロンの古くからの友達のようだ。その4人から出てくる音は日常の生活から地続きのさりげない歌である。常々、人の声には金管楽器、弦楽器などに例えられると思っているのだけど、ロン・セクスミスの声は温かみがあって柔らかい木管楽器系である。この声でコンパクトにまとめられた曲たちが次々と演奏されていく。日々の暮らしの中に良いことも悪いことも夢もあるというように、音が特別に着飾ったりせず、普段着の感じがして心地よい。
それはジョージ・ハリスンを悼むために演奏されたビートルズの「I Need You」がサラリと演奏されたことによく現れている。「Here comes the sun」でも「Something」でも「Taxman」でもなく、初期のビートルズのこの曲を他の曲と違和感なく、セットリストの中にちょっと置いてみた、という気負いの無さがむしろジョージへの深い追悼になっているのである。
「Speaking With The Angel」から「Fallen」までのソロコーナーも良かった。「Speaking With The Angel」はドラムの人がチェロで伴奏をつけた。これは、素材さえよければ白いご飯に卵をかけて食べるのが、どんな料理にも勝る至福というのを音楽でやっているようである。
おそらく、アンコールの最後の最後まで引っ張って演奏すれば号泣者続出という「Secert Heart」もライヴの後半にポンと置かれてサラっと演奏されたように、何もドラマティックに演出することだけがエンターテイメントではないんだよということを教えてくれるようだ。お客さんと共にいる感覚、これがロン・セクスミスの一番の魅力だろう。もはや「お客さんの涙を絞り取ろう」とか「俺の歌を聴け!」という押し付けがましさもない。そんな彼のライヴは大切ないろんなことを示してくれたと思う。何かにこだわりすぎると、物事を見失う。いろんなことを捨てていって、そこに残るものがシンプルで美しいということ。ロン・セクスミスはたまたまフォークとかロックとかカントリーに影響された音楽をやっているのだけど、いろんなこだわりを捨てた眼から見ればテクノだろうがなんだろうがみな同じように楽しめるのだろう。
---setlist---
Thinking Out Loud
Cheap Hotel
This Song
Summer Blown Town
Right About Now
Just My Heart Talkin'
Fool Proof
Heart With No Companion
Tell Me Again
Strawberyy Blonde
Feel For You
I Need You
Speaking With The Angel
Pretty Little Cemetery
Words We Never Use
Fallen
(Pretty〜からFallenまで"Solo"と書いてありました。実際はSpeaking〜から)
River Bed
Thirsty Love
Tell You
Secert Heart
Clown In Broad Daylight
Seem To Recall
---encore---(?がついていました)
Don't Ask Why
Still Time
April After All
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report by nob and photos by hanasan
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