私がエリック・クラプトンのライヴを初めて見たのは、80年代の半ばになってからだ。学生の頃は、自分の好きなバンドのライヴ1本行くのも大変だったから、なかなか「ギター
の神様」にまで手がまわらなかった。それ以降は、来日すれば欠かさず見てきたものの、最近は客席が一番盛り上がるのが"LAYLA"ではなく"CHANGE THE WORLD"や"TEARS IN HEAVEN"。そんな光景をまのあたりにして、クラプトンのファンも変わったよなあとつくづく実感していた。 それでも今回懲りずにまた見に行こうと思ったのは、この夏「引退宣言」が出た後、もしかしたら最後の来日か?なんて言われたからだ。解散があれば再結成があり、引退があれば復帰がある。今時ミュージシャンのこの手の発言なんて絶対に信用しちゃいけないが、ともかく長年のファンとして心して刻みに行こう。そう決めて大阪から始まるツアーのうち2日間通うことにした。 初日19日はアリーナ19列め。さすがにいつもモッシュで大暴れなライヴとはずいぶん客層も違う。ああ、なんておっちゃん臭い連中の多いこと。いや、かくいう私もけっこう平均年齢上げてるのに違いないな。案の定、始まっても誰も立たない。もっともクラプトンも「こんばんわ」と挨拶した後は椅子に座ってアコギを弾き始めたから、これはこれで正しい聴き方か。 客席からのテンポのいい手拍子に乗ってアンプラグドのブルース"KEY TO THE HIGHWAY"でのスタートは上々。続いてバックの面々も揃ってまるでラリー・カールトンのフュージョン(懐かしい!)みたいな"REPTILE"へ。ステージの左手にはギターのアンディ・フェアウェザー・ロウ。右手にベースのネイザン・イースト。ドラムはそのハイハットですぐにわかってしまうスティーヴ・ガッドだ。そして左右にもう一人ずつキーボードを従えて、ほんとに気持ちよさそうな演奏が続く。歓声の上がった"TEARS IN HEAVEN"に続いてさらに大歓声はアコギ・レイドバック・ヴァージョンの "LAYLA"。あ〜、ここでやっちゃうか。今日はこれエレキのフル・ヴァージョンで例の♪タリラリラリラ〜を刻みたかったのに。それにしても初日とは思えないぐらいヴォーカルも力入ってるぞ。アンプラグドで大ヒットした曲にはどっか冷めてた私だが、やっぱりいい歌なんだなと改めて感心。 クラプトンが立ち上がり、ブルーのボディに赤や黄のサイケデリックなペイントのエレキに持ち替えると、そこからはエレクトリック・セットだ。"MY FATHER'S EYES"の何気ない間奏でもやっぱり弾きまくり度はアコギの時とは雲泥の差。"BADGE"でのいつものサイケデリックなライティングと、頭のコーラスから弾きまくりフレーズに至るところ で、彼がおもむろに足元のペダルを踏むまでの間。"HAVE YOU EVER LOVED A WOMAN"でのキーボードのヘタさ加減。客席と大合唱の"COCAINE"。一つ一つ刻みながら進むステージは、ラストに例の♪タリラリラリラ〜のフレーズが聴こえた瞬間、文句なしの総立ちに。そうなのだ。やっぱり"LAYLA"はこうでなくちゃいけない。泣く子も黙る1曲じゃなきゃいけないのだ。 アンコールの"SUNSHINE OF YOUR LOVE"ではアンディ、ネイザンもそれぞれに力の入ったヴォーカルを聞かせ、再び椅子に座ったクラプトンがメンバー紹介に続いて歌い始めたのは、何と"SOMEWHERE OVER THE RAINBOW"。もちろんこんなスタンダードを歌うクラプトンなんて初めてだ。引退なんて言いながら、彼が「虹の彼方に」夢見ているものは何なのだろう。これまで見てきた彼のライヴやいろいろがこみあげてきて、何だかじーんと来てしまった。お見送りのBGMもそのギターが流れ続け、静かに癒された心地で会場を後にする。 続く21日はアリーナ9列め。おとついよりもずいぶん近いぞと喜ぶ。お客もオープニングから総立ちで、今日はノリが良さそうだ。客席からは「神様〜!」なんて声も飛ぶ。セット内容は19日とほぼ同じだが、ブルース・コーナーのところが"STORMY MONDAY"に。おお、ラッキー!と思ったが、この後"WONDERFUL TONIGHT"もなく、アンコールも1曲のみであっけなく終了。どうしたのだろう。決して調子は悪くなかったんだが。クラプトンのライヴ封印を刻むには少々あっけない幕切れになってしまった。 こういうことがあるから通わないとダメなんだよなと自分を納得させて帰途につく。翌22日はまたこの日やらなかったナンバーも復活したそうだし、まだ1ヶ月近く続く来日公演なのだ。果たしてどう変わるものやら。きっと引退宣言だって、そのうちひっくり返るに違いない。でもいい。その時はまた騙されてあげるとしよう。結局ファンにはそれが幸せなんだからね。 --- SET LIST(19th) --- Acoustic set:
1.KEY TO THE HIGHWAY Electric set:
8.MY FATHER'S EYES --- ENCORE---
19.SUNSHINE OF YOUR LOVE --- SET LIST(21ST) --- Acoustic set:
1.KEY TO THE Electric set:
8.MY FATHER'S EYES --- ENCORE 18.SUNSHINE OF YOUR LOVE Reported by Ikuyo Kotani
無断転載を禁じます。The copyright of the text belongs to Ikuyo Kotani. They may not be reproduced in any form whatsoever. To The Top. |