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この夏、私の初めてのフジロック参戦の日のことだ。ようやくグリーン・ステージにたどり着いて、さて、どうしようかと思っていると、その音が鳴り響いたとたん、それまでまわりでなごんでいた皆がいっせいにステージ前方をめざして駆け出した。あっちからもこっちからも人がどんどんステージへ駆け下りていく。その光景に「え?いったい何が始まるの?」とわけもわからずにいた私。それがドロップキック・マーフィーズだったのだ。暴れ者ご用達と思いきや、突然始まるバグパイプ。かと思えばホットハウスのリアムもまっつあおの "AMAZING GRACE" の爆走パンク・ヴァージョン。ケルトの音も、パンクもどちらも好きだけど、それが合体したらどうなるかなんて、この瞬間まで想像したこともなかった。 あれから3ヶ月あまり。ツアー最終日の大阪で開場を待つ連中の「モヒカン度」の高さにはさすがに恐れをなして、カウンター避難を決めていた。だが、突然客席がざわめき、片隅の人だかりを発見。片手に缶ビール、片手に黒マジック持参と、やる気満々(笑)で登場したのは何とスパイシー。皆の着てるTシャツやら何やらにサインの大サービスだ。私もさっそくCDのジャケットを持って走る。 ♪レッツ・ゴー、マーフィーズ! チャッチャッ、チャチャチャ! 今時珍しいぐらいまっすぐなパワーを感じさせたサポートのユース・アンセムが終わり、客電が落ちると同時に沸き起こるマーフィーズ・コール。それに応える「レッツ・ゴーオオサカ〜!」の雄叫びと共に"FOR BOSTON"でスタート。フロアはさっそくモッシュ&ダイヴの無法地帯と化す。その後はもう曲の区別などなく、始終人が泳ぎ、合唱が起こり、オイ!オイ!の声が走る。ジャカジャカうるさいぐらいのパンクの爆走リズムとその中で負けずに鳴り響くバグパイプや笛のメロディ。ケルトもパンクも、高速で走る時には、案外似たとこがあるのだとつくづく感心させられる。ベースのケンが「ヤマトダマシイ!」なんて叫んだかと思うと、同時多発テロ事件の犠牲者に捧げるとコメントして"AMAZING GRACE" へ。バグパイプで一瞬、神妙に始まってもやっぱり爆走ヴァージョンに。 ステージは、最新作『SING LOUD, SING PROUD!』を中心に"FAR AWAY COAST"などアコギのナンバーも織りまぜて2分少々の曲で次々飛ばしていく。"A FEW GOOD MEN"はまさにサビのフレーズどおり、「大きな声で誇らしく」の大合唱だ。終盤"GOOD RATS"では、「ほらほら、みんなステージに来いよ」とお誘いが。確か東京では女の子でいっぱいだったはずだが、大阪ではパンク野郎が勢揃いでメンバーと共演。ダイヴ無法地帯だったフロアもいつしか皆仲良く揺れていて、何ともいい雰囲気だ。そして本編のラスト、しばらく思い出せなかったその曲は、"CAREER OPPORTUNITIES"。そう、この間ジョー・ストラマーはやらなかったクラッシュのナンバーだ。あまりにマーフィーズにもなじんでてわからなかったな。アンコールは、スパイシー・コールとバグパイプが走る"SPICY MCHAGGIS JIG"から。そしてラストの"SKINHEAD ON THE MBTA"では何とケン親父が客席ダ〜イヴ! おいおい、おっちゃん大丈夫かいな!と思わず心配したが、大盛り上がりのうちにエンディングとなった。 ホットハウスのリアムやジョー・ストラマー等々、自らのルーツとしてのアイリッシュ・トラッドあるいはケルト音楽と、自己の音楽とを往復するミュージシャンは他にもいるが、爆走パンクとこんなに幸せな合体ができるのはマーフィーズだけだろう。遅ればせながら、あの時、苗場でグリーン・ステージに向かって駆け下りたみんなの思いがほんとよくわかったよ。次は私も最前狙いでダッシュかな? --- SET LIST ---
1. FOR BOSTON ---Encore---
20.SPICY Reported by ikuyo |