前夜祭、トリのTHE 3 PEACEが終わって、DJ MAMEZUKAが20分ほどの、その日最後の短いセットを廻していた。Talvin Singhの"ok (remix)"、そしてDEEP FORESTでセットはフェード・アウトした。 当然もっと踊っていたいという声が、レッド・マーキーのあちこちから聞こえる。えぇっ、というフロアに上がったブーイングに向かって、DJ MAMEZUKAがマイクもなしに声を張り上げて、こう叫んだ。「みなさん、FUJIROCK、三日間最後まで楽しみましょう!」
2日目の午後のグリーン・ステージをどこか土の匂いのする、優しい歌声で包んでいたのは、アイルランドのバンドだった。山の稜線を見上げると緑が眩しい。だれかが掲げた緑とオレンジと白の三色旗が、モッシュピットをすり抜ける涼やかな風になびいていた。 「You can love me now〜」 リアムの声に誘われるようにみんなが口ずさむ。みんな、ほんとうにピースな笑顔をしていた。ぼくにはそのフレーズがなぜか"You can love you all"と聞こえた。 だれでも、みんなのことを好きになれる。あなただって。FUJIROCK FESTIVALという場所で、HOTHOUSE FLOWERSの音楽を前にしたときに。いや、音楽の種類なんて関係なしに。そこにいれば。そんなふうに聞こえた気がした。 最終日、もうグリーンは閉鎖されて、真っ暗でだれも残っていなかった。レッド・マーキーの最後のパーティーもたぶん終わっていた。時間は朝の4時をまわっていたし、山の頂きの先に見えてた銀色の染みのような星が、だんだん白んでいく青白い朝日に掻き消されそうになっていた。それでも山はまだ黒々と聳えていたけれど。 ワールド・レストランのbig cakeの前で、ぼくは仲間と飲んだくれて、大将がプレイする古い7'の曲で踊っていた。この3日間(前夜祭からだから4日間か)で、そのときがなぜか一番楽しかったなあ。作業から解放された気持ちと、ワインとラムをちゃんぽんで飲んでたからかもしれないけど。そんなときにかかったのが "Satisfaction" 。 ぼくはMichaelにこう叫んだ。「Michael、3日間以上もここにいるのに、I can get no satisfaction や」 「ナンデダヨ〜。イイカゲン、マンゾクシロヨ!」 「No ! I want more more more more more more more more ! 」 空は薄い透明な水色で、綺麗に晴れていた。だからかなあ、大将が " 雨を見たかい"をかけたのは。どうだって感じで空を指差してた。この4日間、晴天とは言えなくても、本当に天気には恵まれたFUJIROCK FESTIVALだった。
![]() 最後にNO BRAINの問題も触れなければならないかな。彼らのしたことと、それが巻き起こしたいろいろな議論について、みなさんも御存じの通りだと思う。個人的には、歴史なんて学者が定義づけることで、いろんな見解があるのは公平なことだと思う。ただ教科書を使って学ぶのは、将来大人になる子供たちだ。もっと将来に対しての社会的なコンセンサスを煮詰めることなしに、過去のことに対して、右とか左とか体制、反体制とかそれぞれの物差しを振りかざすだけの議論は、なにも生まないような気がする。 ぼくはただ、たとえ合法的な手段だとしても、人殺しはしたくない。自分の子供にもさせたくない。他のどんな子供たちにも。 それだけだ。前夜祭でバグパイプの"Amazing Grace"を聞いた人は思い出してほしい。ソウル・フラワーの"アリラン"を聞いた人、EMINEMの"ピース"という言葉を聞いた人、oasisのリアムが観客に向けた拍手を見た人、最後のグリーンでフェルミンの大渦に巻き込まれていた人たち、そしてもっともっとたくさんの、みんなの心に響いた曲を、出来事を思い出してほしい。 それでもまだ、後味の悪いフェスだったんかな? こんなにピースな雰囲気に包まれた場所は、一年のうちの3日だけ、あの場所にしかない。でもぼくはそれが365日、ごくごくふつうに生活してるなかで、あたりまえのように存在していてほしい。月曜日の朝を迎えたオアシスを歩いているとき、心底そう感じた。 夢を見てるって言われるかもしれないけど、でもぼく一人じゃないはず、やろ? そして来年はきみも加わってると思うし、ね。 Reported by 児玉憲太郎. 無断転載を禁じます。The copyright of the text belongs to 児玉憲太郎 and the same of the photos belongs to Koichi Hanafusa. They may not be reproduced in any form whatsoever. To The Top. |